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「一発勝負に弱い」川崎フロンターレがルヴァンカップ初優勝のワケ

2019年10月30日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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川崎フロンターレ優勝
YBCルヴァンカップ初優勝をもぎ取った川崎フロンターレ Photo:JIJI

歴史に残る死闘を制して、川崎フロンターレがYBCルヴァンカップ初優勝をもぎ取った。初タイトルをかけた北海道コンサドーレ札幌との間で、10月26日に埼玉スタジアムで行われた決勝は3-3のまま延長戦でも決着がつかず、もつれ込んだPK戦で劇的な幕切れを迎えた。長丁場のリーグ戦を連覇しながら、一発勝負となるカップ戦決勝では天皇杯を含めて5戦5敗。いつしかシルバーコレクターと揶揄された、屈辱の歴史を覆した要因と価値を振り返った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

決勝でゴールできない、勝てない
「シルバーコレクター」との揶揄も

 まとわりついてきた2つの呪縛を振りほどいた。決勝戦でゴールできない。決勝戦で勝てない。川崎フロンターレとして5度目、個人としては4度目の挑戦で国内三大タイトルのひとつ、YBCルヴァンカップを初めて制した大黒柱、MF中村憲剛が感無量の表情を浮かべた。

「ずっと憧れてきた光景でしたからね。勝つか負けるかの一発勝負で、今までは下から上を眺めてきた中で、上でしか分からない光景があると思ってきましたけど、やはりリーグ戦の時とはまったく違いましたね。勝った者しか味わえない景色でした」

 埼玉スタジアムのメインスタンドに設けられたロイヤルボックスに立ち、金メダルを誇らしげに首からぶら下げながら、雄叫びとともに優勝トロフィーを天へ掲げる。PK戦の末に北海道コンサドーレ札幌を下した10月26日のルヴァンカップ決勝が、フロンターレの歴史を再び変えた。

 前身のヤマザキナビスコカップ時代から、一発勝負で行われる決勝で勝てなかった。2000年大会を皮切りに、2007年、2009年、まだ記憶に新しい2017年大会とすべて無得点で90分間を終えて、順に鹿島アントラーズ、ガンバ大阪、FC東京、セレッソ大阪の引き立て役に回ってきた。

 2017年の元日には、三大タイトルのひとつである天皇杯全日本サッカー選手権大会でも決勝戦へ初めて駒を進めたが、延長戦の末に1-2でアントラーズに屈した。一発勝負に弱いというレッテルを貼られ、いつしか「シルバーコレクター」と揶揄されるようになった。

延長開始直後にレッドカード
数的不利でも執念で同点とする

 クラブ史上で初めてとなるタイトル獲得をかけて臨んできた、コンサドーレとの決勝戦でもフロンターレは何度も追い詰められた。2-1とリードして迎えた後半のアディショナルタイム5分。守り切れば初優勝が決まった最後のプレーで、コンサドーレにまさかの同点ゴールを決められた。

 迎えた延長戦の前半4分。コンサドーレのタイ代表MFチャナティップのドリブル突破を、ペナルティーエリアの中へ侵入される直前でセンターバックの谷口彰悟がファウル覚悟で止めた。谷口には荒木友輔主審からイエローカードが提示されたが、なかなかプレーが再開されない。

 実はこの時、ルヴァンカップの決勝トーナメントから先行導入されているVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)判定が入っていた。荒木主審がピッチ脇に設置されたモニターで谷口のプレーを再検証した結果、決定的な得点機会を阻止したとしてレッドカードに変更された。

 試合が中断すること実に約4分間。しかも、再開後にはフロンターレでプロのキャリアをスタートされたDF福森晃斗に、完璧な直接FKを決められて逆転された。まもなく39歳になる中村をして「退場者が出て、延長を戦う経験はほぼ誰にもない」と言わしめる、特異な状況に突き落とされた。

 ゴールを狙ってフロンターレが前がかりになれば、数的不利に陥っている分だけコンサドーレのカウンターを食らうリスクが高まる。追加点を奪われた時点で勝敗がほぼ決し、最悪の場合には大量失点でまたもや引き立て役に回る展開が脳裏をかすめた中で、フロンターレの鬼木達監督が動いた。

 センターバックに退場者が出た場合、中盤よりも前の選手を一人減らして、代わりのセンターバックを投入するのがセオリーとなる。しかし、ボランチの大島僚太に代わって投入されたのはセンターバック奈良竜樹ではなく、右サイドバックのマギーニョだった。

「左右の両サイドで運動量と推進力を確保することで、ボールを握る場面とアグレッシブに攻めていく場面を使い分けていこう、と」

 右サイドバック登里享平を左に、左サイドバックの車屋紳太郎をセンターバックに回した鬼木監督のさい配の意図を、トップ下からボランチに下がった中村はすぐに感じ取った。右サイドバックにマギーニョ、左MFには延長戦から投入されていたドリブラーの長谷川と体力的にもフレッシュな2人が縦への槍と化して、追加点を防ぎながらもチャンスをうかがうしぶとさが体現されていく。

「一人少なくなってからの常とう手段じゃないけど、カウンターとセットプレーはチャンスになるとみんなが感じていた。“あの時”の迫力と集中力は、本当にすごいものがあった」

 中村が言及した「あの時」とは、延長後半4分に自らが放った左コーナーキック。ファーサイドにいたDF山村和也が体勢を崩しながら中央へ折り返したボールへ誰よりも早く反応し、右ひざのあたりで泥臭く、無骨に押し込んだキャプテンのFW小林悠が興奮気味に振り返る。

「札幌の選手たちがどうだったのかは分からないけど、タイトルへの思いは憲剛さんや僕が一番強いと思っていた。途中出場という形だったけど、それでもタイトルが決まる試合でゴールを決めるのは自分だ、と言い聞かせながら今日はずっとプレーしていた。純粋にそれだけを信じていました」

 直前に右足首を痛めた影響で、中村とともにベンチでキックオフを告げるホイッスルを聞いた。開始わずか10分でコンサドーレに先制される展開は、1分もたたないうちに失点を喫した2年前のセレッソ戦をほうふつとさせた。しかし、前回の決勝戦のように浮き足立つことはなかった。

「2年前は僕が孤立する場面も多かったけど、今日は攻撃の形がすごくできていた。時間の問題かな、という感じはありました」

 32歳の小林の言葉通りに、前半終了間際に左コーナーキックのこぼれ球を、MF阿部浩之が利き足とは逆の左足で押し込む。5度目の決勝戦でようやく生まれた初ゴールで同点に追いつき、切り札として投入されていた小林が後半43分に技ありの勝ち越しゴールを叩き込んだ。

 ようやく呪縛から解き放たれる、と思いかけた矢先にコンサドーレの反撃に遭い、突入した延長戦で奈落の底に突き落とされかけた。逆境で歯を食いしばりながら踏ん張り、状況を好転させて振り出しとした理由は、タイトルを逃した分だけ募らせてきた悔しさの差に行き着くだろうか。

PK戦4人目失敗で絶体絶命も
新井の劇的セーブで初優勝へ

 迎えたPK戦。先蹴りのフロンターレは、4人目の車屋の一撃がクロスバーに弾かれてしまう。対するコンサドーレは全員が成功させ、5人目のDF石川直樹が決めれば初優勝という状況を迎える。直後にスタジアムにとどろいたGK新井章太の咆哮が、流れをフロンターレに引き戻した。

「相手選手の方が、目に見えて緊張していたのが分かっていたので。僕はそれを上手く利用するというか、最後まで動かずに待って、逆にプレッシャーをかけてやろう、と」

 一か八かではなく、相手が蹴る刹那の体勢や足首の角度などでボールが飛んでくる方向を見極める。石川の一撃を右へダイブして完璧に弾き返すと、6人目のDF進藤亮佑のPKも再び右へ体を移動させて今度は真正面でキャッチ。劇的なセーブを連発して勝利の女神を振り向かせ、MVPを獲得した。

 東京ヴェルディでプロのキャリアをスタートさせた新井は公式戦出場がゼロのまま、トライアウトを経て2013年にフロンターレへ移籍。しかし、西部洋平(現清水エスパルス)や元韓国代表チョン・ソンリョンの厚い壁に阻まれ、出場機会がなかなか訪れないセカンドキーパーに甘んじてきた。

 それでも努力を怠らず、居残り練習では攻撃陣のシュート練習の相手を率先して務めた。在籍時に3年連続得点王を獲得したFW大久保嘉人(現ジュビロ磐田)は、自身のツイッターに感謝の思いを込めて「新井がようやく報われた日が来た」と投稿。9月以降の戦いで先発の座をつかんだ、まもなく31歳になる苦労人の晴れ姿を喜んでいる。

「嘉人さんはすごかったし、悠さんも全然違うタイプだけどすごい。あとは阿部ですね。右足でも左足でも、ミドルでも近いところでも、ニアへもファーへも全部打てるので。素晴らしい選手がいる中でキーパーを務め、いろいろなことを学ばせてもらった。すごく自信になっているし、全員に感謝です」

 試合後に新井が名前を挙げた阿部と小林が、ともに決勝戦でゴールを決めた。そして、居残り練習で磨き上げられてきた実力が、大舞台でのPK阻止という最高の形で花を咲かせる。まさに歴史が線を成してもぎ取ったカップ戦の初優勝がフロンターレへもたらす価値に、中村は言葉を弾ませている。

「一番はシルバーコレクターと言われなくなることですね。決勝で勝つイメージがつけば、その後のクラブの歴史も大きく変わってくる。例えば鹿島が勝ち上がってきたら『鹿島だろう』という空気感が、メディアのみなさんの間でも作られると感じるんです。その意味でも、本当にいろいろなことがあっても勝ち切った経験が、札幌との決勝以上の戦いはないという思いとともに引き出しの中に残る。自信をもって戦わせてくれると思うし、次(のタイトル)も欲しい、となってくるので」

 真の実力が問われる長丁場のリーグ戦を制し、クラブ悲願の初タイトルを獲得したのが2017年。史上5チーム目となる連覇も達成した中で、勝負強さを含めたメンタルが問われるカップ戦でも頂点に立った。栄光の歴史を受け継いだ未来のフロンターレの選手たちが過去を振り返った時、ターニングポイントの1つに2019シーズンも必ず加えられる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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