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韓国芸能界でアイドルの自殺が相次ぐ理由、BTS・KARAは大丈夫か

2019年11月20日 06時00分更新

文● 白川 司(ダイヤモンド・オンライン

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ソルリ
Photo:VCG/gettyimages

 今年10月14日、韓国の人気女性アイドルグループ「f(X)」の元メンバーで歌手・女優のソルリ(25)がソウル近郊にある自宅で死亡しているのが見つかった。警察は自殺と断じた。彼女の自殺はネットメディアを中心に日本でも大きく取り上げられた。

「また韓国人タレントが自殺」と見出しを打つメディアもあり、「韓国人タレントの自殺が多い」という印象を持った人も多いだろう。

 2018年の韓国の自殺率はOECD加盟国30ヵ国でトップである。ただし、高齢者の自殺が多く、日本と比べて若者の自殺率が異常に高いわけではない。したがって、韓国芸能人の自殺が相次ぐ背景には、韓国固有の事情があると考えるべきだろう。

日本と韓国は
求められるアイドルが違う

 約30年前、韓国のアイドルのあり方は日本に近かった。

 私は1988年のソウルオリンピック前後の時期、ソウルの再開発地区の高層ビルのショッピングで、若い男性が女性たちにサイン攻めにあっているのに出くわしたことがある。しばらくその様子を見ていると、ちょっと小太りな印象の彼は、「君にもサインをしようか」と私にも声をかけてくれた。

 あとで聞くと、「ソバンチャ」(消防車)という3人組の男性アイドルグループのメンバーだという。彼は一番人気だったそうだ。その直後にテレビで踊りながら歌うソバンチャを見たが、スマートなイケメン2人に挟まれる形でなんとかついていっている感じで、なぜ一番人気なのか不思議になった。ある韓国人女性は「だって、かわいいじゃない」と言った。

 だが、それから約10年後の2000年には韓国の「アイドル市場」ががらりと変わっていることに気づいた。完璧な容姿、プロの歌、プロの踊りが求められるようになったのだ。

 日本におけるアイドルは、今も昔も「未成熟」を核にしている。未成熟であるゆえに「ドジ」をしながらも一生懸命な姿勢をファンが応援するという構図だ。

 日本において欠点のないルックスで完璧なスタイルの「アイドル」は存在しない。それは「モデル」や「女優」など別カテゴリーのタレントに入れられてしまう。

 アイドル全盛期といわれる1980年代にはアイドルとして売れるためには、歌は下手なことが必要だとすらいわれた。日本のアイドルは出来上がったものではなく、可能性を売る商売なのである。

 それに対して、初期は日本的だった韓国人アイドル業界も、歌や踊りで完成度の高さを目指すようになっていた。その1つの頂点が2007年にデビューした「少女時代」だ。

 当時、私はソウルのカフェで韓国人の知り合いに初めて少女時代のことを教わった。

 カフェに置いてある雑誌のグラビアをめくり、「この中で誰が好きか」と聞かれた。私が初めて目にした少女時代は、メンバーみんな印象が似通っていて、日本のアイドルとずいぶん違っていた。

 私はその知人に「日本で好きな女性タレントはいるか」と聞くと、彼は「上戸彩だ」と答えた。そして、「上戸さんはすごくかわいいけど、背が低いから韓国では人気が出ないと思う」と付け加えた。私が韓国人アイドルに「完成度」が重要だと初めて気づいたのはその時である。

 その数年後に始まったのが、日本における韓国人少女グループのブームだった。

 だが、そこでは面白いことが起きた。日本で最も人気になったのは、韓国で圧倒的な人気を誇る少女時代ではなく、「格落ち」の「KARA」だったことだ。

 完成度の高いパフォーマンスを見せる少女時代より、未成熟さを持ち合わせ一生懸命さを表に出すKARAのほうが、日本人ファンには魅力的だったのだろう。

競争が激しい
韓国タレント市場

 1人あたりのGDPで韓国は日本に迫りつつあるが(文在寅政権の失政で遠のきそうだが)、個人消費が大きな日本と比べると韓国は輸出依存であり、人口も日本の半分以下、国内市場は日本よりかなり小さい。それはアイドル市場においても同じだ。

 日本のアイドルは国内で成功すればそれなりの収入が見込めるが、韓国は市場が小さいので成功しても高収入が得られるとも限らない。

 また競争が激しく、その成功がどこまで続くかもわからない。日本を初めとする外国市場に目が向くのは当然だろう。

 韓国のアイドル業界が日本のような「アイドル=未成熟の一生懸命」にとどまらず、エンターテインメント性を高めたのは、1つには外国市場に打って出る必要があったからだろう。

 ただし、アメリカ的な「完成度」だけでなく、日本同様に「若さ」「可憐さ」なども求められており、日本とアメリカの両方の側面がある。

 そのため、タレントを目指す韓国人は、幼い頃から専門の養成所で訓練を積むと同時に、女性アイドルや女優として広く活躍できるのは30歳までといわれていて、できるだけ早くデビューさせようとする。

 日本にも同じようなシステムがあるが、韓国は貧富の差が激しく階層がいくぶん固定化されているので、「一発逆転」を狙うために、人気タレントになることは、はるかに切実な目標になりうる。日本のように「娘がアイドルになりたいのだから、好きな道を行かせる」といった感じは薄く、中には「一家を挙げて、この子に懸ける」といった悲壮さを伴うことも珍しくない。

 また、芸能プロ側も、オーディションで人材を集めたら、お金をかけて徹底的に鍛え上げる。芸能プロにとってアイドルは投資対象であって、デビューさせることは投資の回収でしかない。それだけに、いったん所属すれば契約でがちがちに拘束してほかに逃げないようにし、できるだけ大きな市場で活躍してもらわなければならない。

 韓国の場合、「アイドル」とはいっても、パフォーマンスにおいて日本よりはるかに高いレベルを目指すので、それだけコストも本人への負担も大きなものになる。

成功しても続く
社会的重圧

 こういった韓国の社会事情が、韓国人アイドルの自殺が多発することに影響していることは間違いないだろう。そして、自殺への直接の引き金になりやすいのが、ネットの中傷である。

 掲示板やSNSに書き込まれる中傷コメントは「悪プル」と呼ばれている。「悪」とReplay(返信)を足したネット用語だ。悪プルをよく書き込む者は「悪プラー」と呼ばれている。

 政治家や人気タレントなどが心ない中傷コメントに悩むことは世界中で起こっているが、韓国の場合、どんな人気タレントにも中傷コメントを執拗に書き込み、精神的に追い詰めてやろうとする「悪プラー」がかなりいて、場合によってはサーバー管理側が削除しきれないほど集中することもある。

 その背景には、韓国が儒教の影響を受ける厳しい年功社会であり、常に倫理的な監視がつきまとっていることがあるのではないか。日常の重圧からくるストレスのはけ口を、人気タレントに向けているわけである。だから、タレント側も倫理的に隙があると集中攻撃を受け、びくびくして過ごす羽目に陥る。「整形」や「枕営業」などと、あることないことを言われるのは日常茶飯事である。

 自殺したソルリも、一度、ノーブラであることがわかる画像をSNSに上げたことで、あとあとまで罵詈雑言を受け続けていた。特に、ソルリの自殺は彼女がそういった韓国社会に反抗しようとして、奔放さを表に出したことへの反発が大きかったのだろう。

 韓国では人気タレントには高い倫理観が求められる。いや、「人気タレントは高い倫理観がなければならない」というルールを口実に、罵詈雑言を浴びせようとすると言ったほうが実態に近いかもしれない。

 さらに、家族にがんじがらめにされるタレントも少なくない。

 韓国は血のつながりを日本以上に重視する。だから、成功者が出ると、果実を得ようと成功者に家族や親族が集まってきて、多くの者の面倒を見なければならなくなることが多い。貧しい家庭の出身であるほどその傾向が強くなる。

 今の日本では「アイドルタレントが家族を養う」といったことはまれだろうが、韓国では珍しいことではない。だから、タレント活動をやめたいと思ってもやめさせてもらえず耐え続けるしかなくなる。これもタレントを自殺まで追い込む要因になりうるだろう。

 ただし、そんな韓国でもタレントが自由に悪口を言える領域がある。それが反日だ。反日はむしろ韓国では倫理である。反対にタレントが親日的な言動をしようものなら、集中攻撃されて多くは謝罪に追い込まれてしまう。韓国人タレントがSNSに画像を上げるときは、親日的なものがないか絶えず神経をとがらせている。

 以前、人気K-POP男性アイドルグループ「BTS」(防弾少年団)のメンバーが原爆Tシャツを着て日本でバッシングにあったことがある。彼らには不良のイメージもあって若者を中心に人気があるが、日本を侮辱することは韓国で安心して「悪」を演じるための「優良コンテンツ」なのである。

 反対に日本で活躍したペ・ヨンジュンやKARAのメンバーには厳しい目が向けられ続けた。そういえば、最近、自殺未遂をしたKARAの元メンバーのハラが、心の傷を癒やすために日本に移住したのも無関係ではないだろう。

 日韓の違いは、結局はその国の文化や社会事情の違いに行き着く。それは「アイドル」のあり方も同様である。韓国人アイドルの自殺は、韓国エンターテインメントの厳しさを表したものだといえるだろう。そして、その厳しさが、韓国の高いエンターテインメント性を作り出しているのもまた確かなのだ。

(国際政治評論家・翻訳家 白川 司)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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