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金融政策決定会合だけではわからない日銀の“二面作戦”

2019年10月30日 06時00分更新

文● 鈴木明彦(ダイヤモンド・オンライン

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金融政策決定会合だけではわからない日銀の“二面作戦”
Photo:PIXTA

 10月30日・31日に開かれる日本銀行の金融政策決定会合では、金融緩和の強化が見送られるとの見方が強まっている。

 メディアの報道などでは、もっと円高が進んだ時のために「緩和カード」は温存するとの説明がされているが、効果のない緩和カードを切りたくないというのが実際のところだろう。

 ただ、政策決定会合で追加緩和が決定されなくても、金融調節の現場ではイールドカーブ(長短金利の利回り曲線)の傾斜を大きくする「スティープ化」がすでに始まっている。

 また、政策金利と市場金利の連動を断つことによって、マイナス金利の「無害化」がさらに進むのではないか。

「期待」を盛り上げたが
追加緩和は先送り?

 10月の金融政策決定会合で日銀が追加緩和に踏み切るとの予想が後退している。

 だがそもそも、期待が盛り上がったのには理由がある。

 7月の決定会合では、米中貿易戦争の先行きが見えないことなどから、当面の金融政策運営について、「特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧(おそ)れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」という文言が加わり、「予防的緩和」に向けた方向性が示された。

 続く9月の決定会合では、海外経済の減速の動きがさらに下振れるリスクが高まりつつあるとして、経済・物価見通し(展望レポート)を作成する10月の政策決定会合で、経済・物価動向を改めて点検することが明言された。
 
 加えて、決定会合後の記者会見で黒田日銀総裁は、7月、9月と決定会合ごとに金融緩和に前向きになってきたことを認めている。

 しかし、こうした流れのなかで、今回も追加緩和が見送られるとしたら、なぜか。

 まず、今回の展望レポートではどういう景気判断が示されるのだろうか。筆者の予想では、景気が緩やかな拡大基調を続けているという基本判断は維持するはずだ。

 その上で、海外経済の減速の動きが強まり、その影響が日本経済にも及んで輸出や生産に弱い動きが出ていることまでは認めるのではないか。

 景気が拡大する過程での一時的な弱い動きとしておけば、政府の景気判断とも齟齬は生じない。これなら予防的利下げに踏み切ってもおかしくない。

 それでも見送るとすれば、海外経済の動向に関しても、減速はまだ続く可能性があるものの、米中貿易戦争が部分的には合意に向かいそうなことや、またそれゆえ物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるのは回避されそうなことを、考慮した結果ということになろう。

「緩和カード」の温存ではなく
効果見込めないのが本音

 10月の決定会合で追加緩和が見送られた場合、日銀は、円高などが加速した時のために、緩和カードを温存したという解釈が市場などではされそうだ。

 確かに、消費増税後の10月以降の物価統計では、増税の影響を除けば、物価は下落しているという数字が出てきそうだ。原油などエネルギー価格の下落に、幼児教育無償化の影響も加わっての物価下落であり、景気の悪化によるというよりは政策デフレの色合いが強い。

 しかし、それでも、実際に物価が下落すれば、2%物価目標に向けたモメンタムが失われたということで、金融緩和を求める声は強まりそうだ。

 日銀は、追加金融緩和の手段として、(1)短期政策金利の引き下げ(マイナス金利の深掘り)、(2)長期金利操作目標の引き下げ、(3)資産買入れの拡大、(4)マネタリーベース拡大ペースの加速を挙げている。

 このうち、長期金利操作目標の引き下げは、イールドカーブのフラット化、あるいは逆イールド(長短金利の逆転)を容認することであり、無理だろう。

 資産買い入れの拡大は、ETFやJ-REITを日銀が購入することの問題点が指摘されている。

 また、マネタリーベース拡大ペースの加速は、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)の結果として一時的に増えるのは別にして、目標を掲げて拡大ペースを加速するのであれば、かつての「量的・質的金融緩和」に逆戻りということになってしまう。

 結局、日銀の「次の一手」は、短期政策金利の引き下げ(マイナス金利の深掘り)ということになる。

 だが、問題は、政策金利を多少下げたところで景気刺激効果はまず期待できないということだ。

 それどころか、副作用を軽減する措置をとったとしても、マイナス金利を深掘りすることに対する批判は覚悟しなければならない。

 このことを考えると、日銀の本音は、緩和カードを温存しておくというよりも、効果が見込めない緩和カードはできれば切りたくないということではないか。

 円高を防ぐために追加緩和をすべきという意見が当然のように語られるが、円高阻止のために金融を緩和するというのは本来の姿ではなく、また現実的でもない。
 
 仮に円高を防ぐために金融緩和を行ったとしても、思惑通りに為替が動くことはないだろう。

 円安が進んだとしてもせいぜい1日だけだ。2016年1月にマイナス金利の導入を決めた時には、思惑に反して円高・株安が進んだ。

 また仮に円安が進んだとしても、為替を円安に持っていくために金融緩和をしたということになれば、トランプ大統領を含めて、日本の金融政策に対する批判が出てくる。

 トランプ大統領の顔色をうかがって日本の金融政策が決められるというわけではないが、円高を阻止するために金融を緩和するという選択肢は現実的ではない。

別に取り組む“金融政策”
イールドカーブのスティープ化

 ただ、日銀が追加緩和に踏み切らないからといって、何もしていないというわけではない。

 例えば、従来もマイナス金利政策の負の効果を取り除く取り組みは行われてきた。

 マイナス金利導入以降、長い金利ほど低下し、イールドカーブが極端にフラット化あるいは逆イールド状態となっている。

 これを是正するために、日銀は、2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入。さらに18年7月には、操作目標(0%)である10年物金利の変動幅を広げて調節の自由度を高め、イールドカーブのスティープ化を進めてきた。

 その後、米国の利上げ打ち止め、利下げへの転換を背景に米金利の低下が続いたことで、日本の長期金利も低下、イールドカーブは再びフラット化が進んできたが、今年9月以降は、極端にフラットな状態からやや傾きを増して元の状態に戻ってきている(図表1)。

 黒田総裁はこれまでも記者会見で、長期金利が操作目標である0%を外れる状況をいつまでも容認することはないと発言。また、金融緩和を行うことになれば、短中期の金利はさらに下げる必要があるが、超長期の金利は下げる必要がないどころか、むしろ上がってもおかしくないのかもしれないとも述べている。

 従って追加緩和の有無にかかわらず、長期金利を上げるという取り組みはこれからも続くだろう。

 さらに、黒田総裁は日銀の国債の買い入れプログラムを適切に修正していくことによって、超長期の金利が下がりすぎることは回避できるとしている。

 これについてはまだ試行錯誤の段階であり、イールドカーブ・コントロールを円滑に行えるような枠組みの強化が検討されているかもしれない。

マイナス金利の「無害化」で
無担保コールレート復権も一案

 また、導入当初から評判が悪いマイナス金利の適用を限定する「無害化」も追加緩和の有無にかかわらず進むだろう。

 金融政策決定会合ではマイナス金利導入について議論した時から、貸出金利低下、利ザヤ縮小による銀行の収益悪化の副作用が意識されていた。

 それもあってかマイナス金利は限定的に運用され、現在、マイナス0.1%の付利が適用されている政策金利残高が、銀行の日銀当座預金残高に占める割合は5%程度にまで低下している。

 マイナス金利の深掘りで短期政策金利が引き下げられても、政策金利残高を減らすことによって適用を限定し、「無害化」を進めることは可能だ。

 マイナス金利深掘りで最も問題なのは、政策金利の引き下げに応じて、貸出金利がさらに低下してしまうことだ。しかし本来、政策金利といっても日銀当座預金への付利は銀行にとって調達金利ではない。従って 政策金利を変更したからといって貸出金利が連動して動く必然性はない。

 ただ、マイナス金利を付利される当座預金との間で取引が発生し、無担保コールレートがマイナスとなり、市場金利や貸出金利が低下する。この連動メカニズムを完全に遮断することは難しいが、関係を薄めることはできる。

 例えば、かつては政策金利だった無担保コールレートを誘導目標として復権させてはどうか。

 今の政策金利残高はマイナス金利を演出するための象徴的存在にすぎない。いつの日かマイナス金利政策が終わる時に、短期の政策金利は無担保コールレートに戻るはずだ。

 そう考えると、マイナス金利を深掘りしても、無担保コールレートが誘導目標として固定されていれば、マイナスの政策金利とフルに連動する必要はなくなり、また貸出金利も政策金利との連動は弱まる。

 つまり、無担保コールレートを、短期金利の誘導目標あるいは操作目標として、長期金利の誘導目標である10年金利と同じ位置づけにすれば、この2つの金利を軸にイールドカーブ・コントロールの枠組みが強化できる。

 10月になってからの無担保コールレートは、マイナス領域ではあるがゼロに近い水準で推移している(図表2)。

 それまで-0.10~-0.05%のレンジを中心に推移していたのが、10月になって-0.05~0.0%のレンジにシフトしたかのようにも見える。

 もちろん、短い期間の出来事であり、たまたまそうなったということも考えられ、実際に日銀が意識的に動かしているかどうかは不明だ。

 ただ、日銀が今後、無担保コールレートを正式の誘導・操作目標とするかどうかは別にして、数年前までは政策金利であったわけで、その水準を再び操作することは全く非現実的というわけではないだろう。

 少なくとも現在の政策金利である当座預金の付利と無担保コールレートの連動を弱めることは、一考に値するのではないか。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部研究主幹 鈴木明彦)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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