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何気ない「ダメ出し」が子どもに残す傷、92歳の超ベテラン保育士が警鐘

2019年10月22日 06時00分更新

文● 大川繁子(ダイヤモンド・オンライン

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ニュース3面鏡93歳保育士子育て術
足利市の小俣幼児生活団で独自の子育てを行う92歳の現役保育士・大川繁子さん

栃木県足利市に、小俣幼児生活団という“ちょっと変わった”保育園がある。「敷地は3000坪超」「最も古い園舎は築170年(ペリー来航より前!)で、足利市の国有形文化財」「園庭はちょっとした山で、池も梅林も灯篭もマリア像もある」――。保育の内容も独特で、いち早くモンテッソーリ教育とアドラー心理学を取り入れ、子どもたちに指示することも、カリキュラムを与えることも一切ない。驚くのが、こうしたユニークな環境で多くの子どもに接してきた92歳の主任保育士・大川繁子さんの先進的な子育て観だ。大川先生の著書『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)から、しっかり自立した子どもに育つコツをお伝えする。

子どもが言うことを聞かないとき
大人の「あたりまえ」で叱らない

 ずっと昔、マキちゃんという子がいました。元気な女の子でしたが、その子に話しかけると、いつも「ん?」と言って横を向く。毎日毎日、名前を呼ぶたびにフイッと顔を背けられる。

 まだ未熟だった私は、「直さなきゃ」って躍起になってしまって、マキちゃんとお話しするたびに注意していました。

「マキちゃん、ちゃんと先生のお顔を見て」「話をしている人の顔を見るのがマナーよ。横を向かないで」

 それでもまったく直らなくて、さらに必死になっていく私。ところがある日、担任の保育士がふと気づいたのです。

「大川先生、マキちゃん、右の耳が遠いのかもしれません」

 ええーッ! おどろきながらも合点がいき、申し訳ないことをした……と思いました。

 マキちゃんは「先生の話を聞く」という、ちゃんとした目的を持っていたの。それで、よく聞こえるほうの耳を私に向けていた。結果的に、顔を横に向けることになっていたのね。 それなのに私は、「目を見て話を聞く」なんて、大人の常識だけに縛られて、理由も聞かず、ただ叱っていたのですから。

 大人は人生の中で、理想や常識、ルールをしっかり身につけてきています。私なんて、90年分もの「あたりまえ」があります。そうした「あたりまえ」や常識に沿わない行動(これを「問題行動」と呼ぶのですね)をとる子どもがいると、つい頭ごなしに正してしまいたくなるのかもしれません。

 でも、子どもはいろいろな「目的」を持っていて、ただそれに従って行動しています。

「この子は、どういう気持ちでこんなことをしているんだろう?」
「この行動には、どういう意図があるんだろう?」

 子どもをじっくり見て、見つけてあげてください。「アッ、そういうことだったのね!」って気づくこと、たくさんありますよ。

理不尽な現実にぶつかった子には
「ステキなところ」を伝えてあげる

 また、うちの園を卒園し、小学校に入学したばかりのタカちゃんという子がいました。ある日、お母さんから「先生、実は学校でこんなことがあったんですけど……」と電話がかかってきました。

「授業で新聞紙を使うから、ひとり3枚持ってきなさい」と先生が言った。タカちゃんは、「忘れてしまう子もいるだろうから」と10枚持っていった。案の定、忘れてしまった友だちがいたから新聞紙を分けてあげた。すると先生から、「忘れた子には『困る』という罰が必要なのだから、余計なことをするな」と怒られた。「……どう思いますか?」というわけです。

 確かに「罰」という発想は、園にはありませんでした。また、タカちゃんが周りに貢献したいという気持ち、困っている友だちを助けたいという優しい心を持っていたのは明らかでしょう。お母さんがモヤモヤするのもわかります。

 けれども私は、「先生が『罰が必要だ』と考えるのであれば、それに従うしかないわよね」と答えました。園と学校は違うところですし、先生にも考えがあるでしょうから。

「でもね、お母さんはかならずタカちゃんにこう伝えてあげてね。『ママは、タカちゃんのその優しい気持ちが大好きだよ』って」

 私がそう言うと、タカちゃんのお母さんは納得したように電話を切りました。

 タカちゃんのように、子どもが育つ上では理不尽さや不条理に戸惑うこともあるでしょう。怒ったり、落ち込んだり、ふさぎ込んだりする姿を見るのはつらいものです。そんなときは、「ママは、あなたのそういうところが好き」と伝えてあげる。

 もしかしたらその場にはふさわしい振る舞いではなかったかもしれないけれど、あなたのステキなところで、ママはそこが大好きだよって認めてあげるの。

 すると、「大好きなお母さんが好きでいてくれるならいいや」って子どもは納得します。「ぼくはぼくのままでいいんだな」って。そんな安心感を得ることで、子どもの愛おしい長所を失わずに済むんじゃないかしら。きっとタカちゃんは、とても優しい大人になったと思いますよ。

何気ない「あなたはダメ」、
言ってませんか?

 子どもとのコミュニケーションで守りたい約束は、他にもあります。子どもは、元気がいちばんです。だから、保育士である私がなんとなく発した言葉や態度で、その元気をくじかないよう気をつけてきました。

 たとえば、「あなたはダメ」というメッセージ。正面切ってそんなことを言うお母さんはほとんどいないと思いますが、「あなたはこれが苦手だね」「あまり向いていないね」といったメッセージだと、どうでしょうか。何の気なしに口にしがちな言葉ですが、これも子どもにとっては「ダメ」の1つになります。

 子どもは、大好きなお母さんから受け取った「ダメ」のメッセージを信じます。そして心に刻み、元気をくじいてしまうのです。

絵を描くことに対する苦手意識が
80年以上も刷り込まれていた

 実は、私もそうでした。

 母は絵がとても上手だったのですが、娘の私は美術方面がからきしダメ。私自身はあまり気にしていなかったのだけれど、小学校の参観日のあと、こんなことを言われたの。

「あなたの話を聞いていたら、さぞ素晴らしい絵が飾ってあるだろうと思ったら、ダメねえ。歌が下手な人のことを音痴というから、あなたは『画痴』ね」

 もう、しょんぼりしました。母はきっと軽い気持ちで、冗談めかして言ったんでしょう。でも、「私は絵が下手なんだな」と心の深いところに刷り込まれちゃった。ですから、その言葉をかけられて80年以上経ったいまでも、絵を描いたり折り紙を折ったり、なにかをつくることには気が向きません。

 子どもは、親に否定された自分の能力を好きにはなれないものね。

 不用意な発言で、子どもの元気を削いでしまわないように。自分がそうだったからこそ、「あなたはダメ」のメッセージは口に出さないように気をつけてほしいなと思います。 親は忘れても、子どもは忘れないものですから。

(小俣幼児生活団 主任保育士 大川繁子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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