このページの本文へ

ラグビーW杯南ア戦、勝利のカギは姫野の「ジャッカル」にあり

2019年10月20日 06時00分更新

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
姫野和樹
アイルランド戦で突進する姫野和樹。姫野の「ジャッカル」成功が間違いなく南アフリカ戦勝利のカギになる Photo:JIJI

空前の盛り上がりを見せているラグビーワールドカップで快進撃を演じ、9度目の挑戦にして悲願のベスト8進出を成就させた日本代表が20日19時15分、東京スタジアムでキックオフを迎える準々決勝で、2度の優勝を誇る南アフリカ代表と対峙する。前回イングランド大会で世紀の大金星をもぎ取りながら、今大会の開幕直前に行われたテストマッチでは完敗を喫する返り討ちにあった難敵を、どのようにして攻略すればいいのか。日本にとって未知の領域となる決勝トーナメントの戦いで注目すべき、ベスト4進出へとつながる3つのプレーに迫った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

南アフリカの脅威は
激しく獰猛なディフェンス

 負けた瞬間に大会を去る決勝トーナメントに突入すれば、もはや逃げも隠れもしない。通常ならば2日前に発表される先発15人を含めた登録メンバー23人を、南アフリカ代表のヨハン・エラスムス・ヘッドコーチは、日本代表との準々決勝を3日後に控えた17日にあえて発表した。

 イタリア代表をノートライに封じ込め、49-3のスコアで圧勝した4日の予選プールB第3戦とまったく変わらない先発陣とリザーブ陣。右ウイングにはイタリア戦で負傷退場し、8日のカナダ代表戦を欠場していた世界屈指の快足ウイング、チェスリン・コルビも満を持して復帰する。

 9月6日に行われた大会前最後のテストマッチで、日本は7-41で南アフリカに完敗を喫している。右ウイングのコルビに2トライを、左ウイングのマカゾレ・マピンピには3トライをそれぞれ決められたが、準々決勝でも先発してくるウイングコンビだけが南アフリカの脅威ではない。

 南アフリカの伝統は激しく、獰猛なディフェンスにある。対戦相手を畏怖させてきたディフェンスを体現する8人のフォワード陣の平均サイズは、日本戦では身長約194cm、体重約115kgに達する。日本も外国出身選手を中心に大型化が図られてきたが、南アフリカの8人は日本をはるかに凌駕する。

 しかもラインアウトを中心とした空中戦を担うロックには、ともに身長204cmのエベン・エツベスとルード・デヤハーがそびえ立つ。地上戦に加えて空中戦でも日本とのボール争奪戦を制し、決定力の高い両ウイングへいい形で展開していく青写真が伝わってくる。

 さらに、リザーブの8人のうち、実に6人をフォワードが占める。スタミナの温存など考えることなく日本を蹂躙し続け、体力が消耗すればフレッシュなフォワード陣を次々と投入する。相手の体力を根こそぎ奪い取りながら、予選プール全体で最多の185得点、27トライをあげてきた。ワールドカップで2度の優勝を誇る伝統国が、牙をむきだしにして日本にもフィジカル戦を挑んでくる。

必殺の「ダブルタックル」と
姫野の「ジャッカル」が日本のカギに

 日本はどのように対峙すべきか。優勝候補のアイルランド代表戦、前回イングランド大会を含めて何度も苦杯をなめさせられてきたスコットランド代表戦を含めて、予選プールAを4戦全勝で突破してきた武器をさらに磨きあげて、粘り強い守備からロースコアの接戦に持ち込みたい。

 守備面では今大会で何度も披露してきた「ダブルタックル」が、さらに高精度で求められる。ボールをもって突進してくる巨漢選手のひざ当たりを目指して、一の矢として低く鋭いタックルを突き刺す。下半身の自由を奪い、例えるなら巨木をなぎ倒す状態となるが、まだ上半身が生きている。

 そこで放たれる二の矢のタックルが、上半身の自由も奪う。1人に対して2人で挑むため、一撃で仕留められなければ相手が数的優位に立つ。ゆえに一の矢にはひざ元へ怯まず飛び込む勇気が、二の矢にはボールごと相手をパックするテクニックが、何よりも2人のあうんの呼吸が求められる。

 もっとも、いかに完璧な「ダブルタックル」でも、ワールドカップクラスの選手から一発でボールを奪い取ることは難しい。しかも、突進を止められた相手は、タックルされた選手はボールを手放さなければいけないというルールの下で、味方のサポートを待ってボールをピッチ上に置く。

 この状態で選手たちがボールを目指して殺到し、両チームの1人ずつが立ったまま押し合えばラックとなり、以後はボールを手で触れたスクラムハーフ以外の選手はハンドの反則を取られる。逆の視点で言えば、タックルからラックが成立するまでの、ほんの数秒の間にボールをもぎ取ることが可能になる。

 味方のタックルが決まった刹那に状況判断力を研ぎ澄まさせ、勇気を振り絞り、高度な技術を駆使して立ったまま相手からボールを奪い取る花形プレーが「ジャッカル」となる。187cm、108kgのサイズを誇るナンバー8の姫野和樹が何度も成功させたことで、今やすっかりお馴染みになったはずだ。

 ジャッカルとは外見がオオカミに似た、イヌ科イヌ属に属する小型の肉食動物の総称を指す。主に南アジアから中東、アフリカにかけて生息していて、後ろ足を立てたまま捕食する姿がボールを奪うそれと似ていることから、ラグビーにおけるプレーに例えられるようになった。

 しかし、立ったままボールを奪いにいくということは、必然的に防御がおろそかになることを意味する。ボールを渡してなるものか、とばかりに、相手選手が目の色を変えてタックルに飛び込んでくるからだ。

 密集におけるボール争奪を最大の仕事とするナンバー8と左右フランカーにとって、味方がタックルで倒した相手から「ジャッカル」を成功させれば至極の喜びとなる。そして、相手の脅威をはね飛ばす勇気と体の強さ、そしてボールをもぎ取る技術と腕力をハイレベルで備えているのが姫野となる。

 スコットランド戦でも7点差に追い上げられた後半27分すぎに、姫野が「ジャッカル」を成功させたことで、相手に傾きかけた流れを引き戻した。開幕前のテストマッチにはけがで出場していなかった姫野の「ジャッカル」は、南アフリカ戦でも大きなカギを握ってくる。

 仮に「ジャッカル」が成功しなくても、例えばタックルされた相手が必死に抵抗してボールを抱えてしまえば、ノット・リリース・ザ・ボールの反則となる。敵陣に入っていれば、群を抜く高精度のキックを右足に搭載した、スタンドオフの田村優がペナルティーゴールを狙っていく。

 ラグビーでは「ジャッカル」を含めて、攻守が入れ替わるターンオーバーの直後に、最も得点が入りやすいと言われている。そして、今大会の日本は相手のタックルを浴びながらもパスを繋いで攻める、ニュージーランドなどが得意としてきた「オフロードパス」をも身につけている。

 スコットランド戦では福岡堅樹から松島幸太朗とウイング同士で繋いだ前半18分の初トライ、フッカーの堀江翔太からロックのジェームス・ムーア、フルバックのウィリアム・トゥポウと繋ぎ、最後はプロップの稲垣啓太が飛び込んだ同26分の勝ち越しトライで「オフロードパス」が駆使された。

 タックルを受ける刹那に体半分ほど相手のプレッシャーをずらし、体勢を崩しながらもこらえ、ほとんどの場合において片手でパスを繋ぐ。フィジカルや体幹の強さとハンドリングの巧みさ、そして近い距離でサポートしてくる味方とのあうんのコンビネーション。すべてがそろわなければ成功しない。

 リスクが極めて高いプレーゆえに、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(現イングランド代表ヘッドコーチ)に率いられた前回大会では「オフロードパス」は原則禁止だった。しかし、前任者の時代から8年間に渡って継続されてきたフィジカルトレーニングと、昨年から計240日間も行われてきた強化合宿が、日本に新たな武器を搭載させた。

「ブライトンの奇跡」から
さらに進化した日本の実力に注目

 決戦2日前の18日に発表された日本のメンバーには、肋骨を痛めて退場したプロップの具智元を含めた、スコットランド戦で先発した14人が名前を連ねた。唯一変更があったのはフルバック。トゥポウからバトンを託された山中亮平は、特別な思いを抱いて東京スタジアムのピッチに立つ。

 南アフリカ戦が行われる20日は、ミスターラグビーとして愛された平尾誠二さんの命日でもある。3年前に53歳の若さで、志半ばで旅立った平尾さんに所属する神戸製鋼コベルコスティーラーズで指導を受け、31歳にしてワールドカップの舞台に初めて立った山中は恩返しを誓っている。

 南アフリカとの対戦成績は1勝1敗。前回大会の予選プールB初戦で、ラストプレーで劇的なトライを決めた日本が34-32と逆転勝利をあげた「ブライトンの奇跡」を、南アフリカ側は今大会の開幕前に行われたテストマッチでの快勝で「消し去った」と不敵な笑みを浮かべている。

 しかし、テストマッチでは姫野だけでなく堀江も欠場し、福岡も前半開始早々に負傷退場している。スクラムハーフも流大が途中出場で、攻撃のテンポをよりスピーディーに変えるスーパーサブとして起用されている34歳のベテラン、田中史朗も山中とともに登録メンバーに入っていなかった。

 最新の世界ランキングでは、南アフリカの5位に対して日本は過去最高の7位。数字がすべてを物語るわけではないものの、予選プールAで白星を積み重ねるごとに自信を膨らませてきた日本は、ベスト8進出という悲願を成就させた今ではまったく別のチームへ変貌を遂げたと言っていい。

 必殺の「ダブルタックル」も、姫野を中心に「ジャッカル」からボールを奪う守備も、練度を高めてきた「オフロードパス」で敵陣へ迫る攻撃も、ピッチ上のフィフティーンが一体化した粘り強さを抜きには語れない。未知の領域となる決勝トーナメントで因縁の南アフリカと対峙する上でも、チームスローガンとして掲げる『ONE TEAM』を貫けるかどうかが最後に問われてくる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ