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創造性とITツール利用に関する国内企業の実態調査、若い世代はITツールの弊害も強く実感

ビジネスのひらめきは“非公式な場”から生まれる ―Dropbox企業調査

2020年01月27日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 Dropbox Japanは2020年1月24日、国内企業における創造性とITツール利用に関する実態調査の結果を発表した。ITツールの導入によるメリットと同時に「弊害」を実感する割合が、若い世代ほど高いことなどが明らかになっている。

 同日の記者発表会では、Dropbox Japan ジャパンマーケティングリードの上原正太郎氏が調査結果の概要やそこから得られる洞察を紹介したほか、法政大学 経営学部・准教授 博士(商学)の永山晋氏をゲストに招き、創造性を高めるチーム/組織づくりのあり方とITツールの関係などについて、Dropbox Japan 社長の五十嵐光喜氏とのクロストークセションを行った。

調査結果より。若い世代のほうがITツールの業務利用メリットを強く実感しているが、他方でその弊害も強く感じている

Dropbox Japan 代表取締役社長の五十嵐光喜氏

同社 ジャパンマーケティングリードの上原正太郎氏

仕事に集中できない ―若い世代が強く実感する「ITツールの弊害」

 今回の調査は、日本国内のナレッジワーカー/企業・組織の有職者を対象として、2019年10月にインターネット調査で行われたもの(調査実施はマクロミル)。22~69歳の男女、800名が調査対象となった。なお本調査が定義する「ITツール」には、Dropboxなどのファイル共有ツールをはじめ、メールや社内チャット/SNSなどのコミュニケーションツール、オフィススイートなどのドキュメントツールといったものが含まれる。

 まず、ITツールの利用によって「業務効率が上がった」と実感している回答者は、全体の約4割(39.3%)だった。そのほかポジティブな回答としては、「業務上のやり取りにおけるストレスが軽減した」(38.8%)、「仕事相手とのやり取り・コラボレーションがしやすくなった」(35.9%)などの回答が多かった。

 ただし上原氏は、この設問では「世代間ギャップ」も浮き彫りになったと指摘する。たとえば仕事相手とのコラボレーションについて、20代では56.8%が「しやすくなった」と回答しているが、それより上の世代は30%台にとどまり、特に50代は30.7%と大きなギャップが見られる。

 もうひとつ、特に若い世代では、ITツール利用のポジティブな点と同時にネガティブな点(=弊害)を指摘する回答も多かった。たとえば「時間外、休暇中にも仕事のメールやチャットを確認・対応することが増えた」(20代で47.7%)、「同時並行で多くの仕事に追われるようになり、新しいアイデアを考える時間がなくなった」(同 36.4%)といった声は、上の世代よりも強い傾向が見られる。

 「若い世代では、業務におけるITツールの活用度が高いぶん、その『弊害』も強く感じているのではないか。これはわれわれとしても意外だった点だ」(上原氏)

ITツールの利用効果に対するポジティブ/ネガティブな実感(全年齢層総計)

 またITツールの弊害として、「仕事中に立ち上げなければならないツールが多すぎて、気が散ってしまう」という回答も少なくない(全体で30.9%)。タスクごとに細分化された業務アプリケーションがそれぞれに「通知」を発する現状が、業務への集中を妨げている側面があるようだ。Dropboxでは、今後さらにITツールが浸透するにつれて、こうした業務上の弊害も加速することが示唆されると述べている。

 「ある研究データによると、何か集中して作業をしているときに話しかけられたり、(ITツールの)通知が来ていったん手が止まったりすると、ふたたび元の作業で“集中モード”に戻るためには平均で23分もかかるという。せっかく仕事でノっていたのに邪魔されて、集中できないまま一日が終わってしまうということも往々にしてある」(上原氏)

アイデアやひらめきにつながる情報交換は“非公式な場”で生まれる

 次に、企業やチームとしての「創造性」に関する調査結果が紹介された。

 まず、自分の所属する企業や組織について「事業の収益性」「事業の成長性」「従業員の業務に対する満足度」の点で高い評価をした回答者(以下「好調な企業」の回答者と呼ぶ)では、異なる世代や立場の人を巻き込んでオープンにディスカッションし、新しい“ひらめき”のもとでビジネスを行う「オープンコラボレーション」を重要視する傾向が強かった。オープンコラボレーションを「とても/やや重要だと思う」回答者は、全体では69.9%だったが、「好調な企業」の回答者群に限るとそれぞれ約80%に達する。

事業の収益性や成長性、従業員満足度の高い企業群では「オープンコラボレーション」を重要視する傾向が強い

 また「新規事業立ち上げや業務改善に役立つ新しいアイデア、ひらめきを得るために必要なこととは」という設問において、「好調な企業」の回答者群では特に「実際に現場を見たり、その状況を把握できるシステムやツールの導入」(40%強)、「プライベートな時間を作るための休暇を取りやすい環境づくり」(35%前後)などを強く重要視している(全体平均より5ポイント以上多い)ことがわかる。

 「複数人がコラボレーションしてプロジェクトを進める場合、自分のタスクが終わったあと、次の人のタスクがどうなっているのか、プロジェクトのステータスが可視化されていないと、自分がいくつかのプロジェクトを並行して進めるのが困難になる」(上原氏)

「ひらめきを得るために必要なこと」の設問では、情報共有やステータスの可視化、多様性に富んだ社員、アウトプットに対する適切な評価などの回答が多く挙がった

 社内の誰が率先して新しいアイデアを思いつくのかという設問では、「いろいろ考えることが好きな一部の人」(32.9%)、「意思決定者や上の者が中心」(27.4%)という回答が多く、「みんなが積極的に思いついている」(16.9%)全体の創造性が高い企業/チームは少ない。ただし、事業の成長性が高い/従業員の業務満足度が高い層では、その回答が24%強と平均より高い水準を示した。

 それでは、アイデアやひらめきはどのような社内の場の情報交換から生まれているのか。上述した「みんなが積極的にアイデアを思いついている」層では特に、「自分のデスクでの雑談」(51.1%)、「社内コミュニケーションスペースや休憩室などでの雑談」(44.4%)、「ランチタイム」(34.1%)、「飲み会」(33.3%)といった“非公式な場”が、「定例会議」(13.8%)、「社内掲示板」(9.6%)、「Slackなどの社内SNS」(8.1%)など“公式の場”よりも大幅に高い結果だった。

 「ほかにも『打ち合わせの場での雑談』(34.1%)という回答も多かった。一方でITツール、たとえば社内掲示板、社内SNS、メールスレッドなどは意外と少なかった。これらは『情報交換の場』というよりも連絡事項をやり取りする場となり、ある種形骸化しているのかもしれない」「オフィスのコミュニケーションが20年、30年と変わっていない、“化石化”したコミュニケーションの企業も多いのでは」(上原氏)

「社内でアイデアを出す人は誰か」と「アイデアやひらめきにつながる情報交換の場」。“非公式な場”での情報交換がひらめきにつながるとする回答が多い

 調査結果のまとめとして上原氏は、今後ITツール利用の浸透で「仕事に集中できない」といった弊害への対策も必要になるのではないか、また「好調な企業」ではオープンコラボレーションを重要視していることから、業務における「より良いコラボレーション」や「ひらめき/創造性」に関するディスカッションを喚起することで企業の成長につなげられるのではないか、と語った。

アイデアを生み出す“3つの脳機能”、それを阻害する職場環境とは?

 発表会後半では法政大学 経営学部 准教授の永山晋氏、Dropboxの五十嵐氏をまじえたトークセッションが行われた。

法政大学 経営学部 准教授 博士(商学)の永山晋氏(左)。経営学領域で組織論、特にチームのクリエイティビティを研究対象としている

 今回の調査結果について永山氏は、そもそも創造性はどう高められるのか、新たなアイデアがどのようにして生まれるのかを説明した。脳科学における最新の知見によると、脳には「3つの機能」があり、この3つが有機的に組み合わさって機能することで、新たなアイデアが生まれやすくなる(=創造性が高まる)という。

 その3つの機能とは、ぼんやりしているときや思索にふけっているときに活発になる「DMN(デフォルトモードネットワーク)」、アイデアを論理化したり言語化したりするときに活発になる「EN(エグゼクティブネットワーク)」、そしてDMNとENの切り替えを行う「SN(セイリエンスネットワーク)」である。SNは、漠然とした考えからいくつかの選択肢を決める役割も果たすという。

 「たとえば、ツールの通知が多くて『集中できない』のはENの働きを阻害する。同様に『考える時間がない』のはDMNの働きを、『チームで雑談する時間や場がない』のはSNの働きを阻害する。職場環境がどれもこれも阻害しているならば、アイデアは出てこないはずだ。先ほどの調査結果は、これら3つをすべて阻害している(ケースが多い)のではないかと見ることができる」(永山氏)

内的に思索するDMNと外的に論理化/言語化するEN、この両者を切り替えるSNの3つがうまく機能することで、アイデアが生まれやすくなると説明

 また年齢層によるデジタルデバイドについては「それそのものをどう解決するのかはとても難しい」としつつ、年齢によって創造性を高めるために「持つべき知識の種類」が異なることを説明した。若年層の場合は「深い専門的知識」を、高年齢層の場合は「幅広い知識」を多く持つことで創造性を高められるという研究結果がある。

 「つまり、組織として創造性を高めるためには、若手とシニアが協力しなければならないということ。両者がひとつのチームになって取り組むことで、組織の力を最も引き出すことができる。したがって、デジタルデバイドが存在することは組織にとっては良くないと言える」(永山氏)

 また五十嵐氏は、デジタルデバイドを克服していくために「機能ごとの使いやすさに焦点を当てたツールの提供がより重要になってくる」と述べる。ITツールベンダーとして、企業システム/業務アプリケーションにももっとボトムアップのテクノロジーを取り入れて、「まずは利用という面でのデバイドを埋めていかなければならない」とコメントした。

 「永山先生が説明されたセイリエンスネットワーク(SN)、あるいは調査では『自分のデスクでの雑談』が有益という結果もあったが、たとえば50代の方と20代の方がデスクで雑談するのはなかなか難しいだろう。また、会社の飲み会などにも参加しなくなっている。そこをわれわれツールベンダーがどうつなげていくのか。さらには部署やフロアが違う、本社と支社で離れているといったこともある。そこをデジタルツールで、ギャップをぐっと縮めることができるか、コミュニケーションの場をどう提供できるのか、そうした方向に向かっていきたい」(五十嵐氏)

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