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テコンドー金原会長「すがすがしい退任」の真意、本当に裏はないのか

2019年11月30日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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全日本テコンドー協会の金原昇会長
11月27日、検証委員会の聞き取り調査を終え、記者会見する全日本テコンドー協会の金原昇会長(左)と同委の境田正樹委員長 Photo:JIJI

 全日本テコンドー協会の金原昇会長が、検証委員会の勧告を受け入れ、会長を正式に退くことを表明した。

 検証委員会が発足して以降も、金原会長が発案し委任したこの「協会内組織」が公正な判断を下せるのか? 再任のための出来レースではないか? など、臆測と疑念が渦巻いていた。

 しかし、境田正樹委員長をはじめ計4人の検証委員は、金原昇会長再任の道を断ち、新体制への完全移行を提案。金原会長もこれを受け入れた。これは、11月27日に行われた金原会長への3度目のヒアリング後に開かれた記者会見で明らかにされたものだが、会見には境田委員長と金原会長がそろって現れ、初めて2人並んでの会見となった。

 会見場に入ってくる2人の表情は、境田委員長がやや硬め、金原会長の方がリラックスして見えた。果たして、どんな会談になったのか? 検証からほぼ1カ月、報告の期限が迫っているだけに、この日、境田委員長が金原会長に明確な方向性を示すと予想されていた。

 再任を認めるのか、認めないのか。焦点はそこだった。事前の取材から、検証委員会は忖度せず、はっきりと新体制への移行を提言するだろうと予想された。もし金原会長が内心は再任をもくろんでいるとすれば、「話が違う」とちゃぶ台を引っ繰り返す恐れもある。境田委員長も、その心配を片隅に携えているだろうと思われた。

 話の展開次第では決裂もありえる。しかし、心配は杞憂に終わった。

「すがすがしい気持ち」で退任快諾
検証委からの“最大級の評価”が背景か

 午後1時からのヒアリング。約1時間後の2時からは記者会見とアナウンスされていた。ところが、15分近くも早い、午後1時45分すぎ、2人は姿を現した。境田委員長の報告から記者会見は始まった。

「これまでの執行部には一度退いていただきたい。新しい体制でテコンドー協会の再生を図る。金原会長にも再任しないという方針をお伝えし、ご了解いただきました。

 調査してきた中で、ガバナンス、コンプライアンス上の違反は一切ありませんでした。金原会長は本当にしっかりした運営をされていました。しかし、強化をめぐる問題が大きくなる中で、混乱を収束する見通しが立たない。そこで新しい体制でやるべきだと判断しました」

 境田委員長は、概ねこのような結論をまず記者たちに報告した。

 次いで金原会長が、

「境田さんにお願いした時点から、一切お任せしていました。とてもすがすがしい気持ちです。私を再任する、しないは大した問題ではないんです。テコンドーの未来が開けるかどうか。これが一番の答え。検証委員会にお願いしたとき、私が思い描いていたとおりの結論を出していただきました」

 一点の曇りもないすがすがしさで言った。

 質疑応答の中で、「今後1週間で10人の理事候補を決定する。すべてテコンドーに関わりのなかった新しい人材」「8人までは決定している。あと2人と交渉中」「その中で、現千葉ジェッツ会長で、バスケットのBリーグ設立の際にも尽力してもらった島田慎二氏からは、公表してよい前提で受諾してもらっている」ことなどが境田委員長から明らかにされた。

 金原会長は、「反社会勢力でないのはもちろんのこと、反社会勢力とのつながりも我々の調査では認められなかった」「ガバナンス上、なんら違反はなかった」「むしろガバナンス、コンプライアンスに関してはとても素晴らしい組織作りをされていた」等々、検証委員会からお墨つきを得たことで十分な成果があったともいえるだろう。

 会長の職を失うことになったが、これまでの業績に最大級の評価を与えられたのだから、損得でいえば、損ばかりではない。だから素直に退任を受け入れたという見方もできるだろう。

元理事や選手たちからは不満も
新体制は新しい未来を作れるか

 一方、金原会長おろしを叫んで発信を続けていた正会員や元理事、選手たちからは、「強化をめぐる混乱についてはなんら検証がされていない」「会長の具体的な責任が追及されていない」「選手の要望に対する検証がない」といった不満がすぐにツイッターやフェイスブックで発信された。それは確かに、その通りかもしれない。

 だが、大局も見るべきだろう。金原会長が退任する。そしてまったく新しい人材たちに協会運営を委ねる。そのことで、選手や指導者、全国各地の会員たちの不満は解消され、新しい未来が広がるに違いない。

 何しろ、「お金もない、人材も少ない」との評価も受けたテコンドー協会がこの一件で、境田委員長が「ドリームチーム」とさえ形容する、えりすぐりの人物たちが参入することになる。倒産寸前の中小企業に超一流企業の経営者やブレーンが集まってくる、といったら失礼かもしれないが、これまでならありえない人材に未来を託せる幸運を得たのだ。

 ずっと緊張気味に話す境田委員長、朗らかな表情でしゃべる金原会長、2人の表情を目の前にして、私の身体は「問題を追及する」という論理的な思考の隙間から、人間の生きざまや生き方に心を揺さぶられるという情緒的な熱が湧き出すのを抑えられなかった。

 全理事が辞表を出し、検証委員会が発足してからも、金原会長との会話の端々からは、協会運営に対する並々ならぬ情熱と意欲が感じられた。

「将来のビジョンもなく、私以上の情熱もない人たちがただ感情的に騒いで、協会の中心になるようなら、私は簡単には譲りませんよ。協会運営はそんな甘いものではありません。素晴らしいビジョンを持って、テコンドーを発展させてくれる人材が現れたなら、私は喜んで譲ります。早くそうしたいともう2年前から言っています。本当ですよ」

 そんな熱に触れると、金原会長は再任を前提に考えているのではないかとの思いもよぎった。が、この日、わずか45分の会話の中で、「すべて検証委員会に委ねる。私はその決定に従います」という約束どおり、退任を受け入れた。

「何か裏があるのではないか」
勘繰る気持ちもわかるが素直に感動

 金原昇は男を見せた。私は、センチメンタルを何度も否定しようと試みたが、約束を貫いた金原会長の姿勢には素直に感銘を受けた。

 そして、境田正樹委員長ほか3人の検証委員会は、プロフェッショナルな姿勢を貫いた。そしてスポーツの尊厳を守り、新しい方向への扉を開いた。

 この出来事を素直に感動せずに、グツグツ文句を言って、どんな未来があるものか。

「大岡裁き」と、この問題を熱心に発信し続けるフジテレビ『バイキング』のMCである坂上忍氏は表現した。その心の中には、どこかまだ納得がいかない、何か裏があるのではないか、あまりにきれいな結末すぎる……。そんな釈然としない思いもあっただろう。

 私自身も、双方の見事な決断と勇気に感銘を受けながら、金原会長が今日の今日まで、退任を現実に想定していたのか? なぜ、すがすがしく勧告を受け入れたのか? 真意のすべてを理解できたわけではない。この真意については、これから聞く約束ももらったので、追ってまたお伝えできるだろう。

 ただ、一つ言えるのは、会長は退くけれど、「テコンドーへの貢献をやめるつもりはない」という強い情熱は変わらないことだ。そう書けば、反金原派は「やはり復活を狙っているに違いない」と勘繰るだろうが、そうなるかならないかは、自分たち自身のこれからの行動や発想の転換にあることも、この機会に気づくべきだろう。

 日本国中の視線が集まる中で、男金原はこれからもすがすがしい生き方を選ぶに違いないのだから。新体制のもと、お互いに信頼し合い、批判ではなく建設的なビジョンやアイディアが活発に出され、活気づく協会に発展するよう期待したい。

 そしてもちろん、ジュニアも含めた競技人口の増加、オリンピックや国際大会で優勝を争う才気あふれるチャンピオンたちがテコンドーの魅力を伝えてくれるよう念願する。

(作家・スポーツライター 小林信也)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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