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佐々木朗希投手がドラフト後に見せた「凍りついた表情」の意味

2019年10月19日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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佐々木朗希投手
プロ野球ドラフト会議でロッテに1位指名され、記者会見する岩手・大船渡高の佐々木朗希投手(左) Photo:JIJI

 プロ野球ドラフト会議が行われ、注目の佐々木朗希投手(大船渡高)、奥川恭伸投手(星稜高)をそれぞれ4球団が1位指名。佐々木は千葉ロッテ、奥川はヤクルトが交渉権を得た。ほかには、石川昂弥内野手(東邦)が競合の末に地元の中日、森下暢仁投手(明治大)は単独指名で広島に決まった。

 夏の地方大会前には、最速163キロ、あの大谷翔平投手をも凌ぐ逸材といわれる佐々木に全球団の指名が集まるのではないかとの報道もあった。が、岩手県大会決勝の登板回避、さらにはU18W杯で指先のマメをつぶし早々に降板するなど、ひ弱さが指摘され、4球団の競合にとどまった。

 一方、夏の甲子園で力強い投球を見せ、準優勝の立役者となった奥川は、プロ球界の信頼と期待を得て評価を高めた。

“大成功”に見えた
阪神のドラフト指名に不安要素も

 全体の結果を眺めると、阪神の上位3選手の名前が目を引く。奥川こそ抽選で外したが、はずれ1位で昨夏の甲子園を沸かせた西純矢投手(創志学園)、夏の甲子園MVP的活躍で履正社を全国制覇に導いた4番打者井上広大選手を2位で、3位は150キロ左腕・及川雅貴(横浜高)の獲得に成功した。顔ぶれだけを見れば大成功だろう。

 だが、高校球界で強打を誇った井上選手の未来を案じる声もある。いわゆる金属バット打法で、バットの先っぽでも、あるいは手元で詰まっても持っていく。だが、木製バットで 快打を飛ばせるか?ボールがツボに来れば痛打するが、内角高めなど厳しい攻めに対応できるのか?U18日本代表のメンバーに選ばれなかったのも、木製バットを使う大会だから敬遠されたのではないかとの見方があった。

 及川にしても、左腕から150キロの速球を投げ、キレのいい変化球で三振が取れる魅力的な逸材であるのは間違いない。だが、春のセンバツ初戦。先発マウンドに上がった及川は投球練習でいきなり、投捕間の真ん中あたりに叩きつけるワンバウンドを連発した。シーズン開幕早々でまだコンディションが不十分だったにせよ、それはイップスと呼ばれる深刻なメンタルトラブルではないかと案じられた。もし及川がそうした課題をいまも抱えているのであれば、プロ野球界での前途は厳しい。それを改善できるコーチングスタッフがいるのかどうか。

 イップスといえば、阪神の先輩・藤浪投手が乱調に陥った原因ではないかと疑われている症状でもある。一度発症すると治りにくい課題だが、先輩も治せず苦しんでいるかもしれない、その球団に飛び込むのも皮肉な話だ。阪神もまた、それを認識しているのかいないのか。自分たちの球団の育成能力や得意不得意など考慮せず選手を指名しているのなら、その見識や姿勢はおよそプロ野球と呼ぶレベルでないように思う。これは阪神に限らない。

ドラフト会議はプロ野球を
衰退へと向かわせる要因

 今年もまた、ドラフトという制度がいかに不可思議で、時代の価値観とかけ離れているかを改めて痛感させられた。秋の風物詩、プロ野球の一大イベントなどと、気の抜けた戯言を言っている場合ではない。これは、ぬるま湯以外の何物でもなく、プロ野球が衰退に向かう大きな要因であり、象徴的なものだと思う。

 本来なら、球団は指導体制 、育成ビジョン、それを可能にする施設やスタッフの充実を図り、これを提示して選手の獲得に取り組むべきだ。選手も、自分の野球観や哲学、選手としての特性や課題、さらには人生設計などを考慮した上で、それを実現できる環境か、価値観を共有できるチームかを見定め、納得した上で球団を選びたいところだ。そういう両者の合意と価値観の共有があって、期待のふくらむ門出と言えるだろう。いまのプロ野球界には、そんな当たり前の知性も発想も合意もない。

 この夏、日本中が、佐々木投手の登板回避をめぐって喧々囂々の議論を展開した。賛否あったが、それはいわば選手育成の質的な姿勢を問う議論だった。ところが、当の佐々木が身を投じる先は、クジ引きで勝手に決められる。このように指摘すれば、人生がクジ引きで決まる理不尽だけでなく、ドラフト制度が野球界発展を妨げるさまざまな温床になっていることに気がついてもらえるだろうか。

 ドラフト制度があるために、プロ野球の各球団は人材獲得のための努力をしなくてもいい。たとえ合宿所が老朽化していても、ファームの練習施設がそれなりのレベルでも、交渉権を限定された選手は、その球団に入るか拒否するかの選択肢しかない。高校生が拒否して大学に入れば4年間、社会人野球を選べば3年間、プロ野球に入ることができない。

 一体、なぜそんな縛りを受けなければならないのか? 一般企業が新人のリクルートに多額の予算と工夫を凝らし、人材獲得のために企業広報を熱心にする時代に、プロ野球のチームは殿様商売を決め込んでいる。そんな乱暴で、企業本位の業界に未来がないことは、他の業種なら容易に想像できるだろう。言うまでもなく、プロ野球は、自分たちは特別と自認しながら、ガラパゴス化している。

あの佐々木投手の野球人生も
クジ引きで立ち往生させる愚かな制度

 高校3年間、同世代約5万人の中で誰よりも成果を残し、プロ野球界の評価を得た人間ほど「自由な選択」というご褒美が与えられるのでなく、複数球団の競合という究極の不自由を強いられる。

 登板回避であれだけ議論の的になった佐々木がプロ入りする際に、「どの球団の、どんな育成環境、どんな指導者を選ぶのか?」が次の大きな関心事なるのが自然な流れではないか。

 ところが、あれだけ、甲子園を犠牲にしてまで、監督も佐々木の未来のために信念を通し、日本中が議論し、そしてクジ引きで千葉ロッテに決まる。

 球団が決まった瞬間、凍りついた佐々木の表情が波紋を呼んでいる。それはまさに、これまで懸命に追い求め、積み重ねてきた佐々木の野球人生が思考停止し、立ち往生せざるをえなかった、愚かなプロ野球の現実を表しているように思う。

 選手育成をすっかりアマチュア球界に任せきり、自分たちはその上澄みをクジ引きで分け合うだけの非道なプロ野球界が猛省し、目を覚ますよう願ってやまない。

(作家・スポーツライター 小林信也)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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