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ヒトラーが台頭した時代と酷似する現代、その本当の恐ろしさとは

2019年11月29日 06時00分更新

文● 村田孔明(ダイヤモンド・オンライン

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アドルフ・ヒトラー
SNSを駆使して過激発言を連発するトランプ大統領がなぜ大衆を引きつけるのか。ヒトラーについて現代人は学ぶ必要がある Photo:AFP/JIJI

前東京都知事の舛添要一氏が『ヒトラーの正体』 (小学館新書)を出版した。自身の経験も織り交ぜながら、明快な文章で独裁者ヒトラーの実像に迫る入門書だ。長年にわたりヒトラーを研究し続けてきた舛添要一氏に、なぜヒトラーについて知らなければならないのか語ってもらった。(清談社 村田孔明)

ヒトラー研究は
政治学者の原点だった

 ヒトラーについて「独裁者」「ユダヤ人の大虐殺」「親衛隊」など、断片的なワードを知っている人は多い。しかし全体像を把握できている人は意外に少ないのではないか。実は舛添氏も、かつてはそうだったという。

「初めてヒトラーに興味を持ったのは1965年公開の映画『サウンド・オブ・ミュージック』。オーストリアの退役軍人の家族がナチスから逃れるために、徒歩で山を越えてスイスに亡命するストーリーです。主演ジュリー・アンドリュースの美声と豊かなアルプスの自然に魅せられ、ヨーロッパへ留学するきっかけにもなりました。多感な高校生のときに見たこともあり、ヒトラーが憎くてしょうがなかったですね」(舛添氏、以下同)

舛添要一氏
舛添氏は長年にわたり、ヒトラーを研究してきた

 ところが30歳手前の頃、留学先のミュンヘンで下宿屋のおじさんから「ヒトラーの時代が一番よかった」と告げられた。

「下宿はアメリカの研究者が多く、日本人は私だけでした。70歳ぐらいのおやじは『ヤパーナー(日本人)、ちょっと来い』と、私をお茶に誘ってくれる。日本とドイツは同じ枢軸国だったので気に入ってくれたみたいで、古いアルバムを開いて、『俺の人生の中で、ヒトラーの時代が一番よかった』とうれしそうに話をしてくれたんです。ミュンヘン郊外にはダッハウ収容所跡があり、見学するたびに、あまりにも悲惨なユダヤ人虐殺の歴史を教えてくれました。それなのに下宿に戻れば、おやじはヒトラーがよかったという。このギャップがずっと頭から離れませんでした」

 それから50年間近くヒトラーの研究を続けてきた舛添氏だが、なぜ今になって、専門書ではなく入門書というかたちで発表したのだろうか。

「子どもが大学生と高校生になりました。父として、子どもたちが社会に出る前に、どうしてもヒトラーのことを語り聞かせたかった。民主主義の対極は独裁です。それなのに民主主義から独裁者が生まれてしまった。この歴史を知らなければ、民主主義は守れません。現代はトランプ大統領の誕生、ブレグジット、移民排斥を主張する極右政党の躍進など、世界中でポピュリズムが広がっている。ヒトラーが誕生した時代に似てきています」

なぜヒトラーが
ノーベル平和賞候補になったのか

『ヒトラーの正体』 (小学館新書)

 もしヒトラーが第2次世界大戦前に死んでいたら、「ドイツ史上もっとも偉大な宰相になっていた」と舛添氏は分析する。

「ナチスの正式名称は、『国家社会主義ドイツ労働者党』です。ヒトラーの率いたナチスは右翼政党と思われていますが、政治手法は左翼のポピュリズムそのもの。労働者のための政策を次々と打ち出し、熱烈な支持を受けました」

 第1次世界大戦に敗れたドイツは、国内総生産(GDP)の約20倍に及ぶ賠償金に苦しめられる。そこに1929年のウォール街大暴落に端を発した世界恐慌が重なり、1933年にヒトラーが政権をとる頃には、ドイツ全土に大量の失業者があふれかえっていた。

「ヒトラーはアウトバーンと呼ばれる高速道路などの公共事業を推進し、わずか3年で600万人いた失業者を完全雇用状態にしました。天文学的だったインフレの抑制にも成功し、経済は安定します。今で言う働き方改革も行い、労働時間を8時間に制限し、長期休暇も取得しやすくした。財形貯蓄の制度を整え、大型客船で労働者を海外旅行にも連れていったのです」

 外交でもヒトラーは手腕を発揮する。

「ヒトラーは戦争で失った土地を外交と国民投票で次々と取り戻しました。自信と誇りを回復した国民はさらに熱狂します。そして1938年のミュンヘン会談では、これ以上の領土は求めないと声明を出し、戦争を回避したとノーベル平和賞の候補にもなったんです。もっとも、この声明はイギリス、フランスを欺いたもの。つまり、ヒトラーは約束を守るつもりはなかったのですが」

 着々と積み上げる業績の裏で、ヒトラーは独裁体制の強化と戦争の準備を進め、ユダヤ人や障害者、同性愛者などへの激しい迫害も徹底して行うようになったのだ。

トランプ大統領、ブレグジット…
世界各地のミニ・ヒトラー現象

 舛添氏は、現在の国際情勢はヒトラーが誕生したドイツに似ていると危機感を募らせる。

「ベルリンの壁が崩壊して30年。ライバルがいなくなった資本主義は、リーマンショック、タックスヘイブンとやりたい放題で、格差も広がっていくばかりです。かつてのドイツのように職が見つからない、働いても報われないと、世界各地で人々が自信を失い、自国第一主義、移民排斥を主張する“ミニ・ヒトラー”に投票する。そして、そんな大衆の不満のはけ口に利用されるのが移民です。ユダヤ人がスケープゴートにされたのと同じ構造ですよ」

 さらにヒトラーの編み出した宣伝活動は、SNSの登場でより効果的になっている。

「ヒトラーは、『真実でなくても、自分だけを一方的に褒め、責任は敵に負わせること』が宣伝の主眼だと述べています。まさにトランプ大統領がSNSでフェイクニュースを拡散させる手法です。『パンとサーカス』を求める大衆も真実かどうかは気にせず、面白いものなら受け入れてしまう。『うそは大きければ大きいほどいい』とも、ヒトラーは言っています。日本でも、『NHKをぶっ壊す』や『消費税廃止』としか言っていない政治家に、面白そうだと思って投票した人が相当数いたのではないでしょうか」

 舛添氏は「ヒトラーを正しく知らなければ、再びヒトラーのような独裁者が現れたとしても恐れることもできない」と、ヒトラーの本当の恐ろしさを訴える。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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