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次期米大統領候補2人は3月3日に判明か、「トランプ再選」の鍵を握るのは?

2020年01月15日 06時00分更新

文● 西岡純子(ダイヤモンド・オンライン

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米国の国旗
Photo:PIXTA

 米大統領選挙が行われる2020年は、米軍によるイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官の殺害という衝撃的な事件での年明けになった。

 イランとの緊張が高まる中、トランプ大統領は、イランにダメージを与えたことを早速、アピールし、大統領選に向け、求心力を強めることにギアを上げた。

 イラン側の「報復」が抑制的だったこともあって、米・イランの全面衝突は回避されたが、「再選優先」のトランプ大統領が、選挙戦に有利になるようにイラン問題を今後も利用する可能性は高い。

全面衝突は回避されたが
注目される新たな制裁の中身

 昨年11月に米中通商協議で妥協の産物「フェーズ1合意」を結び、ひとまず中国とは「ディール(取引)」成立を演出したことで再選を狙うトランプ大統領が次に圧力をかけるのは、中東か、欧州か、と米国内では注目はされていた。

 実際、昨年9月に米国と親密なサウジアラビア東部の石油施設が、イランを後ろ盾とした勢力によってドローンで爆撃されたことをはじめ、親イランのシーア派武装組織によるイラク軍基地への砲撃で米軍兵士や民間人が死傷し、これに米軍が報復するなど、米・イランの緊張が昨年後半には高まっていた。

 中東情勢の緊迫化を尻目に、米国では株価が高値更新、年末商戦が好調だったが、ソレイマニ司令官殺害という衝撃的な事件で一気に冷や水を浴びせられたわけだ。

 今のところ、事態は予想以上に早く沈静化に向かっているように見える。イランがイラクの米軍駐留基地にミサイル攻撃で報復したのを受けて、トランプ大統領は8日、軍事的な報復ではなく新たな経済制裁で対応する方針を表明した。

 演説の席上には、エスパー国防長官をはじめ、軍のトップ層たち、ペンス副大統領がトランプ大統領の両脇、背後を固めた。一国挙げての大決断、といった演出の場から飛び出した新たな経済制裁の発動の表明は、やや拍子抜けするほどに理性的な対応だった印象を受けた。

 情報筋によると、トランプ大統領はイランに対してもっと強硬な手段を取りたがっていた、という。実際には、ポンペオ国務長官、エスパー国防長官との話し合いによって、新たな制裁措置の実施ということで落ち着いたようだ。

 それでもイランにとって、制裁は厳しいものにはなるだろう。

 新たな制裁では、すでに発動済みの原油に加えて、鉱工業製品や繊維製品といったイランの主だった輸出品を締め出してしまうことが含まれる。

 また、経済制裁の中で最も厳しいのは決済機能を奪ってしまうことだが、それも検討される可能性がある。北朝鮮に対する制裁でも行われているが、決済通貨(主に米ドル)の調達が寸断されてしまうと、輸出入や海外からの送金などにも支障が出て、国は成り立たない。

 制裁がフランスなど欧州を地盤とする金融機関を含めたものになれば、制裁の力は相当に強い。

 イランも、経済制裁への対抗措置としてホルムズ海峡の封鎖などをすることも考えられるが、イランにとっての友好国である中国への原油供給が寸断されてしまうことにもなりかねない。

オバマ政策の否定で
中東への「関与」強める

 そもそもトランプ大統領が中東への関与を強める意図は、民主党のオバマ・前大統領時代の外交政策を否定することにあった。

 中でも中東政策については、オバマ前大統領が中東から兵力を引き上げ、それによってISISをはじめ過激派組織の拡大を許し、地政学リスクを温存させてしまった“失点”がある。

 そこに焦点を当てオバマ前大統領がなしえなかったことを実行する、あるいは、オバマ前大統領が実行したことを無効にすることで、オバマ時代の外交の失敗を印象づける狙いがある。

 司令官殺害といった強硬手段に出ることは、イランが米国を直接狙って反撃する可能性はゼロではなく、中東での反米意識の高まりや欧州をはじめ西側諸国の反発を招くことから、米国にとってもリスクは低くはない。

 トランプ大統領の本音もイランとの全面戦争は回避したいし、中東ならびにアジアに対する関与を減らしたいと思っている。国民に向けた演説でもトランプ大統領は、「今後はNATO(北大西洋条約機構)がイランに関与すべき」と、これ以上は我関せずと言いたげだった。

「核開発縮小」で
イランとの「取引」狙う?

 こうした中でイランに対する「関与」を強める狙いは何か。

 トランプ大統領が得たいと考えているのは「ブランド」だろう。中東の安定に関与する姿勢を演出することで、これまでの大統領が成しえなかったことを実行、大統領選挙での勝利で2期目を獲得することで絶対的な立場を確立することだ。

 そして最終的にはノーベル平和賞の授与をも期待しているのではないか。

 オバマ前大統領は核なき世界への国際的な理念の共有と取り組みが評価されて、2009年にノーベル平和賞を授与されたが、オバマ前大統領への対抗意識からも、その思いは強いのだろう。

 この目的を果たすために、関与を減らしたい本音とは矛盾しながらも、イランに対して核開発を縮小させる「ディール(取引)」を検討しているのではないかとも思われる。

 トランプ大統領は2018年5月に、オバマ大統領時代に、米国や英独仏、中国、ロシアがイランと結んだ「イラン核合意」から突然、離脱した。

 合意は、イランが高濃縮ウランなどを15年間は生産しないことやウラン濃縮に使う遠心分離機を大幅削減する代わりに、金融制裁や原油取引制裁を緩和するもので、米国はイランと合意の上で核兵器開発に関わる能力を制限および管理することで、イランと適正な距離を保ちながら核のリスクを抑えようとした。

 トランプ大統領はもともとイランへの関心は低かったが、オバマ前大統領の手法との違いをアピールすることを狙って、核合意は生ぬるい、と離脱し徹底した敵対戦略を取った。

 こうした経緯を考えても、今後も、イラン情勢に関与することが共和党の支持基盤の保守層の関心を引くと判断すれば、イランと一対一で核開発縮小に向けたディールをする方向に向かうと考えられる。

大統領選では
無党派層の取り込みが鍵に

 米国では2月3日のアイオワ州での党員選挙と2月11日のニューハンプシャー州での予備選挙を皮切りに、いよいよ大統領選挙の幕が開く。

 州ごとに、共和党、民主党は予備選挙や党員集会(両方を行う州もある)を開き、それぞれ候補者を選び出す。

 3月3日のスーパーチューズデーは予備選挙が集中する大きな山場だが、今年は大票田のカリフォルニア州が日程を前倒しして3日に予備選を実施する。つまり今回の大統領選は来月のアイオワ州から1カ月で両党の大統領、副大統領候補がおおむねわかる可能性が高い。

 足元のトランプ大統領への支持率は、就任以降で平均すると40%(ギャラップ調査)だ。戦後の大統領の中で比較すると低いが、その特徴はほとんど変わらないことにある。

 例えば、オバマ前大統領の支持率は任期中に最高が67%、最低が40%で平均48%だった。その前のブッシュ・ジュニア の支持率は最高が90%、最低が25%で非常に振れが大きく、平均では49%だった。

 トランプ大統領は最高が46%、最低が35%と上下の幅が狭い。

 いかに批判を受けるような言動があっても支持する人は支持するし、支持しない人はしない。これまでの経緯からいえば、「自国第一」などの政策を変えなくても35~40%の支持は確保できる、ともいえるのだ。

 さらに、株価は高値を更新し続けており、経済も悪くはない。FRBの金融政策を巻き込みながらでも株価と経済を堅調に保つことができれば、浮動票を取り入れることができる、という戦術なのだろう。

 岩盤支持層が今後も変わらないということであれば、再選は共和・民主どちらにも所属しない無党派層の取り込みがトランプ大統領にとっては鍵になる。

 前回の2016年の大統領選挙では、ラストベルト(さびついた工業地域)をはじめたとする中低位の所得水準の白人有権者が多く、かつスイングステート(選挙ごとに有力となる党が入れ替わる)州の有権者の票が勝利のポイントになるといわれていた。

 確かに、トランプ大統領のキャンペーン、「反移民、米国第一主義」がそうした地域の米国人の心に火をつけたのは事実だが、実際の選挙結果からいうと、無党派層の票の流れが結果を左右した。

 ただ、無党派層はもとより流動的であり、足元では保守層の間でもトランプ離れが指摘されることが少なくない。トランプ氏が強調するほど、この3年余りで国民の生活や経済環境は改善していないからだ。

 こうした中、トランプ大統領のイランの核開発縮小の「ディール」は、どの程度、有権者の関心を引くことになるのだろうか。

 何が何でも再選を果たす上では、もう一度、移民問題、メキシコとの国境の間での壁建設、給与減税政策など、内政に立ち返る展開になるかもしれない。

成果を急げば
政権内であつれきも

 またイラン側も、米国との全面衝突は回避したとはいえ、トランプ大統領の核合意からの一方的な離脱に態度を硬化させ、むしろ濃縮ウランの生産などを加速させている。

 原油の全面禁輸措置による歳入不足を補おうとガソリン価格を引き上げたことが国民の反発を受けて反政府デモが起きたが、革命防衛隊の民間航空機誤爆を機に再び広がる反政府デモの展開次第では、イラン政府が、国民の関心を外に向けるために米国に対しより強硬な対決姿勢を取ることも考えられる。

 大統領選では、野党民主党がまだ候補者が乱立状態で、スーパーチューズデーを経ても候補者を絞りきれない状況だと、一本化に時間と政治コストがかかり、結局はトランプ大統領側に有利に事が運ぶことにもなるだろう。

 2月3日に党員集会が予定されているアイオワ州地元での支持率調査(De Moines Register)によると、直近ではサンダース上院議員が善戦しており、政治的理念が候補者の間で最も中庸で、政治的経験の長さから打倒トランプの一番手と期待を集めていたバイデン前副大統領への支持は、このところ盛り上がりに欠ける。

 ただほかにもウォーレン候補や、若さで主に注目を集めるブティジェッジ候補、豊富な選挙資金を背景に支持を伸ばしつつあるブルームバーグ元NY市長や富豪ステイヤー候補など、民主党候補の間での支持は一本化よりも拡散しているようにも見える。

 現時点では、少なくとも今の状態が続く限り、トランプ大統領と共和党にとって有利な形で選挙戦が進められそうな状況だが、イランに対する核開発縮小の「ディール」が思惑通りに進むかは見えない。

 北朝鮮との非核化交渉のように、大統領選に向けて成果を早く出したいトランプ大統領と政権内の強硬派とのあつれきが表面化する可能性もなくはない。

(三井住友銀行 チーフ・エコノミスト 西岡純子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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