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上島珈琲とプロントの「完全キャッシュレス店舗」、売上で明暗が分かれたワケ

2019年10月23日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,山本興陽(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

消費増税を契機に政府が旗を振るキャッシュレス決済。外食チェーンでも現金が使えない「完全キャッシュレス店舗」の導入事例が相次いでいる。ただ、人件費削減などのメリットがある一方で、店舗によって売り上げの明暗は分かれている。完全キャッシュレス店舗を成功に導くポイントは何か。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

現金不要でレジ締め作業なし
人件費は削減できたが…

「申し訳ございません。当店で現金は扱っておりません」

 店員がこう告げると、女性客は慌てて財布からクレジットカードを取り出した――。

上島珈琲店大手町フィナンシャルシティ店とPRONTO二重橋スクエア店
上島珈琲店大手町フィナンシャルシティ店(左)とPRONTO二重橋スクエア店(右)。共に完全キャッシュレス店舗だが、売り上げは明暗が分かれた Photo by Koyo Yamamoto

 10月から始まった消費増税を契機に、政府はポイント還元や各種補助金などあの手この手で、キャッシュレス化を推進している。

 この流れに乗るべく、外食産業でも完全キャッシュレス化の店舗が登場した。サントリーグループのプロントコーポレーションが運営するPRONTO二重橋スクエア店と、UCC上島珈琲が運営する上島珈琲店大手町フィナンシャルシティ店だ 。いずれの店舗も、東京駅から徒歩圏内という好立地だ。

「商品やサービスに加えて、キャッシュレスという決済手段についても店舗を選ぶ基準になってもらえれば」と、プロントの冨田健太郎営業企画部長は導入に至った背景を語る。

 完全キャッシュレス化が店舗にもたらす効果は大きかった。

 PRONTO二重橋スクエア店では閉店後のレジ締めの時間が不要となっただけでなく、人件費の削減にも直結した。同規模の店舗の運営には通常は4人の従業員が必要だったが、3人での運営を実現したという。また、現金を扱わなくなったことで店舗スタッフの心理的な軽減にもつながった。

 反面、完全キャッシュレス化のデメリットも見えてきた。「人件費の削減分は、カード会社等に払う決済手数料で消えてしまった」(冨田部長)。

 日本では現金への信頼性が高いことの裏返しとして、海外と比較してカードの決済手数料が高い。この手数料の高さが、外食産業がキャッシュレス化に乗り気でなかった要因の1つになっている。

 人件費コストの削減という完全キャッシュレス化による効果は2店舗で共通している。 ところが、売り上げに目を向けると明暗が分かれた。

完全キャッシュレス化で
上島珈琲店が増収増益になったワケ

「完全キャッシュレスにしたことで増収増益となった」とにこやかに語るのは、上島珈琲店の橋本吉紀営業本部長だ。鍵となったのが「既存顧客の取り込み」だという。

 上島珈琲店大手町フィナンシャルシティ店では、今年の2月から完全キャッシュレス化へと舵を切った。金融機関が周りにあることや、駅が近く交通系電子マネーが普及しており、もともとキャッシュレス決済比率が5割程度と高かったという。

 そして、完全キャッシュレス化に踏み切る1ヵ月前から、店頭でキャンペーンを行うなどして移行期間を設けた。

 大手町フィナンシャルシティ店は、土日はもともと休み。平日の既存顧客に対して認知を徹底したことで、完全キャッシュレス化への移行後も、客数は横ばいで推移した。キャッシュレス決済のほうが、手持ちの現金を気にしなくていいため、現金払いより客単価が高くなる傾向があったという。

 この客単価の上昇が、結果として増収増益につながったのだ。「お店が好きであれば、継続して来店してもらえる。ファンを徹底的に囲い込んだ」と橋本部長は成功の秘訣を明かす。

 一方、プロント側は売り上げに対して話が及ぶと険しい表情を見せ、言及を避けた。実態は明らかにされなかったが「計画に対して売り上げが厳しく、課題感しかないはず」と業界関係者はプロントの苦悩を代弁する。

 PRONTO二重橋スクエア店は、昨年11月のオープン当初からの完全キャッシュレスで注目を集めた。このため店舗にとって全てが新規の顧客で、既存顧客は存在しなかった。平日はビルインのため入居するビジネスパーソンが多く利用するものの、皇居が近い立地ということもあり、土日は“一見さん”の高齢者が多い。

 キャッシュレスに馴染みが浅い層も店舗の前を通りかかり、「現金は使えないのか」という声も多数あったという。このような微妙なミスマッチが、上島珈琲店との明暗を分けたと推測される。

 顧客の取り込みができずに、店舗運営が厳しい例は他にもある。

 大手外食チェーンのロイヤルが運営する「大江戸てんや浅草雷門店」だ。この店舗は昨年10月に完全キャッシュレス店舗としてリニューアルオープンするまで、「てんや浅草雷門店」として営業を行っていた。完全キャッシュレスに踏み切るにあたり、店名に加えて、外装や商品を大きく変更した。

「この店舗はもともと顧客の9割がインバウンドだったが、(リニューアル後は)5割に下がってしまった。外国人は『てんや』を探して来ていたが、看板などを独自に変えたため、見つけにくくなったのではないか」とロイヤルの担当者は分析する。

 現状では売り上げが低迷していても、キャッシュレス化は大きな潮流だ。苦境に立たされたプロントの二重橋スクエア店では、1時間980円(税別)でワインの飲み放題や、ポイントカードで全品10%オフなどの施策を通して、既存顧客の獲得に懸命だ。

 キャッシュレス化の効率面ばかりに目を向けるのではなく、「既存顧客の取り込み」 という王道を模索し続けることが成功への早道なのだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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