このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

各ジャンルのエンジニアはre:Inventのどこに注目したのか?

re:Capだけじゃない!NW-JAWSとTech-onが合同イベントを開催

2020年01月23日 07時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 都内某会場にて、NW-JAWSとTech-onが合同イベントを開催した。タイミング的に、どうせまたre:Inventの話でしょって思った? 確かにテーマは「re:Inventの発表を振り返るre:Cap祭り!!」なんだけど、切り口がちょっとばかり偏っている。さらに、やってみた系ネタも多い。そんなこと言って良いのかって話もいっぱいで、参加満足度の高いイベントになっていた。

里見さんは国際ネットワーク系、エッジ系テクノロジーに注目

 最初の登壇者は、2019年のre:Inventに自費で参加したというNTT東日本の里見 宗律さん。注目しているのはAWS Local ZonesやAWS Outposts、AWS Wavelengthなどエッジ寄りのサービス群。また仕事柄、AWS Transit GatewayやAWS Direct Connectなどネットワーク寄りのテクノロジーの進化からも目は離せない様子。中国国内でAWS Direct Connectが利用可能になったことについて、次のように見る。

「中国と通信したいという案件は多いけれど、ネットワークの選択肢が少なかったんです。AWS Direct Connectが使えるようになったことで、中国リージョンに置かれたVPCに接続しやすくなると考えると、日本企業にも大きな影響があるリリースだと思います」(里見さん)

爆笑発言(爆弾発言?)を連発したNTT東日本の里見 宗律さん

 さてそんな里見さんはAWS Global Acceleratorに興味を惹かれたご様子。インターネットに比べてどれくらい速くなるのか、オレゴンリージョンに立てたEC2にpingを打ってその効果をはかってみた。

 「インターネット経由では119msかかりましたが、AWS Global Accelerator経由だとわずか27msという結果になりました。劇的な効果です! と言いたいところですが、ここにお集まりのネットワーク関連のみなさんはすでにおかしいとお気づきですよね。東京からオレゴンまでは約8030キロ、光の速さは毎秒約20万キロ、つまり光が東京からオレゴンまで往復するには80ms以上かかるのです。AWSはついに、光の速さを超えました!」(里見さん)

 AWSのテクノロジー進化がめざましいとはいえ、物理現象を超えるにはいたっていない。これはAWS Global Acceleratorの機能のひとつである「一番近いエッジロケーションからデータを返す」効果が発揮されているために得られた数値だ。これではオレゴンまでのアクセラレーション効果を測れないので、里見さんは改めてAWS Accelerated Site to site VPN Connectionsでオレゴンまでのデータ転送速度やpingの所要時間を計測。すると、インターネット経由より1割程度速いという結果が得られた。

「速くはなっているけど……ちょっと、微妙」(里見さん)

実際のデータ転送でも一定の効果は認められたもののやや限定的

 しかし筆者からみれば、前提条件となるインターネット経由が速すぎると感じた。東京−オレゴンを119msの遅延で結んでいるということは、先に計算した理論値の1.5倍程度。売るほど回線を持っているだけあり、NTT東日本のオフィスはかなり恵まれたインターネット環境を使っているのだと思われる。むしろそっちが羨ましいぞ、里見さん。

 里見さんは最後に、AWSを使ったこれからのネットワーク構築について壮大な夢を語っていたが、筆者は小心者なのでここで紹介することはしない。読者には「記事に書けない話ほど面白いから、ぜひ勉強会の現場に足を運ぼうぜ」とアドバイスしておきたい。

預言者現る!? AWS Outpostsの登場を言い当てた大橋さん

 続いて登壇したKDDIの大橋 衛さんは、エッジサービスに全振りしたセッションを展開。「AWS Outposts/Wavelength/Local Zones “超”ざっくり解説」と題して、3サービスに絞った解説を行なった。なお大橋さんはこの3サービスの頭文字をとって「OWL(オウル:英語でふくろうの意)」と呼んでいるそうだ。

「実はre:Invent前に、AWSにこんなサービスがあったらいいなって話をしていたんです。そのときに私は、オンプレミスでAWSの機能が使えたら便利だろうなって言っていました。なので、re:InventでAWS Outpostsが発表されたときは予言的中と、ちょっとした大騒ぎになりました」(大橋さん)

AWS Outpostsの登場を予言(?)したKDDI株式会社の大橋 衛さん

 こんなサービスが欲しいと思っていたところにリリースされたAWS Outposts。“OWL“の中でも一番説明に力が入っていた。低遅延処理が求められるサービス向けとされているが、セキュリティポリシーの関係でデータを外部に持ち出せない大企業や自治体などがAWSの恩恵を受けられるようになるなど、活用範囲は無限大だと大橋さんは言う。しかし、そのハードルはかなり高いようだ。

「AWS Outpostsは最低1Gbpsのネットワーク、5VA以上の電源を必要とします。商用で使うためにはより高速なネットワークと大容量の電源が必要になるでしょう」(大橋さん)

 最小スペックだけでもかなりのハードルだが、さらに大きなハードルが控えている。ひとつはラックのサイズだ。幅24インチのラックに納まっているのだが、奥行きが48インチもあるというのだ。一般的なデータセンターで他のラックと並べて設置すると背面の空調スペースがなくなってしまいそう。

 もうひとつのハードルは、価格。最小構成でも、3年前払いで約3000万円から。設置、運用、メンテナンス費用すべて込みの価格とはいえ、なかなかのお値段。しかししばらく前までは単機能のアプライアンスに数千万円払うことも珍しくなかったのだ。そう考えたら実はお得なのかもしれないぞ? 実際に動いているところを見たいので、導入予定の企業はぜひ筆者に取材させてもらえないだろうか!

利用のハードルは高いが、エンタープライズIT機器フェチの筆者も気になっているAWS Outposts

Transit Gatewayの具体的活用法を示した菊池さん

 3サービスに絞って解説した大橋さんよりさらに狭く深く、Transit Gatewayだけに絞って実践的な使い方を紹介してくれたのが、クラスメソッドの菊池 修司さんだ。「AWS Transit Gatewayで広がるネットワークアーキテクチャ」と題したセッションで、実際によくある案件の解決方法を具体的に示した。

「S3をクローズドネットワークだけで使いたい、できればマネージドサービスだけで実現したいというのは、よくある案件のひとつです。AWS Direct Connectはハードルが高いので、Site-to-SiteのVPNでなんとかしたいけど、以前はとても難しかったんです」(菊池さん)

クラスメソッド 菊池 修司さん

 Transit Gatewayがリリースされる以前は、VPCに接続するためのGatewayでインバウンドルートの編集ができなかったため、クライアント端末からS3にたどり漬けなかった。しかしTransit Gatewayならインバウンドルートの編集ができるので、クライアントとVPC内のNAT Gatewayを結ぶことができ、マネージドサービスだけでS3に接続できるようになったのだ。

Before Transit Gateway:マネージドサービスだけでS3をクローズド環境で使うのは不可能

After Transit Gateway:マネージドサービスだけでS3をクローズドなファイルサーバに!

 この手法にも注意点はある。同じVPC内のS3にしか接続できないことと、S3のIPレンジはたまに変更されるということ。IPレンジ変更の予告を定期的にチェックしてルーティングテーブルを書き換える必要があるようだが、お手軽なVPNだけでS3をクローズドに使えるメリットに比べたら大した課題でもないだろう。

 ところでクラスメソッドといえば、超速で技術情報をブログで公開する会社としても知られている。2019年のre:Inventは80名体制で乗り込んだそうだ。

「2020年は100名体制を検討しています。興味がある方は声をかけてください」(菊池さん)

 興味ある方はって……声かけたらラスベガスまで連れてってくれるの? 行きたがっている人は大勢いるのではないかと(笑)。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ