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マイナス金利は「教科書的発想」による投資の転換を迫る

2019年12月04日 06時00分更新

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

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マイナス金利は「教科書的発想」による投資の転換を迫る
Photo:PIXTA

世界的な超低利時代
「金利水没」で投資が変わる

 日欧中心に国債利回りがマイナス(水没)になるなか、世界の投資家の多くが運用に窮する「運用難民」と化している。

 日本は今年後半に生じた金利低下で、10年物金利が再びマイナスになった。

 振り返れば、金利低下がボトムに達した2016年7月、日本の水没は20年ゾーンにまで及んだ。その後、2018年にかけ日本銀行が金融正常化に向けた対応にかじを切り、2018年7月にはYCC(イールドカーブコントロール)の弾力化を行い、10年金利は0.1%台まで浮上した。

 だが今年7月、米国FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策が利下げに転換したことで、世界的に金利は低下、8月末にかけて世界の金利は再び、2016年以来の水準まで下がった。

 その後、金利は戻しているが、「世界の金利の『水没』マップ」(次ページ・図表1)のように、依然として、日本と欧州を中心に広範な地域でのマイナス金利、いわば金利の水没状態が続いている。

 こうした環境では、投資に関する教科書的発想に転換が生じている。

基本は「LED戦略」
「長く」「外に」「多様な」投資

 ECB(欧州中央銀行)がマイナス金利を2014年に導入して以来、筆者は5年余り、「水没マップ」を用いながら、マイナス金利の下で投資家が資産運用を行うには、「LED戦略」つまり(1)長く(Long)、(2)外に(External)、(3)多様な(Diversify)リスクの3次元しか選択肢はないことを論じてきた。

 つまり、「L」、「長期化」については、従来以上に超長期債券の分野にフロンティアを考えることになる。「E」、「海外」については、まだ沈んでいないプラスの利回りを享受できる国を探して投資せざるを得ない。

 今回、水没領域拡大の下での投資のフロンティアを改めて考えれば、投資は従来以上に超長期債券の分野か、海外の新興国も含めた分野になりやすい。

 さらに「D」、「多様な」の次元では、新たな運用対象として、株式や不動産にとどまらずインフラ分野やオルタナティブ分野もフロンティアとして考える必要がある。

 つまり今後の投資は、単に「イールドハンティング」とされる投機的なものにとどまらず、新たな投資に関するフロンティアを検討する必要があることを意味している。

債券の新たなフロンティアは
市場機能が残る超長期分野

 従来、投資に関する教科書では、債券への投資は利払いに伴うインカムをより重視し、株式投資は配当よりも価格変動に伴うキャピタルゲインを得ることを主にしてきた。

 だが今の日本では債券の場合、期間10年程度までがマイナス金利になっているなか、債券のインカムにはもはや期待できず、実際にマイナス金利ゾーンでの価格変動、キャピタルゲインを得ることを狙った形での投資になっている。

 10 年程度まで利回りがマイナスに沈んだ債券市場の状況では、教科書的なインカム重視の投資はむしろ10年以上の超長期分野に限られる。

 つまり債券市場本来の機能が残存するゾーンは超長期に限られる。通常、債券市場で最も頻繁に売買され、長期金利の指標とされるのは10年ゾーンだが、今や指標性のある年限は20年にシフトしてきたといえる。

 したがって投資についても、「水中」から脱している超長期ゾーンに新たなフロンティアを求める必要がある。日本の国債は40年が最長だが、こうした超低金利下では50年以上の超長期債券の発行が話題になるのも自然なことだ。

 日銀は米国が追加的な利下げを行う際に、金利差縮小で為替が円高に振れることを警戒し、その場合にはマイナス金利の深掘りでの対応を検討しているとされる。

 図表2は日銀のマイナス金利深掘りに際してのイールドカーブのイメージだ。

 今後、短期の政策金利はマイナス幅が拡大されても、金融機関の収支に対する副作用の問題から、日銀は超長期金利については引き下げを抑制してイールドカーブを立たせる対応を行う可能性が高い。

 その結果、超長期ゾーンには一定の市場機能が残り、運用の妙味がある程度、確保されることが期待される。これまで、超長期分野は変動が大きいということで運用分野に含めてこなかった投資家も多くいたが、今後は新たな投資の次元として、超長期ゾーンも運用対象として検討する投資家も増えると考えられる。

株式はインカム重視に
配当が利払いの4倍以上

 一方で株式の場合は、マイナス金利でも配当はマイナスにならないため、配当の重要性が高まっている。その結果、株式投資はインカムを重視する考えが出てきている。

 図表3に示されるように、2018年度の法人企業統計では、企業が支払う利払いは6兆円台にすぎないが、配当は26兆円を超え利払いの4倍以上の水準にある。

 これだけの差があれば、株式投資のインカムとして配当を重視するのは自然なことでもある。

 昨今、個人投資家も株式配当を重視した投資を行う傾向があるが、同様のことはインカムを重視した不動産投資にも当てはまる。マイナス金利でも賃料はマイナスにならないなかで不動産市場も底上げされやすく、REIT市場への関心も高まっている。

 マイナス金利政策とは、ある面で、株式と不動産市場を底上げするための政策と言っても過言ではないだろう。

投資の基本は
キャッシュフローの源泉に

 投資の基本は結局、世の中が生み出すキャッシュフローをどう獲得するかということにかかっている。

 例えば、財政政策で国債発行が行われれば、債券で新たなキャッシュフローがもたらされたものを国債投資で獲得することになる。

 キャッシュフローが生じる源泉までさかのぼることが投資の鉄則であることを考えると、マイナス金利下の未曽有の運用難の環境では、従来、教科書的投資の発想でリスクフリーとされた債券や短期金融商品は投資の対象にはなりにくい。

 マイナス金利による「水中生活」は、従来の投資の常識を超えた発想、多様性への模索を中心とした対応が求められる。キャッシュフローが生み出される源流まで能動的に対応する姿勢が重要になる。

(みずほ総合研究所 副理事長/エグゼクティブエコノミスト 高田 創)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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