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近視進行を抑制するメガネや量子コンピュータ利用素材開発など革新的技術の知財を補強

特許庁の知財アクセラレーションプログラム(IPAS)、第2期採択企業5社を披露

特集
STARTUP×知財戦略

特許庁は11月28日に「第2回ナレッジシェアプログラム 今年度第2期採択スタートアップ企業のお披露目会」を東京国際フォーラムにて開催した。本イベントは、知財やビジネスの専門家、スタートアップ経営者の知識交流を目的としたもの。お披露目会では、2019年度の知財アクセラレーションプログラム(IPAS)の第2期に採択された企業5社が登壇し、それぞれ事業内容とプログラム参加の目的を紹介した。

 特許庁では、スタートアップ企業の知財戦略を支援するプログラム「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」を2018年度から実施。その活動のひとつとして、知財戦略に関心のある知財やビジネスの専門家やスタートアップのネットワーキングイベント「ナレッジシェアプログム」を定期開催している。今回は「今年度第2期採択スタートアップ企業のお披露目会」と題し、採択企業によるピッチと交流会が開かれた。

 2019年度のIPASでは、第1期に10社、第2期に5社の計15社を募集。第2期には50社以上の応募のなかから、株式会社Alivas株式会社坪田ラボBionicM株式会社QunaSys株式会社、UBiENCE株式会社の5社が採択された。

薬が効かない慢性便秘に低侵襲性治療という選択肢

 株式会社Alivasは、東京大学ジャパンバイオデザイン発の医療機器開発スタートアップ。先進国では人口の14%が慢性便秘に悩んでおり、そのうち26%が医療にかかっている。既存の治療法は、下剤など経口薬の処方が一般的だが、薬だけでは完治が難しく、7割の患者が不満を抱えている。結腸全摘出という外科的な治療法もあるが、体の負担が大きく現実的ではない。

 同社は、外科手術ほどのリスクがなく、内科よりも有効な治療として、新しい医療機器による低侵襲性治療を提案。現在は試作機による動物実験をしている段階だ。プレゼンの直前に、技術資料のスライドがメンター弁理士からの指摘により削除されており、具体的な治療法は非公開となった。さっそくIPASの指導が始まっているようだ。

完治の難しい慢性便秘に、第3の選択肢として医療機器を開発

目の健康に必要な光を通すメガネで近視の進行を防ぐ

 株式会社坪田ラボ は、近視、ドライアイ、老眼の治療を目指す、慶応大学発ベンチャー。近視は世界中で増え続け、現在は人類の80%以上が近眼だ。都内の私立中学校での調査によると95.3%がすでに近視だという。近視は悪化すると、失明の危険性もあり、その進行を抑制することが大切だ。

 坪田ラボでは、近視の進行を抑制するには、太陽光に含まれるバイオレットライト(波長360~400nmの光)を浴びる必要があるが、通常の近視用メガネをかけると、バイオレットライトを遮断してしまう。そこで、坪田ラボでは、バイオレットライトを通すメガネJINSと共同開発(現在発売中)。さらに、バイオレットライトを放出するメガネを開発中だ。現在、治験を行なっており、2023年を目途に医療機器としての認可を目指している。

近視進行を抑制するバイオレットライトを通すレンズ「JINSバイオレットプラスレンズ」をJINSと共同開発

動作を学習するロボット義足を開発

 現在の義足の99%は動力を持たない受動式義足で、膝の曲げ伸ばしができず、立ち上がる時も片足ずつしか上げられない、といった不自由さを抱えている。筋力のない高齢者の場合、義足は足腰の負担が大きく、車いすや寝たきりになってしまいがちだ。BionicM株式会社のCEO 孫小軍氏自身が義足ユーザーであり、生活に不便さを感じていたことからロボット義足を開発。

 ロボット工学を応用し、義足内のセンサーで収集した動作のデータを学習させることで、使えば使うほどに自然な動きができるように調整されるという。現在は、膝と足首の機能を代替するプロトタイプを開発中だ。

膝や足首のセンサーで動きを検知し、動作をアシスト

量子コンピューターで新たな素材開発

 QunaSys株式会社は、量子コンピューターで動作する量子物理計算アルゴリズムを開発しているスタートアップ。量子コンピューター技術は近年急速に発展しており、10月23日にはGoogleが54qubitを達成。3年以内には中規模のNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer)と呼ばれる量子コンピューターが開発され、量子科学計算などで実用化が始まる見込みだという。

 スパコンなどの従来のコンピューターでは計算ができなかった自然科学のシミュレーションが可能になれば、新たな素材開発など産業の発展が期待できる。同社では、国内の化学メーカーと共同でNISQ向けのアルゴリズム開発に取り組んでいるところだ。

量子コンピューターで自然化学のメカニズムを解明すれば合成方法の計算が可能になる

がんを分解して治療する経口薬を開発

 ユビエンス株式会社は、ユビキチンプロテアソーム系の技術を用いて、癌やアンメット・メディカル・ニーズをターゲットにした標的蛋白質分解誘導薬(TPD)を研究開発する創薬ベンチャー。TPDは、蛋白質の除去や標的へのアクセスが経口投与で実現できるのが特徴だ。

 たとえば、高齢者の白血病治療に用いられる分子標的薬「グリベック」は、5年生存率が90%と高いが効果があるが、約30%の患者には薬剤耐性が発生する。TPDでは、蛋白質を分解して原因そのものを取り除くので、薬の服用期間を減らすことができる。

TPDは、がんなどの蛋白質をユビキチン化して分解し、疾患を治療する

 2019年度の知財アクセラレーションプログラム(IPAS)の第2期は、11月~2020年1月までの約3ヵ月間に知財面とビジネス面の両面からメンタリングを実施、2020年3月に成果発表会が開かれる予定だ。

 なお、IP BASEには、IPASの募集概要や、2018年の成果事例集が公開されているので、プログラムに関心のある知財専門家やスタートアップは参照してほしい。

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