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新幹線通り魔殺人犯が望んだ「一生刑務所」、司法が判決でお墨付きの理不尽

2019年12月18日 15時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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新幹線改札から出てきた捜査員ら
新幹線改札から出てきた捜査員ら(2018年06月10日撮影) Photo:JIJI

走行中の新幹線で起きた通り魔殺傷事件で、司法は「一生、刑務所に入りたい」「自分の命は惜しい(から死刑にはなりたくない)」という被告の望みを聞き入れた。昨年6月、東海道新幹線で3人を死傷させ、殺人と殺人未遂罪に問われた小島一朗被告(23)の裁判員裁判。横浜地検は9日、無期懲役を求刑し、横浜地裁小田原支部は18日、求刑通り無期懲役を言い渡した。量刑は検察側と弁護側双方の要求通りで、このまま確定するとみられる。この判決が確定すれば、小島被告が望む「無期懲役囚」という身分と、食事など生活に必要な費用を国が生涯、保証することになる。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

「反省見られず再犯は必至」と検察側

 判決によると、小島被告は昨年6月9日午後9時45分ごろ、新横浜-小田原間を走行中の東京発新大阪行き「のぞみ265号」で、20代の女性2人をナタで襲って重傷を負わせ、止めに入った会社員、梅田耕太郎さん(当時38)=兵庫県尼崎市=の首など78カ所をナタやナイフで切り付けて殺害した。

 公判で小島被告は、犯行の動機について「子どものころから刑務所に入るのが夢だった」と陳述。

 そして「有期刑だったら出所後に必ず人を殺す」「刑務所で更生することはない」などと述べる一方、死刑の可能性について問われ「おびえている」とも明かしていた。

 検察側は論告求刑公判で「身勝手な動機による計画的で凶悪な無差別殺人。反省の態度は一切見られず、再犯は必至と考えられる」として無期懲役を求刑。

 弁護側は「外見的に謝罪、反省はしていないかもしれないが、長期の服役で反省、謝罪することがあるかもしれない」と訴えていた。

 当時の目撃者の証言や公判の事実認定を基に、事件を振り返っておこう。

 判決の通り、事件は昨年6月9日夜、16両編成の東海道新幹線「のぞみ」12号車で発生した。

 土曜夜の車内は東京ディズニーリゾートのお土産袋を携えた家族連れや仕事帰りのビジネスマンらが乗り、眠っている乗客もいた。

 新横浜駅を9時42分の定刻通り出発した数分後、小島被告は12号車の後方から3列目の座席で、隣の女性にナタでいきなり切り付けた。

 悲鳴が響き、ざわめく車内。女性がかろうじて逃げ出した後、止めに入った梅田さんが切り付けられた。

 深手を負ったのか、梅田さんはあお向けに倒れ身動きできない。小島被告は馬乗りになり、なおも梅田さんを殴り続けた。

 新幹線は小田原駅に緊急停車し、神奈川県警の警察官が突入。その時も小島被告は梅田さんにまたがったまま。警察官に促され無言で立ち上がったが、抵抗する様子などはなかったという。

すでに出ている結論に苦悩は不要

 この事件を巡り、筆者は初公判後、全国紙で司法担当が長かった社会部デスクと求刑や判決の見通しについて話していた。

 デスクは「求刑は死刑でしょう。犠牲者1人とはいえ、情状面をどこに見出せばいいのか分からないほど心証が悪すぎる。でも『1人』だと、判決は無期懲役でしょうね」と予想していた。筆者も同感だった。

 しかし、求刑は「無期懲役」。

「えっ?」と驚いたが、何となく合点もいった。というのは、2日の最高裁判決と、5日の東京高裁判決が頭にあったからだ。

 2日の最高裁判決は大阪・ミナミで2012年6月、男女2人が犠牲になった通り魔殺人事件で、一審大阪地裁の裁判員裁判は死刑判決としたが、二審大阪高裁は破棄して無期懲役に。最高裁は二審の量刑を妥当と認めた。

 5日の東京高裁判決は埼玉県熊谷市で2015年9月、小学生2人を含む6人が犠牲になった事件で、一審さいたま地裁の裁判員裁判判決を破棄し、無期懲役とした。

 一審裁判員裁判で死刑判決が出され、二審で破棄されたケースはミナミの事件が5例目で、いずれも最高裁で確定。そして、確定はしていないが「二審で死刑判決破棄」は熊谷の事件が6例目だったからだ。

 これまで記者会見した裁判員は、死刑判決を出すに当たり決まって苦悩を口にしていた。

「永山基準」など、刑事裁判は「前例踏襲」「相場感」がある。検察官が「裁判員裁判で死刑判決が出ても、二審でどうせひっくり返る」「他人の命を左右する判断で、寿命が縮まるほどの苦悩をさせる必要はない」と考えたとしても不思議はない。

 無期懲役という結論が最初からあるのであれば、民間人に身もだえするほどの苦悩を強いる必要はない。「負担を感じないで無期懲役を追認してください」で事足りるのだ。

3人殺すと死刑だから2人と供述

 初公判からの要点は以下の通りだ。

 初公判は11月28日。小島被告は判決と同じ「起訴事実」をすべて認めた上で、ためらいもなく「ナタとナイフで、殺し切りました」と胸を張った。

 検察官が押収した証拠のナイフを提示し「要りませんね?」と問うと、表情を変えず「有期刑になって出所したら、(また殺人をするために)新しいものを買うので要りません」と述べた。

 第2回公判が開かれた12月3日。犯行動機とともに、実行した経緯について「(生活に困窮し)ホームレスになって餓死するか、精神科に入院するか、刑務所に入るかの3択だった」と述べた。

 切符を購入する際に通路側を選んだのは「窓際の乗客を確実に殺せる」とし、襲った女性の頭を狙ったが「全然死ななかった」と振り返った。

 そして「3人殺すと死刑になってしまうので、2人にしようと思った」と計画性を示唆。梅田さんに切り付けていた際、車掌に制止された時は「まだ生きていた。ガンガンやった」と殺意を誇示していた。

 第3回公判(12月4日)で、検察官が「隣の席にいたのが老人や子どもだったらどうしたか」と質問。小島被告は「男でも女でも、老人でも子どもでも人間であればやろうと思った」「私にも普通の倫理感はあるが、自分の欲望を優先した」と述べた。

 小島被告を精神鑑定した医師は「人格障害が影響しているが、犯行は計画的で事件に障害の影響はなかった」と責任能力はあるとした。

「よく頑張ったね、えらい」と母親

 第4回公判(12月5日)は、梅田さんの母親の供述調書が朗読された。「思いやりがあり、誰にでも優しかった。正義感も強かった」。

 女性を襲った小島被告を制止したことに「逃げてほしかったけど、立ち向かうことを選んだ息子を、けなげでいとおしく思います」とほめたたえた。

 警察署で変わり果てた姿に対面した時は「よく頑張ったね。えらい、えらい」と遺体をなでてあげたという。

 この陳述に対し、謝罪の意思を問われた小島被告は「一切ない」ときっぱり。理由を問われ「謝罪すれば(情状で)仮釈放されてしまう」と拒んだ。

 検察側に死刑求刑・判決は念頭にないのかと問われ「その可能性を聞かされ、おびえている」と答えた。

 佐脇有起裁判長に「あまりに自己中心的で身勝手と思わないか?」と問われると「そう思う」。自らが遺族・犠牲者だったらと問われると「絶対に許さない」と最後まで身勝手を貫いた。

 そして12月9日に開かれた論告求刑公判。検察側は死刑求刑も検討したが、パーソナリティー障害が動機に影響したなどとして死刑求刑を回避し、無期懲役が相当と結論付けた。

 結果は冒頭の通り。

 確かに、裁判員には苦悩を強いるかもしれない。しかし、日本の法律には死刑が存在する。小島被告は「死刑にならない」と高をくくっていた。余裕さえあった。

 元死刑囚(執行)に面会したことがある全国紙の元同僚によると、「毎朝、お迎え(死刑を告げる看守)が来るんじゃないかとおびえていた」と話していた。

 自分は見も知らぬ他人の命を奪ったが、自分は死にたくない。自分は子どものころから望んでいた刑務所で一生涯、生活したい…。

 こんな身勝手はあるだろうか。求刑から判決までの10日間、結果は別として、小島被告には「死の恐怖」を味わわせても良かったと思うのは、筆者だけだろうか。

 繰り返しになるが、小島被告はこれから、子どものころから望んでいた生活を一生涯、保障される。

 通り魔殺人犯になめ切られ、望む生活をみすみす与えるような司法を、国民は信用していいのだろうか…。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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