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遠藤諭のプログラミング+日記 第69回

高岡熱中小学校とM・C・エッシャーの映画

はじめてワークショップの講師をやって、思いのほかうまくいった話

2019年12月02日 16時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

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パーソナルプロジェクトをはじめよう

高岡熱中寺子屋は国宝である瑞龍寺で開催される。北陸に足を延ばしたらぜひ訪ねてみたい美しさだ。

 元IBM常務取締役の堀田一芙さんは、ご自身は2枚貝のように開くノートPCのThinkPadを作られていたが、お父さまは同じように2枚貝型の豆炭アンカを作られていたそうだ。その堀田さんが、全国の廃校を利用してモノ作りや地域活性をめざして取り組んでおられるのが「熱中小学校」だ。

 熱中小学校の詳しいことは公式サイトを見ていただくとして、私も、そのボランティア講師をさせてもらっている(月刊アスキー編集長時代にたいへんにお世話になりましたからね)。今年9月は、富山県の高岡熱中寺子屋で「パーソナルプロジェクトをはじめよう」という授業とハンズオンをやらせてもらった。

 「パーソナルプロジェクト」というのは、個人が「仕事>プロジェクト>趣味」というバランス感覚でやる自分だけの活動のこと。今年5月に、私が、個人的に作っているフローティングペンが朝日新聞に紹介された。この記事を担当された方に、そのことを「それプロジェクトですよね」といわれて気がついた。ひとことでいうと、目標と計画をたてて一緒にやる仲間をみつけてオリジナルなことをやることだ。

『朝日新聞』(2019年5月25日)で私のパーソナルプロジェクトを紹介してくれている記事。神保町アシストオンさんで買えることにも触れられている。

 それは、お金を稼ごうという話ではないという点では遊びに近いが、結果的にだがむしろ「学び」の世界ではないかと思う。私の場合は、これのために米国のクラウドファンディングKickstarterを利用することになった。そのために使った米国のネット広告のしくみには衝撃を受けた。ニュースサイトに10万円のブログ広告を出すときに、私と広告代理店と媒体の担当者の3人が1つの画面の中でゲームのように共同作業をする(作業自体は非同期)。

米国のネット広告のサイトを使っているところ。私の最低な英語を代理店が「こうでしょう」といった調子で準リアルタイムに修正、掲載媒体(Laughing Squid)の担当者も納得の上であっという間に記事広告が完成する。

 「学び」ということに関していえば、いまや学校で教えてくれる情報は遅すぎるし、企業ではやれることも限られるうえにいろんな縛りもある。それが、パーソナルプロジェクトなら、自由なので世界でいちばん新しく起こっていることにも触れられるし、巻き込んだ人たちとの繋がりの中でも教えられることは多い。そんなお話をさせていただいた。

お寺の御台所で右奥が熱中寺子屋の会場。

はじめてワークショップをやってみた

 高岡熱中寺子屋では、パーソナルプロジェクトの話のあと「シマシマアニメを作ってみよう」というワークショップをやらせてもらった。まさに私のパーソナルプロジェクトでアニメーションフローティングペンで採用している「錯視」の魅力を伝えようと思ったのだ。

 私のペンでは、「バリアグリッドアニメーション」と「フットステップイリュージョン」の2つの錯視を使っている(正確にバリアグリッドアニメーションを応用したオリジナル錯視もだが)。どちらも黒の縞模様のスクリーンを使うところが特徴で、それらを総称して「シマシマアニメ」と呼んだわけだ。

高岡熱中寺子屋でやった「シマシマアニメを作ってみよう」のワークショップは2種類の錯視を楽しむ内容。シマシマの透明クリアファイルの中でルールに従って画像を描いた紙を動かすとネコや人が動きだす。

 20人ほどの参加者の方々に、シマシマの印刷された透明シートやクリアファイルを配布。「フットステップイリュージョン」の原理を説明して、実際にオリジナルの作品を作って発表してもらうところまでやってもらった。

 具体的には、大き目の方眼を印刷したA4判の用紙にサインペンで塗りつぶした絵柄を描いてもらう。その塗りつぶす位置や幅には、ちょっとしたルールがあって、塗った部分がパタパタと交互に動いたり、伸びたり縮んだりして見える。伸びたり縮んだりすることに関しては「インチウォームイリュージョン」と呼ばれたりもする。

 この錯視は、シマシマに重ねた絵がシマシマのフチからはみ出したときの人間の認知の遅れ、シマシマと重なっている間はまだシマシマの部分にあるように感じてしまうことなどによって起こる。言葉では分かりにくいので、以下のビデオをご覧あれ。



シマシマアニメのハンズオンが始まって最初の練習問題をやっているところ。

 いちばん基本的な2つの四角が交互にちょうど歩いている足の裏側のシルエットのように見えるパターンからはじめて、4つほどの練習問題をやってもらう。「できたできた」とか、「あ~本当に動いている」とか、小学校の図画工作の時間のような雰囲気になる。



ハンズオンで作ってくれた作品を発表してくれる参加者。サンプルで用意したネコを発展したものだと思ったらゾウさんの鼻が本当に振り上げられている! 全員の投票でこの日ベストワンになりました。

 ところで、実は、私はハンズオンの講師というものをやらせてもらうのは今回が初めてだった。講演や授業のようなことは、たまにやらせてもらうことがある。それらの場合は、まあ聴衆がまったく反応しなくても終わりまで持っていくことはできる。しかし、ハンズオンでは、参加者に一定のところまで具体的に手を動かしてやってもらう必要がある。なんとなく、

 「馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない」(You can take a horse to the water, but you can't. )

 という言葉が脳裏をかすめてしまう。受講者側にやる気になってもらわないとまったく進まない可能性があるからだ。もちろん、彼らだって面白くないと分かっても居眠りもできないのだからつらいだろう。

 要するに、ハンズオンの講師のほうが講演や授業をやることよりもずっとハードルが高いというわけだ。それでも、ハンズオンの終了後には「とても楽しかった」と参加者の方々に言っていただけた。小学生にもできる題材なのに、大人的な理解や発見のあるテーマだったのがよかったのかもしれない。



バリアグリッドアニメーションは、時間内での完成は無理と考え説明だけさせてもらった。ただし、参加者が作業中に熱中寺子屋のスタッフにお願いして作ってもらった作品がまたよかった。ハチドリが羽ばたいている!

M・C・エッシャーの映画がやってくる

 ところで、12月14日(土)、『エッシャー視覚の魔術師』という映画が公開される。エッシャーといえば、錯視の一種である「だまし絵」で有名なオランダの画家。映画はただのドキュメンタリーではなく、日記をはじめとする未公開資料やインタビューを通して、その作品群の魅力をふたたび堪能できるすばらしい内容になっているらしい。

 その渋谷アップリンクでの公開イベントに、日本テセレーション協会の荒木義明さんにお声がけいただいて、一緒にトークをやらせていただくことになった。詳しくは、アップリクンの公式サイトをご覧のこと。実は、これもパーソナルプロジェクトでフローティングペンを作ったのをきっかけに、昨年上野の森美術館で開催された『ミラクル・エッシャー展』の打ち上げで荒木さんを紹介いただいたのだ。

映画『エッシャー視覚の魔術師』公式ページ

 高岡熱中寺子屋で使ったシマシマアニメに使うクリアファイルが、まだ若干数あるのでどこかでまたハンズオンをやらせてもらうかもしれません。


■参考リンク
熱中小学校 https://necchu-shogakkou.com/
高岡熱中寺子屋 https://www.necchu-terakoya.com/
アシストオン https://www.assiston.co.jp/3139
『エッシャー視覚の魔術師』公式ページ  http://pan-dora.co.jp/escher/
アップリンク  https://shibuya.uplink.co.jp/movie/2019/54986


遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。雑誌編集のかたわらミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』など書籍の企画も手掛ける。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。著書に、『近代プログラマの夕』(ホーテンス・S・エンドウ名義、アスキー)、『計算機屋かく戦えり』など。

Twitter:@hortense667
Facebook:https://www.facebook.com/satoshi.endo.773


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