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文字に全く興味のない子が「ひらがな博士」に!92歳保育士の子育て術

2019年10月23日 06時00分更新

文● 大川繁子(ダイヤモンド・オンライン

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栃木県足利市に、小俣幼児生活団という“ちょっと変わった”保育園がある。「敷地は3000坪超」「最も古い園舎は築170年(ペリー来航より前!)で、足利市の国有形文化財」「園庭はちょっとした山で、池も梅林も灯篭もマリア像もある」――。保育の内容も独特で、いち早くモンテッソーリ教育とアドラー心理学を取り入れ、子どもたちに指示することも、カリキュラムを与えることも一切ない。前回に引き続き、92歳の主任保育士・大川繁子さんの著書『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)から、子どもに決断力を養わせるための心得を紹介する。

子どもから「○○やりたい」と
言い出す工夫はなぜ大事か

足利市の小俣幼児生活団で独自の子育てを行う92歳の現役保育士・大川繁子さん。子どもには機会を与えるだけでいいという

 最近は、小学校から「入学までに自分の名前は書けるようになっていてください」と言われます。

 本来のルールで言えば、平仮名は小学校で教えるものです。でも、教育熱心な幼稚園では、名前どころか作文まで書かせたりしているでしょう。かたや「自分の名前も読めません、書けません」では、先生もやりにくい。それに、子ども自身も劣等感を持ってしまいます。

 なので、卒園までには自分の名前を習得してもらわなきゃいけないわけですが……うちは「ハイ、名前を書く練習の時間です」とはしません。機会をつくります。子どもは機会をつくれば、自分の名前くらいは自然と覚えますし、そうでなくとも、「知りたい」と思うものです。

 機会をつくるといっても、たいした話ではありませんよ。

 うちは3歳児クラスから、登園したら安全ピン付きの名札を取り、自分の服につける「お仕事」が始まります。はじめは「これがあなたの名札よ」と教えられ、わけもわからず形を覚える。それを毎日目にするうちに、4歳になるころにはすっかり「自分の名前」として認識できるようになる。次第に「大川先生、ぼくのお名前書きたい」と言われるようになるので、教えてあげるってわけです。

 教えるのは、あくまで子どもが「やりたい」と言ってから。強制はしません。「書きたい」が自然と芽生えるまで、のんびり待つという方針です。

 ある年、4歳児クラスになっても5歳児クラスになっても、いつまで経ってもまったく文字に興味を持たないマサくんという子がいました。そのうちに、卒園も見えてきた。

 環境はあるのに「知りたい」と思わないのですから、時期じゃないわけです。無理やり机に座らせたくもない。でも、小学校でマサくんが苦労するのはかわいそう――。はて、どうしようかしらと頭をめぐらせていました。

文字に全く興味のない子が
1週間でひらがなを覚えられたワケ

 そんな状況を変えたのは、折り紙でした。

 園長は折り紙がとてもうまくてね、みんないつも「園長先生、ライオンさん折って」「ペンギンさん教えて」って言いに来ます。ある日マサくんも、「園長先生、ゾウさん折って」と言いに来ました。でも、園長は用事があったので「紙に自分の名前と折ってもらいたいものを書いて、持ってきてください。書いてもらわないと、忘れちゃうからね」と言ったそうです。

 するとマサくんは「えー、ぼく、字書けないもん」と胸を張って言う。そこで園長が「じゃあ、先生でもお友だちでもいいから、だれかに書いてもらってくださいね」と言うと、「わかった!」と字の書ける友だちを探しにいきました。
 
 それを何回か繰り返したとき、マサくんはハタと気づいたみたい。「文字ってやつを書けると、どうやら便利らしいぞ」と。

 それで、私のところにピューッて走ってきて、「大川先生、ぼく、名前書きたい!」。「ああ、ようやく文字に興味を持ってくれたわ」と胸をなでおろしつつ、教えてあげました。そしたらもう「知りたい」の気持ちが強いから、「もっと、もっと」でね。結局、1週間足らずで50音すべて覚えてしまいました。子どものやる気って、すごいのです。

「文字を覚えたい」と思う前のマサくんに「自分の名前が書けると便利よ」といくら言い聞かせても、「ふうん」でおしまいだったでしょう。

 大切なのは、なにからなにまでお膳立てして会得させることではなく、「○○したい!」と思える機会や環境をつくること。そのために、あの手この手を使い、工夫をこらすの。大人の腕の見せどころですね。

 無力な赤ちゃん時代を知っているお母さん、お父さんにとって、子どもはいつまで経っても「なにもできない子」に見えてしまいがちです。2歳になっても、3歳になっても、いえいえ4歳になったって、どこか赤ちゃん扱い。ついつい手と口が出てしまいます。

 だけれども、その子に関することは、その子自身に決める権利があります。私たち大人の仕事は、「決めるための材料」を与えることだけ、なのです。

自分のことを決めるための
「材料」を伝えよう

 もちろん、はじめから「決める」はちょっと難しい。だからまずは、「選ぶ」からスタートします。うちでは1歳児になると、「選ぶ練習」をはじめます。たとえば、お昼ごはんのときにおしぼりを2つ出して「どっちにする?」と聞く。両方とも同じおしぼりですけど、「うーん、こっちにする」「そっち!」と選んでもらうのです。その他にも、「牛乳とお茶、どっちを飲む?」「お味噌汁、どれくらいよそう?」など、できるだけ自分で決めてもらいます。

 また、散歩に行くか行かないかも、子どもが決めます。「今日は気分が乗らないから、お部屋で遊びたい」と決めた子は、お留守番でかまいません。おうちでは、まず靴下やシャツなど身に着けるものを選んでもらってはどうでしょう。ちぐはぐな組み合わせになってもご愛敬。子どもらしくてかわいいですよ。

 こうして「選ぶ経験」を積み重ねていくと、だんだん「自分で決める」ができるようになります。

 そして、子どもが決めたことには口出し無用です。たとえば保育園に着ていく服に、ヒラヒラのフリルがついたよそゆきのかわいい服を選んだ女の子がいたとします。当然シンプルな服のほうが遊びやすいし、親としても保育園着にするのはもったいない。でも、「それを脱いでこっちの服を着なさい」なんて命令したら、子どもは自分の決定を否定されたようで、おもしろくないですよね。

 ただし、「ハイハイ」と言うことをただ聞くわけではありません。子どもは、決めるための十分な知識を持っているとはいえないからです。ですからこういう場合は、「決めるうえで必要な材料」を伝えてあげるのです。

「マリちゃんが大好きなお洋服が汚れちゃうかもしれないけれど、ほんとうにいいの?」

「それでもいいもん」と言うのなら、「えーッ、もったいないなあ」と思いつつも、黙ってその決断を受け入れてあげましょう。結果的に、「やっぱりこれ、遊びづらい!」「汚したくない!」と気づいて服を決め直すのも、またよし。軌道修正の、いい経験になりますから。

(小俣幼児生活団 主任保育士 大川繁子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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