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対中韓・造船サバイバル再編最終章、今治造船&JMU連合誕生の全内幕

2019年12月05日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,新井美江子(ダイヤモンド・オンライン

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造船
今治造船は、ジャパン マリンユナイテッドに資本参加する理由を「提携効果を最大限に出すために、関係を強化する必要があった」と解説する Photo by Mieko Arai

総合重工系のジャパン マリンユナイテッドとオーナー系の今治造船が資本業務提携を発表した。“深くて長い川”が流れる重工系とオーナー系を代表する国内ツートップが手を携えたのはなぜなのか。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

重工系とオーナー系の間に流れる
“深くて長い川”をついに渡る

「真剣に、本当に真剣に経営している」。11月19日の記者懇親会の席で、筆者が造船業界の厳しい行く末について問うたところ、いつもは穏やかな千葉光太郎・ジャパン マリンユナイテッド(JMU)社長は、鋭いまなざしで少し憤りながらこう語っていた。

 それもそのはずだ。このとき、JFEホールディングス(HD)とIHIを二大株主に持つ総合重工系の造船会社であるJMUは、これまでの業界常識では考えられない大決断を下す最終局面にあったはずだからだ。

 その決断とは、オーナー系の造船専業会社である今治造船との資本業務提携である。千葉社長の強い“決意”を垣間見てから10日後の11月29日、JMUは今造と同提携を結ぶことで基本合意したと発表した。

 JMUは、日本の高度経済成長期を支え、今も艦艇を建造して国家の防衛を担う名門の「重工系」。一方の今造は、船の効率的な建造を徹底するとともに、非上場企業として浮き沈みの激しい造船業界を巧みに渡り歩く「オーナー系」である。

 同じ造船事業を展開する企業だが、この二つの造船流派の間には、“深くて長い川”が流れているとされる。

 JMUはその川を渡って今造との資本提携にまで踏み込むというのである。おまけに、今回の資本提携では、今造によるJMUの新株の引き受けが検討されている。そのため、複数の造船業界関係者は、「今造による事実上の救済スキームだ」と口をそろえる。

 今でこそ国内ナンバー1は今造、ナンバー2はJMUと建造量での立場は逆転しているが、オーナー系は重工系に学んで技術を培ってきた歴史がある。そのため、「重工系がオーナー系の傘下に入った」(同)とされる“世紀の提携”の一報が知れ渡ると、造船業界には激震が走った。

 今造による出資比率は未定だが、造船業界では早くも「JFEHDとIHIの出資比率を超えない範囲、つまり『30%まで』にとどまるだろう」との臆測が飛び交っている。

 そんな驚きの提携が実現してしまうくらい、造船市況は悪い。リーマンショック前後に大量に造られた船が滞留して供給過剰が続いているというのに、中国・韓国勢が強烈な価格攻勢を掛けているからだ。

 特に韓国は自国の雇用を守る目的で造船業に公的助成まで行っているとされ、船価低迷と価格競争から一向に抜け出せない状態が続いている。

 実際に、日本勢の仕事は枯渇していた。「みんな手持ちの受注が2年分を切り、焦りを感じていた」(重工系造船会社役員)という。

 おまけに今年に入り、中韓勢は再編にまで打って出た。韓国では、世界最大手の現代重工業が大宇造船海洋の買収を表明。中国でも、2大国有造船グループの中国船舶工業集団と中国船舶重工集団が統合を決定し、ライバル2国で巨大造船会社が誕生してしまったのだ。「何としてでも、日本で造船業を続けていきたい」。JMU幹部は今造との資本業務提携の理由をこう説明するが、JMUにとってはまさに、生き残りを懸けた一世一代の決断だった。

 決断の後押しをしたのは、専ら大株主のJFEHDだったといわれている。

 かねて柿木厚司・JFEHD社長が事あるごとに造船業界における再編の必要性について語っていたのは周知の事実だ。2019年4~9月期決算で、「円高進行が響き18年3月期に続いて赤字に陥ったことで、JMUはいよいよJFEHDからの再編圧力から逃れられなくなったのだろう」と造船業界幹部はいう。

“救済”する今造も疲弊
中韓との競争で過剰設備問題が浮上

 翻って、今造を突き動かしたものは何だったのか。「日本の1位、2位連合で世界競争に勝つため」。12月2日、今造が毎年、系列の今治国際ホテルで大々的に行う取引先を集めた忘年会で、檜垣幸人・今治造船社長は今回の資本業務提携の目的をこう述べていたという。

 具体的なメリットは、まず日本勢同士のたたき合いを回避できることだ。今造とJMUは、ばら積み船の受注で激しい競争を繰り広げていたという。

 もう一つは、業務提携の内容としても表明されている「生産体制の効率化」だ。詳細は明かされていないが、将来的に想定されるのは2社の拠点の統廃合である。

 市況下落時でも底力があるといわれる今造だが、実は足元の造船事業は「重工系にたがわず、過当競争で疲弊している」(取引先首脳)。実際に、今造は取引先から、「中韓勢との価格競争が激しく、なかなか受注できていないのに、10カ所も造船所を保有しているのは設備過剰だ。拠点を整理して競争力を上げてほしい」という“苦言”が呈されていたほどだ。

 折も折、JMUでも、前身のユニバーサル造船とアイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドの統合以来、着手することがなかった拠点の統廃合が「生き残るための絶対条件」(造船業界関係者)であるとして、抜本改革が急務とされていた。

 確かに今、造船各社が受注するには「連続建造、短期納入が欠かせない」(JFEHD幹部)ため、規模の拡大には一定の意味がある。ただし、すでに持て余している両社の造船所を全て温存していては、設備を埋めるためだけの無理な受注が繰り返されるだけだ。

 さらに、JMUには痛みを伴う構造改革も必要だろう。例えば、今造流の厳しい仕入れ交渉術の習得や、高い給与水準の引き下げである。

 そして、造船業界では早くも「この2社連合に合流する造船会社があるのではないか」(前出の造船業界幹部)との観測が広がっている。国内ツートップ連合の誕生により、いよいよ「造船再編」最終章の幕が上がった。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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