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新国立競技場は「地図」に残るだけでなく「予算」も残る仕事だった

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新国立競技場の4階
新国立競技場の4階 Photo by Tomomi Matsuno

デザイン変更や短い工期といった問題を乗り越えて11月末に完成した新国立競技場。一時、建設費が3462億円に上る試算が出ていたものの、結局予算内に着地した。会場を歩くと費用のかけどころの「メリハリ」が見て取れた。(ダイヤモンド編集部 松野友美)

新国立競技場がついに竣工
結局、大成建設はもうかったのか

 2020年の東京五輪・パラリンピックにおいて開・閉会式や陸上競技やサッカー競技で使われる新国立競技場が完成した。12月15日に竣工式を開催、内部がお披露目された。

 新国立競技場の工事費(スタジアム本体と周辺整備)は、12年当初計画で1300億円程度だったものが、建築家の故ザハ・ハディド氏によるデザイン案の試算で最大3462億円まで膨れ上がった。高額すぎることからザハ案は白紙撤回され、大成建設、梓設計、隈研吾建築都市設計事務所による共同企業体(JV)が16年に契約した。

 大成にとっては受注することに大きな意味があった。

「旧国立競技場を施工したのは大成。会社の先輩が建てた建物の後継の施工を他のゼネコンに譲り渡すなんてことは受け入れられないから、なにがなんでも大成は受注を逃さなかったはず」「歴史に残るシンボリックな構造物こそ、利益がほとんど出なくても手掛けたいのがゼネコンの性(さが)」。

 そうした心情はさておき、この一大工事で大成はもうかったのだろうか。

新国立競技場外観
新国立競技場外観 Photo by T.M.

最終的にかかった工事費は1529億円
天井を見上げるとむき出しの配管

 デザインのやり直しが15年に決まったため、完成までの工事期間は36カ月間という限られたものだった。

 大成JVは、施工しやすい設計を計画するデザインビルト方式を採用したほか、同じパーツを繰り返し施工することで職人の習熟度を上げるなど工期を短縮する工夫を凝らし、工期通り19年11月中に完成し、月末に発注者へと引き渡しを完了した。

 労務費・資材費の高騰する中、同時期に再開発が多数集中して建設需要が膨らんだことなども工事費の増大に影響したものの、最終的にかかった工事費は1529億円。工事費予算の上限を21億円下回るものとなった。

 地図に残るだけでなく、“金の残る仕事”だったとみられる。

新国立競技場
天井にはむき出しの配管が目立つ Photo by T.M.

 会場内で天井を見上げると、天板が張られず配管がむき出しだ。工事を発注した日本スポーツ振興センターの高橋武男・新国立競技場設置本部総括役は、「コストをかけるところ、かけない所にメリハリを利かせている」と説明する。見てくれは悪いが、むき出しのほうが資材や施工のコストが安く、メンテナンスもやりやすいというわけだ。

 他の設備を見ても、コストカットの結果だろうと想像できるものが散見される。デジタルサイネージを設置した「情報の庭」や長椅子が置かれた「風のテラス」の天井部分の照明こそ、建築家の隈健吾氏がこだわり、ホタルの光を模したデザインとなっているが、その他の通路を照らす多くの照明は特殊なものではない。

新国立競技場「風のテラス」
「風のテラス」。照明はホタルが飛び交う際の光の線をイメージしている Photo by T.M.

 おそらく、工事で特に金がかかったのは、労務費だろう。現場では、建設工事に関わっていた建設会社の若手社員の男性が過重労働の末に自殺した労働災害もあり、働き方改革の一環で残業はコントロールされてきた。途中から夜間の工事もなくなったため、日中に多くの人手が必要だった。スタジアム建設に関わった作業員の数は累計でおよそ150万人。ピーク時は1日約2800人が作業に当たった。

 工事費には、労務費や資材費について物価高騰によるやむを得ない事情として工事費の支払いを増額する「スライド条項」が適用され、消費増税分も含めて21億円上積みされた。それでも国は予算内で無事に大会会場が確保し、大成JVは実績と利益を手にすることができたのだろう。

 一般に、契約上の工事費は予算内に収まっていれば問題がなく、工事費の実費は施工の効率化を努力することで圧縮できる。この差額が受注者の利益になる。スライド条項を適用できれば、実費が物価などで上昇した分の差額を発注者に請求できるので、受注者は利益を削らずに済む。

 ただ、競技場そのものについては、年間24億円かかると言われる維持管理費を回収する具体的な計画が先送りとなっている。競技場関係者たちは完成をもって安堵できるわけではない。

 競技場は、五輪はもちろん、その後も使われ続けていくものになっているのか。

 観戦のしやすさに関わる座席の設置角度は、1番下の階層席で20度、中間席で29度、一番上の席で34度と上に行くほど傾斜があるため、どの席からもしっかり競技が見えそうだ。

 ここで気になるのが暑さと寒さへの対策である。

五輪の真夏対応はぶっつけ本番
暑さ、そして寒さへ対策は?

 新国立競技場は、五輪・パラリンピック前に実際に観客が入る4つのイベント開催が決まっている。12月21日に行われるスポーツ・音楽・文化のオープニングイベントと、20年の元日に開催する第99回全日本サッカー選手権大会(天皇杯)決勝、5月に2回ある陸上大会だ。天皇杯以降は競技運営と大会運営の能力を高めるためのテストイベントに指定されているが、開催は冬から初夏にかけてで、五輪の真夏の対応はぶっつけ本番となる。

 暑さ対策は、客席の頭上に設置された扇風機(気流創出ファン)と、ミスト冷却設備のほか、主に自然の風が頼りだ。風によって会場内の気温を下げるべく、設計が工夫されている。

新国立競技場「空の杜」
5階には四季折々の草花が囲む「空の杜」がある。上部には木目がプリントされたアルミ製ルーバーが見える Photo by T.M.

 例えば、天井とスタジアム側面の間には、スタジアム一周をぐるりとアルミ製の細長い板(ルーバー)が内側に向かって斜めに設置されている。ルーバーの板の間には隙間が空いていて、ここを風が通ってスタジアム中央や客席に抜ける設計になっている。隙間の間隔は、夏に風が吹いてくる南東方向が最も狭くなっており、風をスタジアムの下層に届ける。対岸の北西の隙間は最も広くなっており、風を上空に逃がす。

 また、各階の側面には壁はあるものの、密閉していないため風の通り道ができる。こうして空気の流れをコントロールしているのだ。ただ、内部の温度を具体的に何度下げる効果があるのか、数値では検証されていない。

 寒さについては対策らしきものが見当たらなかった。観客席入り口にガラス扉があるものの、会場内は吹きさらし。内覧会当日は晴天だったが、風が通ると寒さが身に染みた。

 五輪を乗り越えたとして、大会後に過去の遺物とならずに市民から親しまれ、活躍するスタジアムになるための課題は残っている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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