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今年もビルダーを魅了!AWS re:Invent 2019レポート 第5回

プロジェクト計画は6カ月前倒しに、現在は商用サービス環境の移行が進行中

ゼンリンDC、仮想サーバー1800台の「VMware Cloud on AWS」移行は順調

2020年01月23日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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ネットワーク関連の部分ではいくつかの課題も発生

 もちろん、移行作業が進むにつれていくつかの課題も明らかになっている。6月の講演では、開発環境の移行における仮想マシンバージョンの課題(バージョンが古いものはvMotionで移行できない)、AWSネイティブ環境(VPC)との通信連携方法、ロードバランサー機能が標準では未提供といった課題を取り上げていた。

 VMC on AWS自体、また新しいサービス(東京リージョンは2018年11月ローンチ)であり、特にゼンリンデータコムのような大規模移行案件の実績は少ないだろう。渡邊さんは、ヴイエムウェアとの折衝や確認を繰り返しながら移行プロジェクトを進めてきたと語る。

 あらためて、取材時点で残る課題のひとつとして渡邊さんが挙げたのが、オンプレミスから移行したVMC on AWS環境と、もともとAWS上で構築していたサービスVPC環境とのネットワーク接続だ。この課題は6月の講演でも触れられていた。

 VMC on AWSの仕様上、VMC環境から通信できるAWSネイティブ環境は、VMC専用のネットワークインタフェース(ENI:VMware Cloud Elastic Network Interface)を備えた特定のVPC(特定のサブネット)のみとなっている。したがって、AWSネイティブ環境にある既存のサービスVPCに接続するためには、このVMC専用VPCにプロキシやロードバランサーを立てて中継するか、「AWS Transit Gateway」サービスを利用してVPNで接続するか、という選択となる。

VMC on AWSの仕様上、VMC環境とAWSネイティブ環境のネットワーク接続には工夫が必要

 6月時点では上記2つの方法を検討していたが、今回の取材直前になって“第3の方法”が見つかったという。もともとオンプレミス環境とサービスVPC環境は「AWS Direct Connect」経由で接続されているので、VMC on AWSからいったんオンプレミス環境に接続し、そこで折り返してDirect Connect経由でサービスVPCに接続する方法だ。最終的にはこれを選択したと、渡邊さんは語った。

 「他の方法と比較したところ、ネットワーク的に最も安定していたのでこれを選択しました。弊社ではもともとDirect Connectを使っており、今後も使うだろうという前提もあります。ただしこれは次善の策であり、ベストな方法ではありませんので、ヴイエムウェアには改善要望を出しています」(渡邊さん)

 新たな課題としてもうひとつ、VMC on AWS環境のアップグレード作業に伴うインフラ停止もあるという。VMC on AWSはヴイエムウェアが提供するマネージドサービスであり、仮想化ソフトウェアのメンテナンス作業はヴイエムウェア側で行う。

 「仮想化ホストのアップグレードは、ヴイエムウェアのエンジニアが仮想サーバーをvMotionで他のホストに“逃がしながら”実施してくれるため、サービスが停止することはありません。しかし(仮想ネットワーク基盤である)NSXコンポーネントのアップグレードでは、ネットワークを一時停止しなければならない問題があります。ネットワークは冗長化されているのですが、アクティブ-バックアップを切り替える処理の間、どうしてもネットワークの停止が避けられません」(渡邊さん)

 ヴイエムウェア側からは当初、この切り替えで「およそ20秒間」のネットワーク停止が発生すると説明を受けたという。しかし、24時間無停止で稼働することが前提の商用サービス環境であり、停止時間はなるべく切り詰めたい。両社で検討を重ねた結果、この停止時間を「10秒未満」まで短縮できる道筋が見えてきたという。今後、実際に切り替え時間を計測して許容できるかどうか検討していくと語った。

 「まだ新しいサービスということもあり、VMC on AWSは仕様として定まっていない部分も多くあります。実際にやりながら『ここはどうなっている?』と問い合わせ、一緒に検討していく感じですね。またヴイエムウェア側も、そうしたユーザーの声を求めていると感じます」(渡邊さん)

VPC on AWS+AWSネイティブのハイブリッド化、将来的なビジョンは

 前述したとおり、ゼンリンデータコムでは商用サービス環境のVMC on AWS移行を段階的に進め、順調に進めば今年9月末までにこのクラウド移行を完了し、オンプレミスのデータセンターをクローズする計画だ。

 将来的なAWSネイティブ環境とVMC on AWS環境の使い分けについて、6月の講演では「サービスが求めるシステム特性を踏まえてクラウドを賢く使い分ける」方針だと説明していた。VMC on AWSでクラウド移行したものを、さらにAWSネイティブにモダナイズしていくことは、現状ではあまり考えていないという。

 「以前からモダナイズできるものはそうしてきたので、VMC on AWSで移行したアプリケーションのモダナイズはあまり考えていません。モダナイズの必要がないものをそのまま残すために、VMCという選択肢があると考えています。VMCに関して今後ありうるとすれば、仮想サーバーの集約密度をさらに高めてコスト削減を図ること。また、昨年(2018年)あたりからヴイエムウェアが注力しているコンテナやKubernetesが、VMCでもマネージドサービスとして使えるようになったらいいなと考えています」(渡邊さん)

 ひとまず現時点ではクラウド移行の作業に専念し、その先はヴイエムウェアの提示するビジョンも見ながら、新しい方向を検討していきたいと語った。

 AWS以外のパブリッククラウドの活用、つまりマルチクラウドについてはどう考えているのか。技術本部長の奥さんは、現在のところあまり必要性を感じていないが、特に量子コンピューターのクラウドサービスについては、マルチクラウド活用の可能性も「少しありうる」と答えた。

 「ゼンリンデータコムでは地図や地形データに基づくサービスを展開していますから、たとえば『巡回セールスマン問題』や空間処理など、量子コンピューターでなければ解けないものも出てくると思います。どこ(どのクラウド)がリーズナブルに使えて、性能も出せるのか、そこは今いろいろと検討しているところです。量子コンピューター領域のクラウドサービスについては、やや特殊な状況かもしれません」(奥さん)

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