1ヵ月ほど間が空いてしまったが、業界に多大な影響を与えた現存メーカーHP編を続けよう。余談ながら、この1ヵ月の間にXeroxによるHPの買収提案、HPによる拒絶とXeroxによるTOB(敵対的買収)の意向が明らかにされるなど、いろいろ騒がしいことになっている。このHP編が終わるまでに決着がついているかどうか、やや怪しいところだが。
Platt氏に続きFiorina氏も
会社再編に失敗
さて時計の針を再び1999年に戻す。HP Wayを捨て去り、中央集権型の会社組織への転換を進めようとしたPlatt氏であるが、端的に言えば変革があまりに急すぎた。
長年HP Wayを信望してきた従業員から見れば、これまでの手厚い福利厚生を含む「会社に任せておけば大丈夫」という信頼が根底から崩れたことになるし、これまで非常に裁量権が高い、というか事実上放任状態に近い形で自身のビジネスを進めてきた事業部からすれば、Platt氏の方針転換は言うまでもなく自分の手足を縛ることになる。
こうした変革に素直に応じる人間は当然ながらあまりいないわけで、在任期間中のPlatt氏は、こうした社内の抵抗勢力と延々と戦う羽目になった。結果的にPlatt氏が思い描いたビジネスの変革は、十分定着しなかった。
結局Platt氏は(前任のYoung同様)取締役会から引導を渡される格好で、1999年5月にCEOを退任することになる。会長職には2000年まで残ったが、後任のCarly Fiorina氏が社内を掌握することになる。
画像の出典は、HPの1999年の年次報告書
先に結果だけ書いておけば、Fiorina氏もまた社内をまとめ上げられなかった。そもそもPlatt氏の世代にHPの基本的な価値観を転換し始めたものの、HP Wayに代わる新しい価値観を確立するには至らなかった。
そしてFiorina氏の時代も、いまさらHP Wayに戻ることはできず、しかしこれに代わる価値観を樹立することはついにできなかった。
2010年以降のHPのロゴには“invent”(発明せよ)というスローガンが入っているが、これが出てくるまでの間、HP Wayに代わる具体的なにかを持たなかった、というのがおそらく正直なところであろう(もちろんその時々で方針や施策は発表されていたが、HP Wayのような長期的なものは存在しなかったようだ)。
画像の出典は、“Wikipedia”
もっとも、Fiorina氏やその後に続く時代のHP社内はおそろしく変化に富んだもので、ゆっくりと価値観を育て上げるゆとりはなかったのだろう。
そしてFiorina氏は、わずか5年ほどでCEOの座を追われることになる。直接的な理由は売上不振だが、そもそも彼女の在任中の評判もあまりよろしくなかったようだ。
彼女の退任後にNYTimesに掲載された記事の最後に、HPの元従業員への短いインタビューが挟まっている。
簡単に翻訳すると「(Fiorina氏の退任は)大変すばらしいニュースです。残念ながら、だからといって元にもどれるわけではありません。彼女は(HPを)棄損した、というのが私の感想です。HPは彼女が成し遂げたことをすぐに捨て去るでしょう」というあたりが、従業員にどう考えられていたかを物語っている気がする。
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