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日本電産、下方修正しても車載モーターに巨費を投じる永守会長の勝算

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日本電産、下方修正しても車載モーターに巨費を投じる永守会長の勝算
ホンダが中国合弁会社の現地ブランドで発売する電気自動車(EV)には日本電産の駆動用モーターが搭載される。「実車が走ることでモーターの信頼が高まる」と同社は期待する Photo:JIJI

日本電産が自動車の駆動用モーターに経営資源を集中している。2020年3月期の業績予想を下方修正してまでも駆動用モーターに追加投資し、累計で1兆円の投資も辞さない構えだ。日系企業としては珍しい大胆な成長戦略とも言えるが、市場の伸びが未知数の電気自動車(EV)への依存には危うさもはらんでいる。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

中国ショックの余波はやまず、再び下方修正

 日本電産の永守重信会長兼CEOは今年1月、「尋常ではない変化が起きた。月単位で受注がこんなに落ち込んだのは初めて」と話し、中国経済減速の影響をダイレクトに受けた日系製造業の象徴として注目されていた。

 そして今もなお、中国ショックの余波はやんでいなかった。

 10月23日、日本電産は20年3月期の業績予想を再び、下方修正した。営業利益の見通しを250億円減の1500億円へ引き下げたのだ。米中貿易摩擦の影響が拡大し、同期中間決算(19年4~9月期)では、営業利益が前年同期比340億円減と大幅に悪化した。

 ところが、である。翌24日に開催された決算説明会は、とても下方修正した企業とは思えないほど「前のめり」な内容だった。

「日本電産ほど(自動車の駆動用モーターの研究開発や設備投資を)やっている会社はない。世界シェアの70~80%は取れる可能性がある」。24日の決算説明会で、永守会長は終始、いつもにも増してハイテンションだった。

 永守会長はプレゼンテーションで、業績予想の下方修正は、自動車の駆動用モーターの開発費や増産などのための前向きな投資を行うためのものだと何度も強調した。

 追加的な投資判断に至った理由は、駆動用モーターの受注見込数量が3ヵ月間で5倍に増えたからだ。EV向けの駆動用モーターだけでなく、ハイブリッド車(HV)向けモーターまで含め、長期契約における23年の受注見込みが220万台に達したという。

 受注激増の背景は二つある。まず、EV大国を目指す中国市場で、日本電産製の駆動用モーターを積んだEVが実際に走り始めたことで、地場自動車メーカーからの信頼が高まったこと。次に、モーターの納入先が欧州の完成車メーカーやサプライヤーへと広がったことがある。

 旺盛な需要に応えるため、日本電産は生産能力の増強に動く。中国の2カ所にメキシコ、ポーランドを加えた4つの工場を新設・増設することで、生産能力を年間1200万台へと引き上げるという。だが同社は、その野心的な拡張が完了しても、EV市場が順調に拡大すれば供給能力はその2倍でも足りないと見ている。

 また、永守会長は「5000億円から1兆円の投資をしていかないといけない段階にきている。(中略)サラリーマン社長じゃできない(オーナー社長ならではの長期的な視野を持った投資判断だ)」と述べ、駆動用モーターへの集中投資の必要性を主張した。

 日本電産にとって、駆動用モーターは将来の根幹をなす製品だ。日本電産では、21年3月期に売上高2兆円をめざす中期経営計画が進行中。その計画では、車載モーター事業は売上高3000億円を6000億円に倍増、M&A(企業の合併・買収)を含めれば1兆円に伸ばす成長戦略の柱となっている。そして同事業の最大の成長株が、駆動用モーターなのだ。

 もっとも、駆動用モーターへの集中投資はハイリスク・ハイリターンである。

 最大のリスクは、EVの市場拡大に予想以上に時間が掛かるとの公算が大きいことだ。EV普及のネックであるバッテリーは「素材の供給不足などのため依然として価格が高く、補助金などで生み出された需要を除けば、限られた市場」(日系完成車メーカー幹部)。EVは、中国政府の電動化目標や米国政府の環境政策に左右される“官製商材”である。

 EV向けがダメなら代わりにHV向けモーターに追い風が吹くとみられるが、いかんせんHV向けの価格がEV向けに比べて安く、販売数量の割に利益が伸びない。今回の積極投資は吉と出るか凶と出るか。いよいよ、永守会長の神通力が試されている。

 そしてもう一つ、日本電産には重大なリスクが横たわっている。独特の投資戦略に代表される“永守流経営”の伝承に黄信号が灯っているからだ。日本電産にとっては古くて新しい問題──、カリスマ創業者である永守会長の後継者問題である。

 昨年6月に永守会長から「社長職」を受け継いだ吉本浩之氏は、その後、米国に渡り、家電・商業・産業用モーター事業などの改革を行なっている。永守会長は吉本社長ついて、「(同事業を改革して)利益を上げて凱旋門をくぐればいい。(同事業の利益率が)15%になったら帰ってこいと言っている。非常にシンプルだ」と檄を飛ばしつつも、権限移譲に向けた“次のステップ”を示した。

 それでも、CEOの引き継ぎ時期については「やっぱり私の経営力を学ぶには3~5年掛かるな」と煙に巻いている。

 積極投資リスクと後継者問題。日本電産が重大な岐路に立たされていることだけは間違いない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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