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「景気の山」は2018年10月か?戦後最長景気は幻に終わりそうだ

2019年12月25日 06時00分更新

文● 鈴木明彦(ダイヤモンド・オンライン

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「景気の山」は2018年10月か?戦後最長景気は幻に終わりそうだ
Photo:PIXTA

ヒストリカルDIは
18年10月から50%下回る

 政府が毎月閣僚会議に報告している月例経済報告では「景気は緩やかに回復」という判断が維持されており、2012年11月を底にして戦後最長の景気拡大が続いていることになっている。

 これに対して、景気動向指数から読み取れる機械的な基調判断は、後退を意味する「悪化」が続いており、政府の景気判断と食い違ってきた。

 機械的な基調判断はあくまで参考であり、月例経済報告の判断が正式の景気判断であることは言うまでもないが、ここにきて景気の山・谷の判断材料となるヒストリカルDIが18年11月から50%を下回っている(景気動向指数CI・一致系列の過半が下降となる)ことがわかってきた。

 つまり、その直前月となる18年10月が景気の「山」だった可能性がある。

 まだ、個々の系列が改定されるので、ヒストリカルDIが50%を下回るタイミングは前後する可能性があるが、50%を下回った状態が続いている以上、ここが景気の「山」ではないか。

 仮に18年中に山がついたと認定されると、「戦後最長の景気拡大」は幻だったことになる。

コンマ以下の差の微妙な判定で
認定されなかった14年3月の山

 正式の判断は、景気動向指数研究会が招集されて、その検討作業を待つしかないが、山がついたとしたら、戦後最長という大記録を前になんとも残念な判定ということになる。

 だが、これまでも消費税率が8%に引き上げられた14年4月以降もヒストリカルDIが50を下回り、直前月の3月に山をつけて景気は後退に転じたのではないかとの議論があった。

 17年6月になってようやく景気動向指数研究会が開かれたが、議論の結果は景気の山とは認定せずとなった。

 もっとも、議事要旨を読むとかなり微妙な判定だったことがわかる。

 景気の山の判定は、(1)波及度、(2)量的な変化、(3)景気後退の期間という三つの基準で判定される。

 まず、(3)景気後退の期間が短すぎると山と認定されないが、この時はヒストリカルDIが50を下回っていた期間が23カ月(14年4月~16年2月)と十分長く、この基準は文句なくクリアした。

 次に、(2)量的な変化については、景気動向指数CI・一致系列の落ち幅が過去の後退局面と比べて小さすぎると山と認定されない。

 この時の23カ月間の落ち幅は6%程度と大きなものではなかったが、1985年6月~11月の落ち幅を上回り、2012年3月~11月とほぼ同じだった。こちらの基準もクリアしていたと判断できる(図表1)。

 しかし14年では、(1)波及度が基準を満たしていないと判断された。

 波及度は経済活動の収縮が経済の大半の部門に広がっている度合いである。

 波及度の基準を満たす目安は、ヒストリカルDIがゼロ%近傍まで下がること(つまり景気動向指数CI・一致系列がほとんど全て下降すること)だ。

 この時はヒストリカルDIが22.2%(つまり9系列のうち7系列が下降)までしか落ちなかった(図表2)。

 もっとも、ゼロ%近傍という目安はあいまいだ。

 たしかに、過去のほとんどの景気後退ではヒストリカルDIがゼロ%まで低下しているが、12年3月~11月の景気後退ではヒストリカルDIの低下は20.0%(10系列のうち8系列が下降)にとどまった。

 採用系列数の違いが影響した微妙な差が、山か否かの判断を分けるというのはしっくりこない。

今回は「山」と認定される可能性
景気動向指数研究会が開かれるのはいつ

 この微妙な判定が影響したのか、山と認定されなかったのは、「アベノミクスが続いているのに景気後退の判定などできないからではないか」とか、「8%への消費増税によって景気が後退したことになると10%への増税ができなくなるからだ」といった声も出た。

 今回の第16循環で18年10月は山になるのか。筆者は14年3月の時よりは可能性が高いとみている。

 まず、景気後退の期間は、ヒストリカルDIの50%割れが18年11月から足元(19年10月)まで12カ月続いており、5カ月以上経過という目安を超えていて、この基準は問題なく満たしている。

 量的な変化も、この12カ月の景気動向指数の低下は8.8%と14年の時よりも大幅で(図表1)、これも基準をクリアしている。

 そして、14年の際は、微妙な判定となった波及度だが、今回は9系列全てが下降に転じた。ヒストリカルDIはゼロ%まで低下しており(図表2)、文句なく基準をクリアしている。

 まだ経済指標が過去にさかのぼって改定されるので、山のタイミングも含めて確かなことは言えないが、おそらく18年の秋に景気は「山」をつけて後退局面に入ったということになるだろう。

 問題は、いつ景気動向指数研究会が開かれるかだ。

 ヒストリカルDIの50%割れが続くのであれば、研究会が開かれることになるが、開催のタイミングまでは決まっていない。

 経済指標が改定されることを考えると、1年半ぐらいは経過していないといけないので、20年中ごろには開催される可能性が出てくる。

 例えば、第15循環の12年3月の景気の山については、13年8月の研究会で認定された(この研究会では12年4月を山と暫定的に認定。その後15年7月の研究会において12年3月で確定)。

 一方、前述のとおり、14年3月を山と認定するかどうかの検討が行われたのは、17年6月と3年以上が経過していた。

 山・谷の認定で政治的忖度が働くとは考えたくないが、研究会を開くタイミングについては忖度が働くかもしれない。

 今回は山をつけるタイミングによっては、戦後最長の景気拡大が実は幻だったということになるだけではない。18年10月に安倍首相は消費税の使途変更とともに19年10月からの消費税率10%引き上げの方針を表明したが、景気が後退に向かおうとするちょうどその時期に増税を打ち出したことにもなる。

 安部政権が続いている間、特にいずれ行われると考えられている解散総選挙より前のタイミングで研究会を開催するのは、官僚としては避けたいところだろう。そうなると、開催は21年にずれ込むかもしれない。

山・谷の判断基準の見直しが必要
「後退」していなければ「回復」は強引

 いずれにしても、18年秋のどこかで景気の「山」が認定されたとして、12年11月を谷とした景気拡大が本当にその時期まで続いていたのかということも改めて議論になるだろう。

 前述のとおり、14年3月は山と認定されなかったが、認定されてもおかしくない状況だったと思う。間違いだったとは言えないが、結果として、景気回復と言いながらヒストリカルDIが50%を下回る状況が2年近くも続いた。

 この間は、景気が「後退」していないとは言っても、「回復」していない状況だったわけだ。

 現行の景気判断基準は、景気を「回復」か「後退」かで二分して考えるが、今のように、好況でも成長率はかつてほど高くはなく振り幅も少ない定常状態の経済にそぐわないのではないか。

「回復」しているのか「後退」しているのか、判断しにくいような状態をどう認識したらよいのか。「横ばい」あるいは「緩やかな回復(後退)」といった景気判断があってもいいかもしれない。

 回復・後退という二分法を続けるなら、ヒストリカルDIがゼロ近傍まで低下という波及度の基準は少し緩めるといった工夫も必要だろう。

 繰り返しになるが、12年3月の山の判定では20.0%を許容範囲として少し基準を緩めたが、14年3月の山の判定では22.2%は許容しないと厳しい判断が下された。この差を誰もが納得できるように説明するのは難しいのではないか。

 さらに言えば、2年も3年もたってから出てくる、政府の山・谷の判定を待っていては、あまりに遅すぎる。

 足元の景気判断や成長率見通しに加えて、山・谷の判断についても、お上の判断に従うのではなく、民間の調査・研究機関がもっと積極的に自分の見方を発信すべきだ。

 官と民、あるいは民の間でも景気の山・谷の見方が違う場合があっても、その方が景気を巡る議論も活性化する。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹 鈴木明彦)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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