平成ガメラシリーズや大魔神など大映特撮をテーマに開催された「特撮のDNA」展。その開催を記念したスペシャルトークライブが1月10日開催された。
このトークライブでは「平成ガメラシリーズ、誕生の秘密に迫る!」と銘打ち、平成ガメラ3部作の脚本を担当した伊藤和典氏、現在ガメラをはじめとした大映IPを引き継いでいるKADOKAWAの代表取締役副社長で、大の特撮ファンでもある井上伸一郎氏が登壇。平成ガメラの裏話などが語られた。
第1作を見ていた伊藤氏が平成ガメラの脚本を担当することに
「平成ガメラをメインにした展示会が開催されるとは夢にも思わなかった」と語る伊藤氏は第1作からガメラを見た世代。その頃は子どもを意識した作りになっていない東宝特撮で育っていたため、ガメラ映画の子どもに媚びたような感じが嫌だったという。しかし「切られれば血を流すという、怪獣を生き物と捉えている点や、怪獣に対する作戦の多様性があるのは大映特撮の魅力だった」と、昭和ガメラの感想を語った。
平成ガメラ3部作の脚本を担当することになったのは、ある日、金子修介監督から電話が掛かってきたことだという。伊藤氏は『ガメラ 大怪獣空中決戦』の前に、幻の企画となってしまった作品について毎週のように井上氏と打ち合わせをしている中でガメラの話となったとのこと。
井上氏はその頃、月刊少年エースの創刊準備をしており、ガメラ復活に合わせて映画をコミカライズして創刊号に掲載しようと考えたそう。順調に交渉が進んでいたが、当時の大映側の事情でNGとなってしまったと語る。コミカライズできていたらヒットさせる自信があったと残念がっていた。
樋口真嗣氏による特撮にはアニメ的な表現も
平成ガメラを語る際、どうしても外せないのが特技監督を務めた樋口真嗣氏の話だろう。このトークライブでも随所に名前が登場していた。伊藤氏によると、樋口氏が大きな映画作品で特技監督を務めたのは平成ガメラが初めてだったという。そのせいもあり最初はアウェイであったが、『ガメラ 大怪獣空中決戦』の吊り橋のシーンでギャオスのプロップを手前では大きめ、奥では小さめのものを用いた撮影をしたところ、それが評価されて流れが変わったという。
それを聞いた井上氏は「表現方法がやはりアニメ的ですね」とし、さらに『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』での空中戦が80年代のアニメ映画を参考にしたと聞くと、「アニメの発想とは切っても切れないと感じた。80年代後半から90年代前半は、特撮とアニメが絡み合って一体になって発展していた気がする。だんだんアニメと特撮が分かれている感じがあるが、もっと融合して一緒に楽しめるものがあっていい」とコメントし、「アニメファンに特撮を見てほしい」と訴えかけていた。
『ガメラ 大怪獣空中決戦』の撮影の話に話題が移ると、特撮がいつ終わるかわからないとプロデューサーが頭を抱えていたと伊藤氏が当時を振り返る。「カットごとにセットの配置替えをしていて、1日1カットしか撮れない日もあったと聞いた」と伊藤氏が語ると、「東京タワーがギャオスを狙ったロケット弾が誤爆して崩れるシーンは一度撮り直している」と、井上氏が実際の現場のすごさを補足する。
『ガメラ2 レギオン襲来』については、生態系から怪獣を作ったことに感動したという井上氏。伊藤氏によると、アリの本を読んだ後、それを補強するためにハチの本を読み、スズメバチに襲われたミツバチが集団でスズメバチを取り囲んで体温で倒すことをヒントにソルジャーレギオンのイメージが生まれたとコメントした。
『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』は3部作の中で唯一、伊藤氏と金子監督との共同脚本になっているが、それにまつわるぶっちゃけ話がいろいろと語られ、井上氏もそういう理由だったのかと少し驚いた様子。このあたりは詳細に書けないのが少々残念で、来場者だけが楽しんだ内容となる。
この3作目は絵がきれいだったと語る伊藤氏。井上氏によると、最終決戦は清水寺の予定だったのが絵にならず、できたばかりの京都駅の建物に変更されたという。「『ガメラ 大怪獣空中決戦』で小さなギャオスを福岡ドームに入れるシーンがあるが、京都駅はその発展形。とにかく駅の設計がおもしろく、構造的には使ってくれと言わんばかりの建物だった」と伊藤氏はコメントした。
話がシナリオに及ぶと井上氏は「伊藤シナリオで好きなところは、プロフェッショナルがプロフェッショナルらしく活躍するところ」といい、『ガメラ 大怪獣空中決戦』のヘリコプターのパイロットの行動を取り上げ「あの職業意識がめちゃくちゃかっこよくて、いまでもしびれる。ああいうプロフェッショナルの具体的描写が伊藤シナリオの特色だと思う」と言うと、伊藤氏は「自分もプロであり続けたいし、仕事に誇りと責任を持ってる人はかっこいい。そういう憧れもあって要所要所で取り入れている」と秘訣を披露した。
絵という点では「1作目は「東京タワーとギャオス」、2作目は「炭化したガメラ」、3作目は「満月の前にふわっと出てくるイリス」がきれいでいいなと思った」と、伊藤氏が気に入っているシーンが挙げられた。そして、平成3部作をやり終えたとき、「本多猪四郎監督から受け取ったバトンは誰かに渡せたと感じた」といい、その達成感をにじませていた。
ガメラは今年55周年 表立った動きが無いのは少し残念!?
実はガメラは今年で55周年になる。50周年の際にはCGを用いた記念映像がコミコンで公開されて話題になったこともあり、その後の展開について期待しているファンも多いが、「あのクオリティーで本編を作るのはなかなかたいへんなのでお休みしています」という井上氏。伊藤氏から「去年65周年を迎えたゴジラが生誕祭などをしたりしたけどガメラは動きはないんですか?」と尋ねられると「えーと、がんばります」と井上氏は苦笑いしていた。
最後に来場者に向けて井上氏から「3月6日に『Fukushima 50』という映画が公開されます。専門用語が多いのでテロップがたくさん出る映画ですが『シン・ゴジラ』のマネではなく、「平成ガメラ」へのオマージュです。特撮監督に平成ガメラで美術を担当した三池敏夫監督、本編は伊藤和典さんが脚本を書いた『空母いぶき』の若松節朗監督が務めていて、平成ガメラの正統な遺伝子を感じることができる映画になっています」と新作をアピールした。
そして伊藤氏が「元号が令和になっても平成ガメラが愛されているのがうれしい」と語ると、会場から盛大な拍手が巻き起こり、盛況のうちにトークライブを締めくくった。
©KADOKAWA TNHN/1999
©2019-2020 「特撮のDNA」展 制作委員会