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エンジニアは技術スキルだけでは生き残れない?

アデコの派遣エンジニアがコンサルまで始める2つの理由

2020年01月23日 16時00分更新

文● 指田昌夫 編集●大谷イビサ

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 人材サービスの世界最大手であるアデコグループの日本法人が、今年7月にグループ企業でエンジニア派遣を行うVSNとアデコのエンジニア派遣業務を統合し、グローバルブランドの「Modis」としての展開を開始する。サービス名称は「Modis VSN」。2020年1月22日に代表取締役社長の川崎健一郎氏が記者会見に登壇。ブランド統合に合わせ、同社ではエンジニア人材にコンサルティング業務を追加していく方針を明らかにした。

アデコジャパン 代表取締役社長 川崎健一郎氏

ITエンジニアの単価を上げ、スキルアップを図る

 川崎社長はエンジニア人材派遣のVSNの社長出身。2012年にVSNがアデコグループに買収され、2014年アデコジャパンの社長に就任。VSNの社長も兼任する。同社では2011年からコンサルティング込みのプロジェクトを始めているが、年々その規模は拡大し、2019年では新規に317件を獲得。累計では1250件が実施されている。この増勢を受け、同社ではコンサルティング業務のさらなる強化を進める。

 川崎社長は、「エンジニアにコンサルティング業務を乗せて提供する方針を決めた理由は大きく2つある。1つはエンジニアの単価アップ、もう1つはエンジニアのスキルアップのためだ」と語る。

 ITエンジニア派遣の単価は、高いところでも時給5000円程度。一方でITコンサルタントは大手コンサルティングファームの場合、時給換算で3~5万円にもなる。このギャップを埋めるポジションの業務を狙っている。

新しいマーケットへの調整

 もう一方のスキルアップについては、VSNがITエンジニア1000人に対して行なったアンケート結果を引き合いに出す。全体の55.9%が「技術的スキルだけでは生き残れない」と答えたという。この回答は高齢になるほど高くなっていた。また、技術以外に必要な能力を聞いたところ、1位が「コンサルティング力」だった。

「コンサルティグへの本格進出のきっかけは、実はエンジニアからの声でした。VUCAと呼ばれる不確定な時代にあって、派遣エンジニアも言われたことをやるだけでは価値を提供できなくなっていることを、彼らは現場で痛感していたのです。課題発見や改善提案の能力を備えた人が、これからの時代は最強のエンジニアとなっていくと思います」(川崎氏)。

 実際に同社の派遣エンジニアが行うコンサルティング業務は、専門のITコンサルタントが行なうものとは少し違っているようだ。どちらかといえば開発プロジェクトがある程度具体的になっているところから入っていき、課題を解決しながら要件定義を顧客とともに固めていく。そして開発に入ってからは技術者として働く。この両面を受け持つ。

 複合的なスキルを身につけさせるために、アデコ社内の研修や教育制度も充実させた。現在57コース、225のクラスでコンサルティング、エンジニアリングのスキルアップにあたる。社内の認定コンサルタント資格も作り、ステップアップを図ることができるという。

 さらに、より上流、つまり経営課題にも解決策を示していけるように、同社ではコンサルティング専門の部署を新設。エンジニアではない専任のコンサルタントがより大きな課題の解決策を提示できる体制を作った。

手戻りを減らしてエンジニアの生産性を上げる

 派遣エンジニアがコンサル業務を行なうようになって、同社では単価アップ以外にも、2つの好循環が起きていると川崎社長は話す。

 1つは派遣されたスタッフの現場経験が充実することだ。「ただ業務を与えられて現場に入るだけですと、往々にして計画通りにいかないケースも多く、大幅な手戻りが発生する場合もあります。そうならないように、要件定義の段階から現場の顧客と会話を進めていくことが課題の発見と解決につながります。特に若手のエンジニアは、コンサルティングの段階から現場に入ることによって、必然的にプロジェクト・マネジメントの経験も積めることになります」(川崎氏)

 そしてもう1つのメリットは、そのように課題を探しながら対応していく業務が結局は納期も短く済み、エンジニアの回転率も上がることだ。「深刻なエンジニア不足の昨今、開発時のトラブルを未然に回避することでプロジェクトを短期で終了できることで、エンジニアを次の現場に向かわせることができます」(川崎氏)

 一見すると、コンサルティング業務は顧客への対応が増えるイメージがあるが、むしろ開発中のムダが少なくなれば完了も早まる。結果としてアデコ(VSN)のエンジニアも手離れがよくなり、受注も増やせる。まさに「急がば廻れ」ということか。

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