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「孫正義流」目利き力に不信感、ソフトバンクG投資戦略が裏目で大赤字

2019年11月14日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,村井令二(ダイヤモンド・オンライン

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決算説明会に登壇した孫正義会長兼社長
孫正義会長兼社長は過去最大の赤字について「反省」の言葉を繰り返した Photo:つのだよしお/アフロ

ソフトバンクグループが、10兆円規模の投資ファンド事業で損失を出し、7000億円規模の四半期赤字を計上した。世界中のユニコーン企業を買いあさるという巨大ファンドの投資手法は岐路に立たされている。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

「私自身の投資の判断がまずかった」。6日にソフトバンクグループ(SBG)の決算説明会に登壇した孫正義会長兼社長の「反省」の弁で示されたのは、武器としてきた自身の「目利き」への懸念だ。

 10兆円の投資枠を持つ「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の損失で、SBGの2019年4~9月期決算の営業損益は156億円の赤字となった。前年同期から1兆4000億円を超える記録的な落ち込みだ。

 この要因は、シェアオフィス「ウィーワーク」の運営会社である米ウィー・カンパニーへの巨額投資にある。

 10年に創業したウィーは、ビルのワンフロアや1棟を丸ごと借りて、それを不特定多数の利用者に転貸する不動産業が基本的なビジネスモデルだ。世界29ヵ国に528拠点を構え、会員数は52万人以上だ。事業は年々拡大を続けてきたが、創業から9年の間に利益は出していない。

 ウィーのシェアオフィスの貸出先は主にスタートアップ企業で、会員同士の交流を深める仕掛けを施して、一種のコミュニティーをつくり出すのが売り。そうした交流が新しい価値を生み出すといううたい文句で普通の不動産会社とは異なるビジネスモデルとされ、高い企業価値が付けられてきた。

 この企業価値を演出したのがSBGとビジョン・ファンドの巨額資金に他ならない。赤字のベンチャー企業にすぎないウィーに資金を注ぎ続け、9月末時点の累計投資額は103億ドル(約1.1兆円)に上っている。今年1月にはウィーの企業価値は470億ドル(約5兆円)に達したが、その後の上場準備で転機を迎える。

 目論見書などでビジネスモデルの将来性に疑念が深まったほか、ウィー創業者のアダム・ニューマン氏の公私混同の経営や薬物疑惑などの問題が明るみに出た。さらに、ニューマン氏に普通株の20倍の議決権を割り当てるという計画も明らかとなり、9月末に予定していた上場が撤回に追い込まれた。

 ウィーの9月末の企業価値は78億ドル(約8400億円)まで急落。SBGは9月末までにニューマン氏を退任に追い込んだが、巨額の評価損を計上することになった。

 結果、7~9月期(19年度第2四半期)の投資ファンド事業の営業損失は9703億円に達し、SBGの営業損失は7044億円、純損失は7002億円に上った。いずれも1981年の創業以来、最大の四半期赤字だ。

 孫社長は、今回の損失計上の最大の反省として「ウィーの価値を高く見過ぎた」と振り返ると同時に、ニューマン氏の暴走を食い止めることができなかったガバナンスの問題を指摘した。

 だが、そのニューマン氏の奇抜さに入れ込み、持ち上げてきたのは孫社長自身に他ならない。

 もともとソフトバンクは、孫社長自身の目利きによるベンチャー投資で成長してきた。96年には、米ヤフー創業者のジェリー・ヤン氏とデビット・ファイロ氏の2人に惚れ込み、社員が5~6人だった同社に100億円を出資する決断を下した。また、2000年には、創業間もない中国のアリババのジャック・マー氏と面談し、会って10分もたたずして20億円の出資を即断即決したことが、現在の13兆円に上るアリババの保有価値につながっている。

 だが、ウィーについてはニューマン氏が経営に失敗したのは明らかだ。この経営者に賭けた孫社長の投資判断には疑問符が付く。今後のビジョン・ファンドの投資については、フリーキャッシュフローを重視して、創業経営者のガバナンスを評価する基準を設ける方針だ。孫社長の目利きに頼り切った投資スタイルに規律を導入する狙いがある。

 一方でSBGは、これだけの損失を計上したウィーについて損切りすることなく、全面支援に乗り出す。

「第2のウィー」も?
ユニコーン買いあさる投資手法の曲がり角

 その理由として、かつてウィーと締結した株式買い増しの契約の存在がある。来年4月に15億ドルのワラント(株式買取権)を購入する契約で、ウィーが経営危機に陥った後もこの義務を解消する交渉は受け入れられず、株式転換価格の交渉に切り替えざるを得なかったのが実態だ。

 こうしてSBGはワラントの購入義務を前倒しで履行する代わりに株式の転換価格を引き下げ、保有する株数を増やして経営の関与を高める判断にかじを切った。

 金融支援のパッケージは、15億ドルのワラントの購入に加え、最大30億ドルの発行済み株式の公開買い付けとともに、新規に債券や信用保証で50億ドルの資金供給も実施する予定で、最大95億ドル(約1兆円)となる。

 ベンチャー企業の支援に巨額の資金を投じる異例の判断について孫社長は「今回は例外」と弁明したが、今後も「第2、第3のウィー」が出てくる懸念は拭えない。

 7~9月期は、未上場のウィーだけでなく、ライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズ、ビジネスチャットアプリの米スラック・テクノロジーズなど上場企業の株価下落により、計25銘柄で1兆1276億円の評価損を計上した。今後、他の投資先の企業価値も急落するリスクはくすぶるが、孫社長自身も「投資に10勝0敗はあり得ない。同じような懸念はある」と認める。

 9月末時点で、ビジョン・ファンドの投資先は88社で、累計投資額は8.2兆円。すでに1号ファンドは投資枠10億円に達して新規投資は終了。予定通りに2号ファンドを立ち上げる計画で、SBGは自己資金で一部の運用を開始した。だが、他の資金の出し手は慎重にならざるを得ない。すでに複数の投資家が資金拠出の見直しに踏み切ったもようだ。

 ウィーは、ウーバー(5月10日に上場)や同じくライドシェア大手の中国・滴滴出行(DiDi)、民泊大手のエアービーアンドビーと並ぶユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の代表だった。今回の損失計上により、世界中のユニコーン企業に巨額の資金をつぎ込んで企業価値を引き上げるというビジョン・ファンドの投資手法は曲がり角を迎えている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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