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嗅覚や味覚、皮膚感覚など、ロボが検知できる革新的センシング技術の最先端を研究者が発表

連載
「NEDO AI&ROBOT NEXT シンポジウム」レポート

 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2020年1月16日・17日の2日間、シンポジウム「AI&ROBOT NEXT」を新宿LUMINE 0(ルミネ ゼロ)にて開催した。会場では、国内で研究が進められている次世代の人工知能技術、革新的なロボット技術の講演とポスター展示、ロボット展示が実施された。ここでは、16日午後の講演「革新的ロボット要素技術分野の発表その1:革新的なセンシング技術(スーパーセンシング)」と「AIコンテスト」をレポートする。

  「革新的ロボット要素技術分野の発表その1:革新的なセンシング技術」では、匂い、触覚、脳波、味覚など、7件のセンシング技術の研究成果が発表された。

人検知ロボットのための嗅覚受容体を用いた匂いセンサーの開発

 神奈川県立産業技術総合研究所の大崎寿久氏は、東京大学生産技術研究所、住友化学株式会社との共同研究による匂い受容体を用いたセンサーのプロジェクトを紹介。

 センサーユニットは2センチ角ほどの大きさで、蚊の嗅覚受容体を人口細胞膜に埋め込み、匂い分子が吸着するとイオン電流が流れて匂いを検知する仕組みだ。

 2016年には、ヒトの汗の匂いを検知するとロボットが動くデモが発表され、多くのメディアでも取り上げられた。現在は、さらにセンシングを高めて、動的なにおいの変化に追従するセンサーの研究開発を進めている。

大崎寿久氏(神奈川県立産業技術総合研究所人工細胞膜システムグループ・サブリーダー)

次世代ロボットのためのマルチセンサー実装プラットフォーム

 人の知覚は、目や耳から入る情報だけでなく、周囲のあらゆる気配を敏感に察知できる。ロボットに同様の知覚をもたせるために多種多様なセンサーを搭載しようとすると、配線や接続方法が課題となる。

 東北大学の室山真徳氏は、多数個のセンサーを統合できるプラットフォームを開発。実証では1つのバス上で100個以上のセンサーの接続に成功しており、配線を増やすことなく、多数のセンサーを実装でき、応答性にも優れたシステムを構築可能だ。汎用性をもたせるため、1つの基盤に4つのセンサーを搭載した標準モジュールを開発し、ロボットのデモストレーション用に複数のモジュールを組み合わせて提供している。

室山真徳氏(東北大学マイクロシステム融合研究開発センター准教授)

ロボットの全身を被覆する皮膚センサーの確立と応用開発

中妻啓氏(熊本大学・助教)

 熊本大学では、ロボットの全身を覆う人間の皮膚のような触覚センサーを開発している。圧電膜をゾルゲスプレー法で塗布することで、あらゆる形状の物体表面に密着、被覆する力分散センサーを実現できる。

 NEDOのプロジェクトでは、大きな面を連続的にスプレーする技術と、曲面に均一塗布する技術を開発し、人の皮膚感覚と同程度のセンシング性能を実証。2019年9月には、熊本大学発ベンチャー「株式会社CAST」を設立し、圧電センサーの事業化、社会実証を目指す。

超低侵襲、超低負担な神経電極デバイス技術のBMI応用

 豊橋技術科学大学の河野剛士氏は、脳の信号を使って外部機器を操作するための超低侵襲な神経電極デバイスを紹介。同大学のチームが開発した神経電極デバイス「豊橋プローブ」は、直径わずか5マイクロメートル、長さ400マイクロメートルの極細デバイスで、低い侵襲性による安定的な神経計測が可能だ。

 従来の神経電極デバイスは太さ数十マイクロメートルが一般的で、脳の損傷が大きく、神経細胞を傷つけやすい。豊橋プローブを用いることで、これまで計測が困難だった数ヵ月間にわたる長期間の計測も実現できているという。今後、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)への利用のほか、疾患モデルマウスに適用することで、神経系疾患治療への市場展開も期待される。

河野剛士氏(豊橋技術科学大学・准教授)

脳波をスイッチにしてヒト型ロボットを操作

 産業技術総合研究所の長谷川良平氏は、脳波スイッチでヒト型ロボットを制御するBMI技術を紹介。ヘッドギアとパターン識別で脳波スイッチを実現し、ロボットを制御するというもの。用途として、自分で体を動かせない筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の意思伝達や日常生活の支援を想定。将来的には、認知賞の早期発見や、脳トレゲーム、ハンズフリーのロボット制御などへの展開も検討しているそうだ。

長谷川良平氏(産業技術総合研究所 人間情報研究部門 ニューロテクノロジー研究グループ)

ロボットに実装可能なMEMS味覚センサー

 富山県立大学の野田堅太郎氏は、ロボットに実装可能な化学物質をリアルタイム計測するMIMS味覚センサーを紹介。開発した味覚センサーは、食品加工ラインやジュースサーバーでの加工中に味の変化を計測することを想定しており、電気的にSPRを検出する透過型SPRセンサーにより、小型(10×10×1ミリ)で高速応答できるのが特徴。現在、塩分計スプーンに組み込まれて実用化されているそうだ。

野田堅太郎氏(富山県立大学 工学部 知能ロボット工学科 講師)

味覚センサーの高機能化による食品生産ロボットの自動化

 九州大学の田原祐介氏は、食品生産ロボットの自動化に向けて、さまざまな味を検出する味覚センサーを紹介。九州大学は、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジーの共同研究により、人工甘味料、塩味、酸味、苦味、うま味を検出する「日本初・世界初の味覚センサー」をすでに市販化している。今回のプロジェクトは、この味覚センサーの技術を発展させ、原料から製品までを管理する食品生産ロボットの自動化を目指すものだ。味をデータベース化し、味とコストを考慮した原料を最適設計することで、原料のコストダウンと品質の安定化が図れる。

田原祐助氏(九州大学 五感応用デバイス研究開発センター 准教授)

スタートアップ6社が登壇「AIコンテスト」

 「AIコンテスト」のセッションでは、「NEDO AIベンチャーコンテスト」に採択されたスタートアップ6社の研究成果と、アドライトが企画運営するAIスタートアップ向けのコンテストの概要が発表された。

パスタを定量でピックアップするAIを開発

 パスタのような非定型で粘り気のあるような食品は、ロボットの作業では誤差が発生しやすく、食品加工工場での自動化が難しい。株式会社DeepXは、人手による作業を参考に、麺の見た目の状態や麺に触れたときの反力から掴む位置や力加減を調整し、定量でピックアップするAIアルゴリズムを開発。自動化機器メーカーのイシダと連携し、盛り付け作業を自動化するアームの開発を進めており、2020年中には販売を開始する予定だ。今後は、パスタ以外の食品への横展開も想定している。

株式会社DeepX CEO那須野薫氏

AIによる高純度間葉系幹細胞の品質管理システムを開発

 名古屋大学大学院創薬科学研究科(加藤研究室)と島根大学発のバイオベンチャーPuREC株式会社の研究チームでは、画像解析と先端AI技術を組み合わせ、再生医療用細胞の品質検査システムの開発に取り組んでいる。

 現在の医療用細胞の製造は、人の目視によって品質を管理しているため、大量生産が難しい。このプロジェクトでは、PuREC株式会社の高純度化・大量製造技術と、名古屋大学の細胞解析に特化した画像解析とAI学習技術を組み合わせ、画像のみから品質の判定が可能なREC細胞AI細胞品質評価システムを開発。従来3ヵ月×3000円かかっていた実験費用が、わずか1日で費用なしに削減できるという。この技術を応用し、さまざまな細胞の品質管理やモニタリングに使えるサービスを構築中だ。

名古屋大学 准教授 加藤 竜司氏

機械学習を用いた認知機能リスク因子の探索

 株式会社MICINは、血管性認知症のリスク因子となる微小脳梗塞(CMI)を発見するAIアルゴリズムを開発。CMIツールは、検診センターへの提供を想定。通常の検診のみでCMIリスクがわかることで、早い段階で追加検査や治療へと促せる。現在は実用化に向けて、CMIツールの精度の向上とCMI増減予測器の開発に取り組んでいる。

株式会社MICIN 代表取締役CEO 原聖吾氏

群制御AI・クラウドを活用したロボットソリューションの構築

 労働力不足の解消にロボットへの期待が高まっているが、実際の導入はまだあまり進んでいない。その原因は、1台1タスクの専用ロボットで、汎用性・柔軟性が低いことだ。Rapyuta Robotics株式会社は、より汎用性の高いロボットを目指し、Androidスマホのようにクラウド経由でさまざまなハードを管理・制御できるプラットフォーム構築を目指している。

 NEDOのプロジェクトでは、複数ロボットの群制御AIの開発に取り組んでおり、導入事例として、日本通運のピッキングAMRロボット、日本郵便の物流センサーの自動化、自動フォークリフトを紹介。ビジネスモデルとしては、ロボット1台当たり月額3万円を予定している。

Rapyuta Robotics株式会社 代表取締役CEO ガジャン・モーハナラージャー氏

MI(マテリアルズ・インフォマティック)による材料探索に関する調査研究

 MI-6株式会社は、素材開発を効率化するMI技術に特化した東大発スタートアップ。従来の人手による素材開発は、実験の評価測定と探索の繰り返しに膨大な時間がかかっていた。このプロセスにデータサイエンスを活用して、開発期間を大幅に短縮できる。AIアルゴリズムを搭載したSaaS型の材料開発支援ツール「MIクラウド」をリリース予定。またデータサイエンスとロボティクスを融合させ、単純な実験作業を自動化するロボットの開発を進めている。

MI-6株式会社 代表取締役 木嵜基博氏

AI/クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム

 近年の登山ブームにともない、遭難者も急増しているそうだ。ドローンを使った捜索も行なわれているが、広大な範囲をパイロットが操縦し、得られる膨大な画像からの捜索も人に依存しているのが現状だ。ロックガレッジは、広大な捜索範囲を複数のドローンが自動捜索し、大量の画像データをAIで解析して、さらにクラウドソーシングによって複数の人の目で捜索する仕組みを提案。捜索の効率を上げるため、樹木が生い茂っているエリアを除外してAIがルートを自動生成する捜索エリアの絞り込み機能も備える。

ロックガレッジ 代表取締役 岩倉大輔氏

「HONGO AI Award」受賞14社とのマッチングイベントを開催

アドライト 代表取締役 木村忠昭氏

 大企業向けのイノベーション創出のコンサルティングとスタートアップ育成支援事業を展開するアドライトは、NEDO事業委託のもと、AIスタートアップの研究開発を促進する「HONGO AI」を運営している。2019年には、AIスタートアップのコンテスト「HONGO AI 2019」を開催し、14社が「HONGO AI Award」に選定された。2020年2月14日には、受賞スタートアップ14社と事業会社とのマッチングイベント「NEDO AI Startups Matching」を国際フォーラムにて開催される。

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