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「怪しくない」海外運び屋ビジネスの実態、日当は1~5万円

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依頼人からの荷物を運ぶ「ハンドキャリー」という仕事がある。麻薬などの「運び屋」とは違い、ちゃんとした荷物を運ぶ堅実なビジネスである。知られざるハンドキャリーの現場を取材してみた。

ダークな「運び屋」ではない
ハンドキャリービジネスとは?

空港のターンテーブル
ハンドキャリーの貨物は普通のターンテーブルで受け取る Photo:San Miguel Chikuzen(以下同)

「誰でも簡単にできると誤解されていることもあり、キャリアーの募集はしていません」と話すのは、大阪にある国際ハンドキャリー専門業者幹部。ハンドキャリービジネスとは、海外の指定都市へ原則24時間以内に貨物を届ける国際運送サービスを指す。

 麻薬など違法薬物や金塊などを運ぶ、いわゆる「運び屋」と誤解されることが多いが、決して危ない仕事ではなく、れっきとした堅実なビジネスで、実は非常にハードワークだったりもする。

「よくテレビのバラエティ番組や週刊誌などで『タダでラクラク海外へ行ける』みたいに紹介されると、直後から仕事を希望する電話が鳴り止まなくなるので正直迷惑しています」(同)

 ハンドキャリーを依頼するのは、世界中に工場を展開するようなグローバル企業が多い。希望企業は、まずフォワーダーと呼ばれる大手運送業者へ依頼。フォワーダーがハンドキャリー専業者へ依頼し、飛べる人材を確保して運送するという流れが主流となる。

 貨物の種類は、緊急出庫の機械部品や電子部品から衣類の新作サンプルなど多岐に渡る。いずれもその部品がないと製品が完成せず、1000万円以上もの違約金が発生したり、展示会に間に合わずそのシーズンの売り上げを棒に振ることになるような、重要な貨物ばかり。損失を確実に回避するために、高額にもかかわらずハンドキャリーを依頼して運搬するというわけだ。

 企業からハンドキャリーの依頼を受けるフォワーダーとは、日本の大手運送会社も含まれる。歴史が長いこともあり業界体質は非常に保守的といわれ、新規顧客や新興企業からの依頼には慎重のようだ。結果として、実際に運搬するキャリアーからすれば、“危ないもの”を運ぶリスクの低減につながっている。

現役キャリアーが語る
仕事内容の現実とは

 ここで疑問となるのが、「なぜ通常の航空便を利用せず、高額なハンドキャリーを選ぶのか?」だ。もちろん、時間的な制約が一番の理由であろうが、もう1つは、こんな事情がある。

「運送専用機を除き、航空便は、一般の旅客機を利用することが多いのですが、積載する貨物は搭乗客の手荷物、貨物が優先されます。つまり偶然、搭乗客が100kgクラスの貨物を持ち込んだりして積載キャパがなくなると、航空便の貨物は、自動的に次便へ変更となることがあります。確実に積載できるという保証がないんです」(同)

多いときには1人で100キログラムの貨物を運搬することも

 時間勝負の緊急出庫なので、例え50万円余分にコストがかかっても、確実に時間が読めるハンドキャリーを利用するという事情があるようだ。

 では、実際に運搬するキャリアーはどうやって集めているのだろうか。

 中国広州にあるハンドキャリー会社へよると、現役のキャリアーからの紹介が多いとのことだ。

「ハンドキャリーに求められるのは語学力よりも判断力と柔軟性になります。また、運搬先で顧客と直接会うケースも多いので、社会性や人間性も重視されます。以前、サイトで募集して採用した日本人男性へ仕事を依頼したら、届け先に短パン、柄もののTシャツにスリッパで現れたと顧客に指摘されたので、以降は、服装のルールを作ったり、現役のキャリアーさんからの紹介で人材を集めています」(広州のハンドキャリー会社)

 報酬は、会社によって異なるが、アジアへの1泊2日の仕事で、1万5000円から5万円くらいで、報酬とは別にホテル代が出る会社もあれば、ホテル代や移動費なども込みの会社もある。報酬以外にも個人へ付与されるマイレージももらえ、航空券代が変わらなければ、延泊もできる。

 これだけ聞くといいことずくめに思えるが、キャリアー歴10年になる日本人男性A氏によると、そう簡単な話でもない。

「国によって税関ルールが異なるのでトラブルも多いですよ。特に厳しいのは、アメリカ、イギリス、インド、アイルランドあたりで、米テキサス州のダラスでは、持参した書類に不備があると指摘されて7時間拘束されたこともあります。電話もトイレも監視付きで、まるで囚人になった気分でした。その一方で、税関は緩いのですが事実上の賄賂を要求される国もあり、その場その場で判断することが求められます。目的は、貨物を確実に運んで顧客へ渡すことなのでそれをゴールに判断します」

日本人キャリアーが
重宝される理由とは

 A氏の本業はフリーランスの翻訳家。以前、バンコクに滞在しているときに紹介されて始めたのがキッカケで、拠点を日本へ戻してからも続けている。

「私が登録している会社は、TOEICなどの語学力の要求が高く、登録ハードルも高いのですが、その分、他社と比べても高報酬で安全堅実な仕事しかないので、安心して受けられます」(A氏)

 しかし、2017年以降は、世界的なハンドキャリービジネスの市場は減少を続けているという。その理由は、事実上禁止したインドネシアのように、国による規制強化や景気の減速などがある。

 搭乗者の持ち込み荷物として運搬するハンドキャリーは、取れる関税が少ないことも規制の背景にありそうだ。

 他にも、経費節約のため現地法人内に日本人がいれば、ハンドキャリーを依頼せずに社内人材が運搬する企業なども増えているという。英「ヘンリー&パートナーズ」が毎年発表する『パスポートランキング2019』によれは、日本のパスポートは、世界190の国と地域へビザなしか、現地空港で取得できるアライバルビザで入国でき、世界1位となっている。

「今晩、ドイツへ」となっても、日本人であれば身一つで飛んで行けることも、日本人のキャリアーが重宝される理由といえる。

 ハンドキャリーは本来、工場での生産遅延や想定外のトラブルのようなネガティブな状況のときに発生する、いわば隙間産業といえる。こうした事態はいつの世も必ず発生する。一定のニーズがあるビジネスなのだ。

(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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