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「京アニ放火殺人」は今年最悪の事件、回復途中の容疑者は何を語るか

2019年12月24日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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京都アニメーション放火殺人事件の犠牲者をしのぶ式典が開かれ、約500人が参加した
京都アニメーション放火殺人事件の犠牲者をしのぶ式典が開かれ、約500人が参加した(2019年11月2日撮影) Photo:JIJI

今年最大・最悪の事件といえば、犠牲者36人を出した京都市伏見区の京都アニメーション第1スタジオ放火殺人事件だろう。一時、意識不明の重体と伝えられた青葉真司容疑者(41)=殺人と現住建造物等放火容疑で逮捕状=は一命をとりとめ、会話ができるまでに回復。京都府警は任意で事情聴取したが「どうせ死刑になる」と投げやりな態度だった一方、治療に当たった医療スタッフには「人からこんなに優しくされたことは今までなかった」と述べていたという。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

「どうせ死刑」と供述

 事件が発生したのは7月18日午前10時半ごろ。青葉容疑者はスタジオ1階に侵入し、バケツに入れた10~15リットルのガソリンをまき、「死ねー」と叫びながらライターで火を放った。

 当時70人がいたスタジオに火は黒煙とともに一気に拡散。35人は重軽傷を負いながら救出、搬送されたが、逃げ場を失った社員は1階で2人、2階で11人、2階から3階の階段で1人、3階から屋上につながる階段で19人の計33人が遺体で発見された。

 その後、搬送先の病院で3人の方が死亡。犠牲者は計36人に上り、今も懸命の治療を受けている方々もいる。

 そんな中、重いやけどを負った青葉容疑者は京都市内の病院に救急搬送されたが、事件2日後の7月20日、高度な治療が可能な大阪府内の病院に転院。

 一時は重体で命の危険もあったが、自力歩行はできないものの、会話が可能な状態にまで回復した。11月14日には京都市内の病院に転院、リハビリを続けている。

 全国紙社会部デスクによると、青葉容疑者は大阪府内で治療を受けている際、医療スタッフに「人からこんなに優しくされたことは今までなかった」と感謝の言葉を述べていたという。

 この間、11月8日には京都府警が青葉容疑者を任意で事情聴取していた。容疑を大筋で認め「どうせ死刑になる」と供述する一方、「道に外れることをしてしまった」と後悔も口にしているという。

 ほかにも「多くの社員がいる第1スタジオを狙った」「自宅を出るときから殺意が固まっていた」「自分の小説を盗まれたからやった」「包丁(を所持していたの)は邪魔する人がいたら襲うため」「ハンマーはドアが閉まっていたらガラスを割るため」などと供述したとされる。

 一時は捜査幹部が「最悪の事態(被疑者死亡)も覚悟した」という状態だったが、動機や背景など何も分からず幕引き、という誰も納得できない結末は取りあえず免れたとみていいだろう。

 本格的な聴取が可能になるのはまだ先とみられるが、京都府警は勾留に耐えられるまで回復するのを待ち、逮捕する方針だ。

「せめて真実を知りたい」と遺族

 いろいろな事件に関わる資料をめくっても、犠牲者36人という惨劇はそうそう見当たらない。

 犠牲者の多さで言えば1938(昭和13)年、岡山県西加茂村(現・津山市)で発生し、横溝正史の「八つ墓村」のモチーフにもなった「津山事件」(別名・津山30人殺し)が上げられるが、今回はその歴史的猟奇事件さえ上回る。

 最近では2016年7月に犠牲者19人、重軽傷26人の「相模原障害者施設殺傷事件」、08年10月に犠牲者16人、重軽傷4人の「大阪個室ビデオ店放火殺人事件」、01年6月に犠牲者8人、重軽傷15人の「池田小児童殺傷事件」などもあったが、犠牲者、被害者の数では比較にならない。

 事件後に取り押さえられた際に「小説を盗まれた」「俺の作品をパクった」と叫んでいたという青葉容疑者。

「なぜ、そんな残虐な事件を起こさなければならなかったのか」ということは遺族のみならず、誰しもが知りたいところだろう。

 過去には犯人が自殺したり、逃亡中に死亡したりして、動機や背景などが一切不明という事件は少なくないが、遺族が身もだえするほどの苦しみを味わうようだ。

 筆者も全国紙記者時代、いろいろな事件を取材したが、遺族から「被害者の命は戻ってこないが、せめて何があったのか、真相を知りたい」と聞いたことが何度かあった。

 取材した捜査1課の刑事からも「なぜ殺されなければならなかったのか『何も分からないじゃ納得できない』と言われる」というのはよく耳にした。

初公判はいつになるのか…

 これまで、京アニが年に1度開催している「京都アニメーション大賞」に青葉容疑者のものとみられる投稿があったことが明らかになっている。

 しかし、京アニの代理人弁護士は「(応募者が)同一人物かどうか確認できない」としつつ、内容を確認したが「これまで京アニが手掛けた作品と似たような表現は確認できなかった」と説明した。

 これも青葉容疑者の投稿とは確認されていないが、インターネット上に「爆発物をもって京アニに突っ込む」「アイディアをパクる貴様らだけは許さん」「原稿を落とされた」などの投稿があったことも判明している。

 いずれも青葉容疑者の投稿かどうかは明らかになっていないが、動機にはこうした背景があったのは何となく想像できる。それが妄想なのか、本当に盗用されたと思い込むような似た表現があったのか…。

「盗用された」と思っても、普通の感覚ならば抗議すればいいだけだが、青葉容疑者は70人もの社員が働くスタジオにガソリンをまいて火を放つという凶行に及んだ。

 既報ではあるが、青葉容疑者は精神障害で通院していた時期があった。逮捕状が執行された後、精神鑑定になるのは間違いないだろう。

 11月11日、京都弁護士会は京都府警が青葉容疑者を任意で事情聴取したとの報道を受け、当番弁護士派遣のため、病院を教えるよう京都府警と京都地検に申し入れた。

 当番弁護士は通常、逮捕後に容疑者の求めで派遣される。しかし、京都弁護士会は「入院中の事情聴取は身体拘束下での取り調べと同一視できる」として、任意聴取の段階で担当を決める方針を示した。

 また、事件直後に申し入れていた聴取の録音・録画(可視化)を改めて求めた。

 青葉容疑者のリハビリ、そして逮捕、精神鑑定・鑑定留置、公判前整理手続き…。初公判の期日が指定されるまで、いったい何年かかるのだろうか。

 繰り返しになるが「真実を知りたい」と願う遺族にとっては、その時間が身もだえするほどの苦しい時間になるに違いない。

 11月25日、スタジオの解体作業が始まった。

 筆者は残暑の残るころ、現場を訪れた。最寄り駅に電車が到着する数分おきに、京アニファンとみられる方々が下車してスタジオを訪れ、静かに手を合わせていた。

 町内会の掲示板には「報道陣の皆様へ そっとおいてしてほしい」「撮影などはひかえてほしい」などという張り紙があった。

 もちろん、撮影する気も、ペンを執る気もなかった。現場を見て、ただ悲しいという感情しか起きなかった。手を合わせてその場を辞した。

 世界に誇るアニメーター36人に対し、衷心から追悼の意を表します。なにとぞ、どうか、安らかに…。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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