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親の介護でモメない相続、「介護した人」も現金請求ができる!

2019年12月11日 06時00分更新

文● 税理士法人レガシィ(ダイヤモンド・オンライン

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介護を手伝うことがなかった実の子どもたちや親戚とモメた末に、介護者(おもにお嫁さん)が涙を飲むことがほとんどだったが法改正で現金請求が可能に(写真はイメージです) Photo:PIXTA

「人生100年時代」といわれる近年、寿命が延びたことにより、親の介護や認知症事例が増加し、相続に関する状況も変化してきています。約40年ぶりの相続法の改正では、こういった状況が考慮された面もありました。しかし、それは法律上のものであって、実際の相続において、どう対応していけばいいかという点についてはあまりいわれていないのが現状です。そこで前回に続き、これまでに1万件以上の相続の「現場」を見てきた、税理士法人レガシィの最新刊『「親の介護・認知症」でやってはいけない相続』(青春出版社)から、親の介護が必要になった場合の円満相続のヒントを紹介します。

相続法の改正で「介護した人」への貢献度が認められた

 今回の相続法改正でとても注目度が高いのが、「相続人以外の親族の特別寄与制度の創設」です。法定相続人ではない長男の嫁など、介護や看護をした人への貢献が法的にも認められたという意味では、非常に画期的なことでしょう。要は相続人以外にも介護の貢献分を現金請求することが可能になったのです。

 しかし、その金額は「日当」程度です。例えば長男の嫁が義母を10年間介護していたとします。日当2000円として計算すると、「日当2000円×365日×10年=730万円」になります。これを高いと見るか、安いと見るかは人それぞれ、そのご家庭それぞれでも意見が分かれることでしょう。実際、多くの犠牲を払い、義父母を介護し続けても、その貢献に見合った相続がおこなわれることはまずありません。介護を手伝うことがなかった実の子どもたちや親戚とモメた末に、介護者(おもにお嫁さん)が涙を飲むことがほとんどだったのです。

 そういった意味では今回の改正で、現金請求が可能になっただけでも大きな前進です。ただ、認められるには、「付き添い看護を頼まずにすんだ」「介護施設に入居せずに自宅で介護することができた」など、介護や看護をしたことによって、被相続人(義父母など)のお金を使わずにすんだケースや、無報酬かそれに近い状態で介護を続けたなど、お金で計算できるような働きがある場合になります。

 介護をしたほうからすれば、お金を使わずにすんだことよりも、「介護をするのは精神的なストレスが高く、自分の時間を犠牲にして大変だった」といった精神的な負担について、報われないという思いが強いのではないでしょうか。しかし、残念ながら精神的な負担だけでは、認められないこともあるのです。しかも、寄与料を受けるには相続人全員の同意が必要です。ほかの相続人がそれを認めない場合は裁判等になり、時間、お金、労力をかけて戦うことになります。果たして、そうまでして戦ってどれだけもらえるのでしょうか。

 訴える前にきょうだいが寄与料を認めさえすれば、そもそも戦う必要はありません。今までは、お嫁さん側も「お金がほしくて介護をしてきたわけではないから、金銭までは求めません」ということで収まっていたことですが、これからは少し違ってくるかもしれません。

 まだ改正されたばかりなので、実際にどれくらいの人が金銭請求をおこなうかは未知数ですが、いずれにしろ、法律で認められたことは大きな進歩であることは間違いありません。

親の介護で“モメない”ための事前対策

「大切な父親、母親の介護をするのに、なぜ家族でモメてしまうことが多いの?」介護を経験していない方は、このような疑問を持つかもしれません。でも、実際に介護(特に同居で)をした方にしかわからない大変な負担があるのです。介護をしていれば、自分の時間をとられ、行動が制限されてしまうことはもちろん、肉体的な負担、精神的な負担、そして経済的な負担もあります。

 介護には大きく分けて3つあります。それが「身体の介護」「心の介護」「資産の介護」です。「介護」と聞いて、誰もが思い浮かべるのが「身体の介護」でしょう。代表的なものは排泄・入浴・脱衣などの介護です。これはヘルパーさんの助けを求めることができます。さらには、介護施設の援助を受けることもできます。

「心の介護」は、介護される人が孤独感や疑心暗鬼にならないための心のケアのことを指します。心の介護とは、寄り添うこと。心の介護ができるのは、家族です。

 そして「資産の介護」。預貯金の出入りや、だまされないためのケアです。先に紹介した家族信託などや任意後見などの制度もあり、家族に託すか、もしくは私たちのような専門家のアドバイスを受けることができます。

 このなかで、家族にしかできないものは、「心の介護」だけです。このことを知ったうえで、介護でモメないための事前対策を考えてみましょう。理想的なのは、介護がはじまる前、健康なうちにきょうだい間で話し合っておくことです。

 ただ、親が元気なうちは、なかなかそこまではできないのが現実でしょう。となれば次の段階は、「介護がはじまる段階」で話し合うことです。親に認知症の症状が見られた、転んで骨折をしたなど、いよいよ介護が必要となったら、すぐに話し合いましょう。

 実はこれこそが、あとあと相続でモメ事をつくらない最大のポイントといってもいいでしょう。ただ漫然と話し合うのではなく、具体的に話し合うことが大切です。例えば、「ヘルパーさんとの窓口になるのは誰か」「(介護にかかるお金を計算したうえで、親のお金でまかないきれない場合)誰が月いくら払うか」「親の財産管理は誰がやるか」など、細かく挙げればたくさんあります。

 お金の問題はなかなか話しづらいかもしれませんが、ここでこじれれば、相続時に金銭請求をする(される)ことになりかねません。相続の実務を担う私たちから見た場合、「嫁の特別寄与制度」を使うのは、あくまでも「最後の手段」です。介護をした長男夫婦がきょうだいに金銭的請求を訴えるのは、ほかに打つ手がないとき、ということです。ただし、介護はその都度、状況が変わるものです。介護度が上がったり、必要なケアが増えたり、入院したり、施設に入居することもあるでしょう。

「そんな話は聞いてない」「兄貴が勝手に施設に入れることを決めたんじゃないか」などということのないように、その時々できょうだいで情報を共有し、コミュニケーションをとることが大切です。

親の介護について兄弟で話し合うときのポイント

 では実際、きょうだいで介護について相談する際、どのように話を持っていったらいいのでしょうか。きょうだいとはいえ、盆暮れ正月くらいしか顔を合わせないケースも多く、遠方に住んでいて直接話し合うことが難しい人も多いでしょう。

 介護の状況をこまめに報告し、情報を共有するのに便利なのがLINEなどのツールです。こういったツールを積極的に使って、こまめに情報をシェアしましょう。ただ、このようなやりとりは比較的女性のほうが得意で男性はマメにやりとりするのが苦手な傾向がありますが、苦手意識は持たずに、ルールを決めて、気長にやることが大切です。

 例えば、介護にかかるお金に関することで話し合ったとしましょう。きょうだいによって、経済的な余裕に差があることも珍しくありません。話し合いによって、長男が介護費用を負担し、次男が払えないとなった場合、「長男が負担した分は、相続のときに調整しよう」ということもできます。

 実際の介護を負担するのが長男の嫁であれば、この時点で相続のときに配慮してもらうようにする、月々の介護費用の一部は次男夫婦に負担してもらうなど、話し合っておくこともできるでしょう。こういった話し合いが、介護が発生した時点でできていれば、モメ事は確実に減るはずです。

 介護はそれぞれの家庭で状況も違えば、きょうだい構成も違い、介護度も違います。これがベスト、という正解はないのです。だからこそ、自分たちで落としどころを決めるしかありません。そのタイミングは、「介護の必要が見えてきたとき」です。ここで落としどころをある程度決めておき、状況が変わるたびに話し合って情報を共有するのです。

 そのときに大切なのが「相手の立場に立って考えること」。それが本当の意味での「共有」です。長男なら「もし私が弟だったら」、弟なら「もし私が同居している兄の立場だったら」と考えてみる――これがなかなか、できそうでできません。相続の現場でも、「相手の立場に立って考える」ことができていたら、防げたトラブルがたくさんあっただろう、と想像します。

 相続では細かな知識や節税などの実務的なことも大切ですが、同時に自分の父母や義父・義母からそれぞれの思いや生き方を受け継ぐことにもつながります。それぞれの人から何を相続するのか、また自分がそうなったとき何を遺せるのかなどを思いながら人生を歩んでいくのも興味深いのではないでしょうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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