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山口組ハロウィンを中止に追い込んだ警察、小学生も怯える抗争の恐怖

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「灘区から暴力団を追放しよう」と書かれた看板
激化する抗争に業を煮やした警察による、事務所の使用制限の仮命令が、とうとう「山口組のハロウィン」を中止に追い込んだ Photo by Kenichiro Akiyama(以下同)

子どもに菓子を配るヤクザと、それを見守る苦々しい顔の警官たちーー。毎年、ハロウィンの日に神戸市の山口組総本部周辺で見られる光景だったが、とうとう今年は菓子配りは行われなかった。原因は、ヤクザ同士の抗争の激化に業を煮やした警察による、取り締まり強化である。(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

小学生も恐怖に震えた…
ハロウィン当日の山口組総本部

 もはや、子どもたちですら、彼らを「反社」とみなしたようだ。

総本部前を通って帰宅する小学生の姉妹。怖がる妹を気丈にも姉が守り家路についていた。遠くから警察官5人が警戒に当たっていた

 毎年、ハロウィンの日になると話題に上る「山口組のハロウィン」が、令和元年の今年は実施されなかった。今回の実施中止で、暴力団壊滅への流れが一気に加速化しそうだ。

 10月31日、神戸市灘区の閑静な住宅街にある山口組総本部の周辺は、異様な緊迫感に満ちていた。制服姿や、スーツ姿に「略帽」と呼ばれるツバの小さな作業帽型の帽子を被った私服姿の警察官たちがおよそ40人ほど集まり、警察車両は約10台くらい、赤色灯を光らせている。その厳戒態勢ぶりから、あらためてここが日本最大の暴力団組織の拠点であることを思い知らされる。昨年ここで、子どもたちと親、そして山口組関係者もまた、ハロウィンのお祭り騒ぎに浮かれていたことがまるで嘘のようだ。

 そうした厳戒態勢のなか、家が総本部近くにある小学生姉妹が家路へと急ぐ。「怖い…」。体の小さな妹が、警察官、それも屈強な体格の大人の男たちが大勢立っている様子を見て、思わず声をあげる。姉は、妹を抱きかかえるようにして、こう大きな声をあげた。「怖くない!」ーー。

 この様子を見ていた警察官のひとりが、「家、こっちなの?」と優しく声かけしながら、自宅方向へとエスコートする。それを、数人の警察官がすこし離れた位置から警戒する。

 親子連れが通るときも同じだ。総本部を通り過ぎるまで、警察官が数人体制で厳重に警戒にあたっていた。絶対に市民を危険な目には遭わせない…。そんな警察官たちの意思が伝わってくる。

 それもそのはず。今、神戸は、暴力団の抗争下にあるからだ。山口組ナンバー2で若頭の地位にある高山清司氏(72)が刑務所から出所したのは10月。しかしそれ以前から、出所を見越したと思われる抗争事件が頻発し、総本部をはじめとする組事務所のある町の地域住民たちは不安におののいてきた。

 4月には神戸市内の商店街で、山口組系組員が対立する神戸山口組の2次団体幹部を刺した。8月には神戸の玄関口・新神戸駅近くで司忍山口組組長(77)の出身母体として知られる弘道会関係者が何者かに銃撃される。さらに10月には山口組系組員が神戸山口組系組員2人に発砲、死亡させるといった具合だ。特に10月の発砲事件は、雑誌記者を装って近づき、警察官の目前で犯行に及んだ。これが警察を“本気”にさせたことは間違いない。

警察の「本気」は頼もしいが…
市民の不安は解消されず

兵庫県公安委員会による「使用制限」の標章。事務所は一切使用禁止で、ここに住民票を置く関係者ですら退去を促される。だが、何人かの関係者が中にいるようだった

 警察の動きは素早かった。10月の事件の翌日には、山口組総本部や神戸山口組事務所をはじめとする兵庫県内11ヵ所の組事務所に、暴力団対策法に基づく使用制限の仮命令を出す。これにより組事務所の使用は不可能となった。その効力は15日間、10月25日までである。

 だが、最初の仮命令期間中に設けられた意見聴取の場に、山口組と神戸山口組双方の関係者が姿を現さなかった。そのため、仮命令の期間が延長され今日に至っている。

 再度、山口組、神戸山口組関係者の意見聴取の場が設けられるが、これも欠席するとみられていることから、本命令となる見通しで、そうなると3ヵ月ごとの更新となる。

 暴力団対策法では、対立する暴力団組織が抗争のための謀議、指揮、連絡のほか、抗争に用いられるおそれのある凶器の製造や保管に組事務所を用いることがないと公安委員会が認めたときは、使用制限の標章を取り除かなければならない、としている。だが、現状では、両者の抗争に終止符が打たれる見込みはない。そのため、延々と組事務所の使用制限が続く見通しだ。警察としては、これを契機に山口組をはじめとする反社会的団体、暴力団の動きを封じ込めたいところだろう。

 こうした警察の動きを市民は「頼もしい」と思いつつも、一抹の不安を抱えている。あまりにも暴力団組織を追い詰めることで、その活動が地下へと潜り、結果として、抗争が激化、市民にも影響が及ぶのではないかと考える市民は少なくないのだ。とりわけ山口組総本部をはじめとする、今回使用制限となった組事務所周辺の住民たちほど、そうした不安を隠さない。総本部近くで長く暮らしているという地域住民のひとりは言う。

「あの人ら(山口組をはじめとする暴力団関係者のこと)がいいことをしようとしても、それがでけへんというのは、あの人ら(の人格)を認めへんということや。そしたら、ヤケになってなんでもありにならへんか。善意は善意として認めてもええんちゃうかな…」

 こう言うと、即座に少し声を大きくして、茶化しつつ、それでいて真顔でこう付け加えた。

「いや、今のご時世、こんなこともいうたらあかんな…。いまのカットやで!」

 この“今のご時世”という言葉は、地元小学生の間でも浸透しているようだ。

 総本部から歩いて5分程度の場所には、護国神社前公園がある。ここは毎年、子どもたちはもちろん、そのママたちも含めて、ハロウィンで「山口組さんから貰ったお菓子」の品評会が行われる場所でもある。ここにいた小学校5年生、4年生の5人グループに話を聞いた。

「任侠」への好意が薄れ
恐怖が前面に出る市民たち

「うん…、やっぱり行きたいかといえば、興味半分で行ってみたいけど、今のご時世、それは言うたらあかんのやろうね。行きたいゆうのんも、言うたらあかんのやろうね」

 グループのリーダー格の少年が話すと、ほかの児童たちも頷く。昨年のように、山口組が配る菓子の質と量の豪勢さを喜ぶ、祭りならではの高揚感溢れる空気感はそこにはない。

昨年までのハロウィン実施時とは異なり、いつ抗争が起きても不思議ではない場所だけに、異様なまでの緊張感が漂っていた。先月の発砲事件では犯人が雑誌記者を装っていたことから、記者のカバンの中身や身分証明書のチェックも行われた

 そのときだった。「ドーン」と公園の遊具から大きな音がした。周囲の大人も含めて皆、その音がした方向をとっさに見る。グループの少年のひとりが言った。「えっ、発砲事件か?」ーー。

 ヤクザと共生する町・神戸では、山口組といえば、古くは「戦後すぐの混乱期、不良外国人から神戸市民を守った」任侠であり、近くでは「阪神大震災のとき、食料品や生活用品を配った」地元の名士と、ややもすれば好意的に捉える向きが今でもある。

 しかし、それは口にするのも憚る時代へと、令和に入った今年を境に舵が切られた。

 一方で神戸市民たちは、非合法と力、すなわち暴力を背景としたヤクザへの恐れも当然持っている。ハロウィン前、総本部を校区とする神戸市立六甲小学校教頭に話を聞いたときのことだ。山口組のハロウィン実施の可能性があることから、どのような対応を行うのかと聞いてみた。

「例年と同じくパトロールに当たります…」

 ところが、それは学校がリーダーシップをとって行うものなのかどうか、具体的な話はなかなかしてくれなかった。おそらく、学校がやると明確に言い切れば報復のターゲットにされかねないからだろう。もっとも、そんな暴力団の組事務所を校区内に抱える学校の先生たちの苦悩も、今年で終わりになりそうだ。兵庫県警関係者が語る。

「今回の使用制限を契機に、暴力団が一切の活動をできない状況にまで追い込むつもりだ」

 今や、衰退著しい暴力団。ヤクザとは「侠気」という伝統芸を伝える芸人に過ぎないという声もあるが、山口組は今、市民に頼られる「任侠」としての顔を急速に失いつつある。ハロウィン中止は、それを象徴するような出来事だったのではないだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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