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太陽光発電事業者の負担は1兆円増?「発電側基本料金」新制度の深層

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経産省が打ち出した新たな課金システムは太陽光発電事業者を苦しめるのか
経産省が打ち出した新たな課金システムは太陽光発電事業者を苦しめるのか Photo:PIXTA

今、太陽光発電業界を大きく揺るがす問題が起こっている。それは「発電側基本料金」だ。電気を各地に配る設備コストの制度変更で、一部の発電事業者の負担が重くなるだけ。国民負担が増える訳ではないため、世間にはあまり周知されていない。しかし、いずれは国民負担の増加につながるという可能性も指摘されている。業界に冷や水を浴びせた、新たな課金システムの深層に迫る。(ダイヤモンド編集部 大根田康介)

国民負担を増やさないかたちで
事業者側で送配電負担を分担

「発電側基本料金」が太陽光発電業者の経営を圧迫する懸念がある――そんな反発の声が業界内からわきあがり、この仕組みを提案した経済産業省との間で攻防戦が繰り広げられている。

 発電側基本料金とは、全ての発電事業者に対して最大出力(kW)に応じた基本料金を課金するという新たな課金システムだ。現在、経済産業省が導入を検討しており、特に太陽光発電事業者の注目の的となっている。

 なぜなら、これが導入されれば、太陽光発電事業者は10年間で総額約1兆円もの負担が増えるとの予測があるからだ。

 今月、そんな試算を、オリックス、カナディアン・ソーラー・アセットマネジメント、ベーカー&マッケンジー法律事務所の3社が1つの資料にまとめた。(以下、OCB資料)。それを基に発電側基本料金問題の深層に迫る。

 まず、経緯を把握するために時計の針を巻き戻そう。

 2012年、再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱などによる発電)に固定価格買い取り制度(FIT)が導入され、国のお墨付きにより一定価格で20年間電気を売れるようになった。中でも太陽光発電は、他の再エネより初期投資のハードルが低く事業者が爆発的に増えた。

 一方で、分散型の発電所がたくさんできたことで、発電した電気を各地に送る送配電網(例えば電線など)に接続する系統連系のニーズが拡大した。しかも、今後は人口減少で電力需要が伸び悩むという予測もある。そのため、いずれは老朽化する送配電設備の維持管理コストが課題となっていた。

 通常、電気は送配電設備を介して発電事業者→送配電事業者→小売り電気事業者→一般消費者というかたちで流通している。その流通コストは現在、「託送料金」として、電力会社などの小売電気事業者(その先の一般消費者)が100%負担している。

 将来、この送配電設備が古くなって維持管理コストが増えれば、国民負担(電気料金)が高くなる可能性がある。

 そこで、善後策として受益者である発電事業者にも、例えば100のうち10だけも負担を分かちあってもらい、早めに整備コストの財源を確保する。かつ、一般消費者(国民)の電気料金は増えない仕組みにする。

 そんな狙いから編み出されたのが、今回の発電側基本料金という訳だ。

既稼働6000億、未稼働4000億
明らかになった負担の全貌

 ここで問題となっているのが、FIT価格が高かった2012年7月から15年6月の利潤配慮期間、いわゆる「プレミア価格」(売電価格29円、32円、36円、40円)の案件が狙い打ちされていることだ。

 例えば火力や原子力など昔からある非FIT電気は、小売り電気事業者への卸価格に転嫁できる「調整措置」というものができる。そのため影響が少ないと見られている。

 一方、プレミア価格のFIT電源では、この調整措置が基本的に認められていない。「発電事業者は十分もうかったのだし配慮は不要」という経産省の意図が見え隠れし、太陽光発電事業者、特に影響の大きいメガソーラー事業者が不公平感を抱いているのだ。

 これまで具体的な負担総額は明らかではなかったが、今回、OCB資料によって全貌が見えてきた。

 まず経産省の資料では、現状では発電側基本料金で負担する1kW当たりの単価は月150円、年1800円程度と試算されている。

 また、今回対象となる12~14年度の太陽光のプレミア案件は、経産省の資料を基にOCB資料では既稼働案件33.39GW、未稼働案件22.1GWと推定されている。

 これらのデータを基に計算すると、既稼働案件だけで33.39GW×1800円/kW=年間601億円。ここから10年間事業を続けると仮定して約6000億円の負担、また未稼働案件は22.1GW×1800円/kW×10年間=約4000億円の負担が増える。

 つまり、既稼働案件と未稼働案件の総額で約1兆円の負担増につながるというのがOCB資料で示された試算という訳だ。

 たしかにプレミア価格によって太陽光発電バブルを生み出し、多くの事業者が潤ったのは間違いない。だから事業者側も、発電側基本料金の導入に反対している訳ではない。しかし、彼らにとって今回の「プレミア価格を調整措置から外す」という措置は、国策で事後的に負担が増えて収益性が落ちるというデメリットしかない。

 そこで事業者側は、経産省に「プレミア価格を調整措置から外すことの見直しを求める」という“新たな調整措置”を要望しており、そこが攻防戦の最終防衛線となっているという訳だ。

対日投資にも影響が出るのか
国際仲裁で損害賠償の可能性も

 なおOCB資料では、他にも以下のような問題点が指摘されている。

 ■日本政府が関与する制度への信頼を毀損し、対日投資全体に影響が出る
 プレミア価格を調整措置から外すというのは、「もうかっている」からという理由だけ。リスクの高い初期に太陽光発電に投資したのが、たまたまもうかったからといって、そのもうけをかすめ取る制度を後から導入する国は信用を失うのではないか。

 ■国際仲裁を申し立てられるリスク
「エネルギー憲章条約第10条」が保護する締約国の投資家の利益が侵害されているとして、多額の損害賠償を請求されるリスクがある。例えば、スペイン政府が2010年に遡及的制度変更をして、32件の仲裁を申し立てられ、5件敗訴し、総額740億円の損害賠償を負った。政府が仲裁で負ければ賠償金は税金から支出されるため、国民負担の増加につながる。

 ■個人投資家・年金への影響
 上場インフラファンド合計で5万人を超える個人投資家がいる。私募ファンドを通じて、また国内外の年金基金も再エネ投資している。幅広い影響が出るのではないか。

 ■再エネ事業者が支払ったお金の行方
 再エネ事業者は「転嫁措置なし」で約1兆円を負担することになる。ただ、制度前後で託送料金の原価総額は変わらず、あくまで分配の話。再エネ事業者が負担した分、確実に誰かの負担が減っており、1兆円はどこへいくのか。

 ■議論プロセスの正当性
 これだけ経済的インパクトが大きい、かつ再エネを導入するという国の政策に逆行する恐れのある制度が、経産省の一委員会で決まろうとしている。また、一部の委員が反対を表明しているが、ほとんど無視されている。

 これら一連の指摘に対し、経産省はどのように考えているのか。本誌の取材に対し、同省担当者は以下のように回答した。おそらくこの問題に関しての見解表明は、これが初めてだ。

 ●再エネ電源の増加で送配電設備の増強などに必要な費用は今後も拡大していく見込み。こうした環境変化に対応し、費用の増大を抑制しつつ再エネ拡大に必要な送配電設備の整備を確実に実施していく。そのため、系統利用者である発電側にも送配電費用の一部を負担してもらうべく、発電側基本料金を導入する。

 ●この制度は、送配電設備の費用に与える影響を踏まえ、発電設備の系統側への最大出力(kW)に応じて公平に負担を求めるもの。これにより、最大出力を下げつつ出力の平準化を図るなど、発電者が送配電設備を最大限効率的に利用しようとするインセンティブが生まれる。発電側に起因する送配電設備の費用の増大の抑制にもつながると期待される。

 ●この制度の導入により基本料金による回収割合が上昇すれば、費用回収の確実性が確保されるため、再エネ拡大などに必要な投資がしやすくなると期待される。

 ●導入にあたって電力・ガス取引監視等委員会に設置された審議会などにおいて、事業者ヒアリングやパブリックコメントなどで2年以上にわたって議論を重ねた。その上で、制度見直しについてとりまとめた。18年7月のエネルギー基本計画においても、長きにわたる議論・パブリックコメントを経て制度導入を閣議決定しており、十分な議論を経ていると考えている。

 ●一般論として、制度変更は社会の変化に応じて不断に行われるもの。この制度も昨今の系統を巡る環境変化を踏まえて、必要な制度改正として新たに導入する。

 ●発電側基本料金により、再エネに限らず、既稼働事業も含めて全発電事業者に対して追加的な負担が発生する。しかし、この負担については電源種を問わず、市場や当事者間の交渉の中で取引価格に転嫁されることが想定される。

 ●FIT電源については、買い取り価格(FIT価格)を変更できないため転嫁が難しいのではないかとの指摘がある。そのため、どのような場合にどのような調整措置を講じるべきか、調達価格等算定委員会の中で今後議論していく。

 ●制度の詳細設計の議論が進む中、今月17日の審議会において「FIT電源についても他電源と同様に小売りからの転嫁がされうるものとしてはどうか」という議論もなされている。それも含めて調整措置全体については、調達価格等算定委員会の中で今後議論していく。

 ●適地が限定され、今後大規模な系統増強が避けられない電源については、発電側基本料金の導入とセットで初期負担の軽減策(一般負担上限の見直し)を講じている。昨年6月に措置済みで、例えば東北北部エリアにおける大規模な系統増強が検討されている事例では、再エネ事業者の初期負担が総額で約700億円が軽減された。

 ●立地場所に選択の余地がある電源については、割引地域に立地することで発電側基本料金の負担は軽減される。

 要するに、今回の措置は再エネ拡大のためにも必要で、反発しているメガソーラー事業者が求めている調整措置への対応は今後検討中ということだが、いずれにせよ制度の詳細設計はいずれ固まっていく見込みだ。それまで太陽光発電事業者は戦々恐々の日々を送るだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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