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医療保険を争点にして混戦、米民主党候補者選びと英選挙の行方は?

2019年11月27日 06時00分更新

文● 末澤豪謙(ダイヤモンド・オンライン

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経済分析の哲人1127
Photo:PIXTA

混戦の民主党候補者選び
上位3氏の支持率の差縮小

 来年11月の米大統領選まで1年を切った11月20日、米民主党の大統領候補指名争いにかかわる第5回テレビ討論会が、ジョージア州アトランタで開催された。

 今回の参加者10人の顔ぶれは、いずれも第4回討論会に参加した、ジョー・バイデン前副大統領、ニュージャージー州選出上院議員のコリー・ブッカー氏、インディアナ州サウスベンド市長ピート・ブティジェッジ氏、ハワイ州選出下院議員のタルシー・ギャバード氏、カリフォルニア州選出上院議員のカマラ・ハリス氏、ミネソタ州選出上院議員のエイミー・クロブシャー氏、バーモント州選出上院議員のバーニー・サンダース氏、元ヘッジファンドマネジャーのトム・ステイヤー氏、マサチューセッツ州選出上院議員のエリザベス・ウォーレン氏、実業家アンドリュー・ヤン氏。

 討論会を共催したワシントンポストは、今回の勝者として、ブティジェッジ氏とクロブシャー氏を、敗者として、バイデン氏とギャバード氏を挙げている。

 実際、発言時間では、ブティジェッジ氏はウォーレン氏に次ぐ第2位につけている(図表1)。

 バイデン氏の発言時間は第3位だが、過去同様、他候補からの攻撃に対し、反論した時間が多く、視聴者に対するインパクトは弱かったようだ。

 20日には、ウェイン・メサム氏が撤退を表明したが、24日には、マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長が出馬表明したことで、候補者数は18人となった。

 穏健派のブルームバーグ氏は3月にいったん、不出馬を表明したが、ウクライナ問題などで同じ穏健派のバイデン候補の支持率が低下した一方、リベラル派のウォーレン上院議員らが台頭したことで、出馬に傾いたようだ。

 次回第6回のテレビ討論会は、12月に予定され、しばらくは混戦模様が続くとみられるが、足元の平均支持率は、トップを走るバイデン氏に、ウォーレン氏とサンダース氏を加えた3人が上位グループを形成している。

 この3人にブティジェッジ氏とハリス氏が続く状況に大きな変化がないが、第5回テレビ討論会前の調査では、支持率が過去最低に落ち込んでいたバイデン氏が挽回、30%に乗せる一方、一時、支持率トップに踊り出たウォーレン氏がやや失速していることがわかる(図表2)。

 他方、緊急入院・手術で健康不安説が高まったサンダース氏がAOC(アレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員)の支持表明もあって盛り返し、上位3人の平均支持率は、10%程度に縮小している。

 個人資産額が500億ドル(約5兆4000億円)に上るとされるブルームバーグ氏の動向も注目されるが、現在、下位の候補が今後、浮上するのはキャンペーン継続のための資金面を含め、容易ではないだろう。

 ただ大勢を見極めるには、年明け後の予備選・党員集会の結果を待つ必要がありそうだ。

国民皆保険の議論、争点に
ウォーレン候補は現実策に転換

 過去の討論会では、国民皆保険制度(メディケア・フォー・オール:Medicare-for-all)へのスタンスが候補者の中で大きく分かれたが、ワシントンポストのアンケートへの回答から勘案すると、今回の10人の参加者のうち、国民皆保険への賛同を表明しているのは、ブッカー氏、ブティジェッジ氏、ギャバード氏、ハリス氏、サンダース氏、ステイヤー氏、ウォーレン氏、ヤン氏の8人。また他の方法を挙げたのは、バイデン氏とクロブシャー氏の2人だ。

 第4回討論会で、国民皆保険に関し、ウォーレン氏に論戦を挑んだブティジェッジ氏が賛同しているのはやや意外だが、ウォーレン氏とサンダース氏は、民間の健康保険を排除し、公的保険に一本化すべきと主張しているのに対し、ブティジェッジ氏とヤン氏は民間保険も併存が可能とし、ブッカー氏、ギャバード氏、ハリス氏、ステイヤー氏は民間保険を排除する必要はないと答えている。

 国民皆保険への賛同者の中でも、「単一支払制度(single-payer system)」以外の部分では、賛否が分かれているようだ。

 なお、サンダース氏同様、国民皆保険を最も強く主張するウォーレン氏だが、11月15日に発表した提案では、まずは、メディケアの適用対象を現在の65歳から50歳に変更するなど段階的なものとなり、当面は民間保険を併用する形に修正された。

 やや原理主義的とみられていたウォーレン氏の方針転換は今後の指名レースにも大きな影響が出る可能性もありそうだ。

 米疾病対策センター(CDC)によると、2017年時点の米国人の平均寿命は78.6歳で、2014年の78.9歳から0.3歳短くなった。背景には、合成オピオイドなど薬物の乱用や自殺の増加が挙げられている。

 2017年の平均寿命は、男性が76.1歳で2014年の76.5歳から0.4歳、女性が81.1歳で同81.3歳から0.2歳それぞれ縮まった。

 この間、日本の平均寿命は、2014年の男性が80.5歳、女性86.83歳に対し、2017年は男性81.09歳、女性87.26歳と、3年間で、男性は0.59歳、女性は0.43歳延びており、日米の動きは対象的だ(図表3)。

 3年間で平均寿命が0.3歳も短くなった米国だが、2017年の米国の医療費は3.5兆ドルに達した。

 2017年の平均レート(1ドル:112円)で円換算すると、392兆円。やや定義が異なるものの、米国の医療費は、日本の2017年の国民医療費43.1兆円の約9.1倍となる。

 人口が3倍としても、1人当たりでも3倍となり、米国の医療費は極めて高額だ。

 1人当たり医療費が日本の3倍にもかかわらず、平均寿命が3年で0.3年も短くなるというのは異常だろう。

 しかも、米政府の試算では、米国の医療費は2027年には6兆ドルに達する見込みだ(図表4)。

 日本に比べると、薬剤費も高いが、医療スタッフの人件費も高額だ。

 盲腸(虫垂炎)の治療費で比較した場合、2010年時点で、日本の30万円(入院日数6~7日)に対し、米国では152.2万円から440.9万円(同1~3日)と5~15倍の格差がある(日本医師会)。

 米国では、大企業などの民間医療保険に入っていなければ、多くの人にとって個人では簡単に払える金額ではない。

 日本では、国民1人当たり年間外来受診回数(医科)は年間12.6回(2016年)なのに対し、米国では4回程度にとどまっている(OECD)。米国では医療サービスのアクセスの度合いには、相当な格差があることがうかがわれる。

 日米の平均寿命の違いも、医療保険制度が背景にある可能性がありそうだ。

 今回、ウォーレン氏が国民皆保険の改革案を現実的な方向に修正したたことで、気候変動対策などとともに、国民皆保険制度の実現が民主党の大統領選の公約に含まれ、トランプ大統領との本選の帰趨(きすう)を決定する要因に浮上する可能性が出てきたといえそうだ。

英総選挙でも投票に影響
NHSへ支出拡大掲げる

 実は、公的医療保険制度は、12月12日に投開票が予定される英国の総選挙でも、「ブレグジット(英国のEUからの離脱)」問題の裏で、隠れた争点になっている。

 今回の総選挙で、保守党やブレグジット党などの支持者の間では、ブレグジット問題が最大の関心になっているが、最大野党労働党の支持者の間では、NHS(国民保健サービス)への関心も高い。

 現在、支持率で保守党に対し、劣勢となっている労働党は、ブレグジット問題に関する再度の国民投票の実施とともに、NHSの病院運営資金の年間予算を2023年度までに実質260億ポンド拡大する方針を打ち出している。

 NHSは、公的年金制度であるNIS(国民保険)とともに、「ゆりかごから墓場まで(from the cradle to the grave)」という英国の社会福祉政策のスローガンを実践する柱だが、近年は予算不足から、迅速で十分な診療を受けられないという問題が指摘されている。

 労働党に対抗するようにジョンソン首相率いる保守党も24日に発表したマニフェスト(政権公約)公約で、NHSへの支出拡大を打ち出した。

 NHSは、高齢層のみならず、現役世代にも大きな影響を与える問題だけに、選挙戦のもう1つの争点となりそうだ。

保守党、単独過半数の勢いだが
カギを握る労働党支持の若者層

 なお、選挙戦の動向だが、ブレグジット党が前回2017年の総選挙で保守党が勝利した317選挙区に候補者を擁立しない方針を表明したことで、ブレグジット党の支持率が低下する一方、保守党の支持率が上昇している。

 もし明日、総選挙があれば、どの政党に投票するかとたずねたYouGovの最新の調査(11月21・22日)では、保守党の42%に対し、労働党は30%と、12%の差をつけ、トップとなっている(図表5)。

 EU残留派の野党の選挙協力が進んでいないこともあり、このまま、支持率に大きな変化がなければ、小選挙区制の英国では、保守党が単独過半数を確保することも予想される。

 保守党は男性及び高齢者の支持率が高く、労働党は若年層の支持率が高い。特にその違いは、18~24歳と65歳以上で顕著だ。

 2017年6月の総選挙では、労働党支持の若者層が、2016年6月の国民投票で「離脱」が多数となった反省から、多数、投票所へ押しかけ、労働党に1票を投じたことで、メディアの保守党大勝の予想と異なり、メイ首相率いる保守党は過半数割れした。

 実は、英国や米国では選挙や国民投票が平日に実施されることから、当日の天候の影響が特に、若年層の投票率に強く表れやすい。

 ブレグジットの是非を問う国民投票が実施された2016年6月23日は、ロンドン近郊は午前中が晴れていたが、午後、天候が急変、夕刻には豪雨となり、公共交通機関などにも影響が出ることになった。

 EU離脱派が6割超を占める高齢層は午前中に投票を終えたが、残留派が7割近くを占める若年層は、放課後や退勤後に投票に向かう予定だったものの、天候要因で多くが棄権する結果となった。

 それが、事前予想とほぼ反対の51.9対48.1の得票率で「離脱」派が勝利した大きな要因だったとみられている。

 一方、2017年の総選挙では、若年層が多数、投票所にいったことで、投票率は68.7%と、前回2015年総選挙時の66.1%から2.6ポイント上昇し、1997年以来20年ぶりの高水準となった。

 このため、事前予想に反し、保守党苦戦、労働党善戦の結果につながったと考えられる。

 今回の総選挙では、2016年の国民投票を棄権した若年層が、EU離脱との関連では最後の方針変更の機会となる選挙で、一票を投ずるか否かが、ジョンソン首相の続投とEUからの1月末離脱の行方を決めるカギになりそうだ。その意味では、2016年同様、当日の天候も注目される。

選挙結果にかかわらず
英国政治の混乱は長期化か

 総選挙で保守党が単独で過半数ないし近い数をとれば、EU離脱修正案及び離脱協定法案を下院で可決、離脱法の成立後、EU議会の承認も経て、2020年1月31日に、英国はEUから離脱することになる。

 なお、離脱日のフレクステンション規定から、1月1日離脱の可能性もゼロではないが、日程的に可能性は低そうだ。

 その後、英国とEUは、FTA等を締結することになるだろうが、金融の中心シティからの人や資金の流出なども予想され、英国経済へのダメージは避けられないのではないか。

 英産業界からも、今回の修正案はメイ政権時の離脱案と比較し、EUとの関係が一段と薄れることから、EU以外とのFTA等の締結が広がっても、影響が大きいとの見解が聞こえている。

 特に、ジョンソン首相は最長2022年末まで延長が可能な移行期間を2020年末で終えると主張しており、準備不足での混乱も予想される。世界経済の減速と相まって、英国経済の低迷が明らかとなれば、次回の総選挙では、保守党が敗退、EU復復帰機運が強まることも予想される。

 一方、仮に12月に野党が勝利すれば、再度の国民投票の実施がスケジュールに上ることになるだろうが、英国世論が二分化された状況は、国民投票の結果にかかわらず、むしろ強まりそうだ。

 国民投票の結果、「残留」が多数となっても、離脱派は「これで1勝1敗」と主張するだろう。

 いずれにせよ、英国政治も、EU離脱問題を巡る第1シリーズの終局(エンド・ゲーム)が近づいたといえそうだ。

 ただし、EU離脱問題を巡る英国内の世論の分裂は固定化しつつある。1月末までの英国のEU離脱の成否にかかわらず、第2シリーズ入りは不可避で、英国政治の混乱は長期化が予想される。

(SMBC日興証券金融財政アナリスト 末澤豪謙)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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