このページの本文へ

台風19号・経済危機の真相、東京は災害リスク世界1位

2019年10月17日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
北陸新幹線浸水
Photo:Kyodonews

9月の台風15号に続き、台風19号が東日本を襲った。異常気象による大災害はもはや「数十年に一度」のものではない。東京は世界1位の災害リスク都市なのである。(ダイヤモンド編集部)

 台風19号が深い爪痕を残した10月13日の日曜日、福島県の地場建設会社である小野工業所の小野晃良社長は、都心から福島への道程を急いだ。

 千葉のグループ会社は9月の台風15号で屋根が吹っ飛び、ブルーシートをかぶせて営業を再開していた。ここが再び被災するのを懸念し、持ち株会社の本社がある東京で19号に備えた。

千曲川が氾濫し濁流が住宅地に流れ込んだ長野市内
千曲川が氾濫し濁流が住宅地に流れ込んだ長野市内 Photo:読売新聞/アフロ

 結局、大きな打撃を受けたのは千葉のグループ会社よりも福島の方だった。小野工業所本社の被害こそ大きくはなかったが、複数の河川が決壊し地域の復旧が急務になった。地元に戻るや否や自治体から要請が相次ぎ、あふれた水をポンプで川へ戻す作業に追われた。

 県内の郡山市では、郡山中央工業団地にあるパナソニックの電子材料の工場、日立製作所の情報機器関連の工場などが被災した。床上まで浸水し、連休が明けても同工業団地内のほとんどの工場が稼働できていない。

 台風19号は産業も直撃し、調査もままならず被害の全容がつかめないところもある。その最たるものが北陸新幹線だ。

新幹線とタワマンの共通点

 北陸新幹線は30編成(うち19編成がJR東日本、11編成がJR西日本)のうち、長野新幹線車両センターの浸水で10編成が水没。現場検証できる状況ではなかったため、被害の詳細はまだ分からない。

 車両の床下には電気系統システムが積まれており、一部を取り換えるだけなら1週間程度で復旧できる可能性はある。しかし、床上の座席なども水浸しならば、秋の行楽シーズンに突入する11月の3連休に間に合わせるのは絶望的だ。

 車両を製造しているのは川崎重工業、日立製作所、近畿車輛、総合車両製作所の4社。新車の発注があった場合、急いで対応するには製造ラインの確保とともに、車両メーカーとJR側の双方が部品を調達できるかどうかが焦点となる。2020年の東京五輪・パラリンピックを控えて在来線の発注も多く、車両メーカーの製造ラインはタイトだ。JR内で修理できないレベルとなれば、運行が完全に戻るタイミングはシビアにみる必要がある。

 非常事態を受け全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)らが臨時便を出しているが、すでに予約で埋まっている。北陸新幹線は開通以降、空の客を奪ってきたが、当面はエアライン側に特需が続く風向きだ。

 かかる時間と金の問題はあるがとにかく復旧、こんな大災害は「数十年に一度」というのが従来の認識だった。

冠水被害の影響で上層階の一部の部屋以外全て電気が消えている武蔵小杉駅前のタワーマンション
冠水被害の影響で上層階の一部の部屋以外全 て電気が消えている武蔵小杉駅前のタワーマンション Photo:日刊現代/アフロ

 東京と神奈川を流れる多摩川が氾濫し、浸水した東京都世田谷区の二子玉川について、「今回被災しなかったエリアと被災したエリアの価格の格差率は、被災直後は瞬間的に大きくなることが想定される」と言う不動産鑑定士の武藤悠史氏は、「でも」と続ける。「東日本大震災でタワーマンションのエレベーターが止まったことはほとんど忘れられている。復興に伴い人々の記憶が薄れるにつれ、下がった地価も次第に戻るのが一般論」。過去に倣うならば「浸水しなかったエリアはさらに人気が高まり、浸水したエリアは数年は地価を下げ、次第に下落率は小さくなっていく」と考える。

 浸水した物件はある程度の災害リスクを織り込んだ値付けで、購入時にハザードマップを注意深く見ればリスクを予想できるが、多摩川の川崎市側である武蔵小杉で浸水に遭ったタワーマンションの居住者は「そこまでの想定は全くしていなかった」と嘆く。大きな災害に巻き込まれると思わなかったのは、程度の差はあれ総じて一般的で、それは個人に限らない。

 北陸新幹線について「千曲川の近くに車両センターがあること自体がおかしい」との非難の声も出ているが、「まさか千曲川があふれるとは、1996年に車両センターができたときから、思う人はいなかった」(JR関係者)。

福島県郡山市の郡山中央工業団地で冠水した道を歩く人たち
福島県郡山市の郡山中央工業団地で冠水した道を歩く人たち Photo:Kyodonews

 前出の郡山中央工業団地のほか、福島県内では伊達市のやながわ工業団地の被害が大きい。どちらも自治体で初めて造成された第1世代の工業団地で、過去に水害に遭っていた。郡山中央工業団地はようやく水害対策として地下に貯水槽を造る計画を進めていたところだった。「東日本大震災以降に造成された工業団地は高台に立地するなど水害対策に特に配慮しているが、古い工業団地ではそこまでいっていないところもある」と福島県企業立地課の担当者。ただ全国的に見れば、新たな用地候補は河川に近いところが多い。

 経済産業省が編集した全国の産業用地候補1222件のデータを基にダイヤモンド編集部が河川に近い用地候補を集計したところ、少なくとも約半数が該当した。製造業の工場では水が欠かせないことも多いため、河川を避けるのは簡単ではなく、リスクを想定して用地とするしかない現実もある。

保険金額1000億円超

 さらに現実を見れば、大きな災害は毎年のように続いている。

 日本損害保険協会の集計によれば、台風21号や中国・四国地方の集中豪雨など昨年度の自然災害が三つ、歴代の支払保険金額で10位以内に入った。今年も台風15号と19号により大手各社の支払保険金額は1000億円を上回る勢いだ。

 大手損保は国内の自然災害による保険金の(正味)支払額をグループ連結で500億円程度と期初に見込んで業績予想を算出しているが、想定を超える規模の支払いが続くことになる。災害による支払保険金の見込み額を巡り、適正な水準と再保険でカバーする範囲を急ぎ議論する必要に迫られる。

 関東地方の地方銀行幹部からは「企業が抱える浸水リスクを今まではきちんと見てこなかったが、今後は融資の際に頭に入れる必要がある」との声も上がっている。

 ただ、これらはかねて想定できたことだ。英保険組織のロイズが英ケンブリッジ大学と共同で世界279都市を対象に紛争や災害の脅威リスクを試算しており、日本は経済損失額世界1位となっている(下図)。なお損失額に占める自然災害の割合は大きい。

 台風15号、続く19号でも相次いだ停電は、リスクが分かっていても有効な策を講じなかったが故。「災害、特に台風に対しては基本的に受け身でしかない」と大手電力幹部は真情を吐露する。「送電線、配電所、電柱などについて、台風に備えた強化策は基本的にない。災害による被害を受けたら直すというのが基本スタンス」(前出の大手電力幹部)であり、電線を地中に埋めて電柱をなくす策などはコスト面から普及が難しかった。

 国は国土強靱化のための重要インフラの緊急対策として、19年度からの3ヵ年で総事業費約7兆円の予算を付けた。台風19号を受けて、現政権は足元でも災害対策の補正予算を検討している。

 地元や業界へ利益を誘導してきた政治の歴史があるだけに金の使い方が肝心で、予算が付くハードを熟慮することが必要だ。と同時に、金が回らなければ災害復旧の現場に立つ地方建設業者が消滅する危機がある。

 冒頭の小野社長は復旧現場で「災害を熟知した人材が減ってきた」と痛感、「全国各地でこういう現場の頭数が減っていくのか」と想像し寒けがしたという。東京五輪も控え人員のやりくりがタイトな建設業界はベテランの引退が加速し、若者には人気がない。災害は他産業も含め人手不足を浮彫りにする。

営業再開しても棚は空っぽ

被災しなかった首都圏のコンビニは営業を再開したが、棚が空っぽというケースも見られた
被災しなかった首都圏のコンビニは営業を再開したが、棚が空っぽというケースも見られた

 コンビニエンスストアでは、台風が上陸した12日から13日にかけて、主に東日本の加盟店オーナーの判断により自主的に休業した。その数は、最大手のセブン-イレブン・ジャパン(SEJ)が4000店舗、ファミリーマートが2500店舗、ローソンが2200店舗に及んだ。

 SEJでは18年、福井県の加盟店で、豪雪で従業員が出勤できないのに本部が閉店を認めないためオーナー夫婦が50時間超勤務し、妻が過労で救急搬送されたと訴える問題が発生した。その後、加盟店の負担を巡り批判を浴び、各社本部は今回、加盟店オーナーの自主的な判断に委ねた。

 東京都八王子市でセブン-イレブン八王子万町店を営むオーナーの増田敏郎氏は、12日朝7時から13日朝6時まで店を閉めた。「約40年コンビニを経営していて、初めて災害で休業した」。13日に営業を再開したが、麺類や弁当、おにぎりなど「デイリー商品」と呼ばれる商品は十分に入荷されず、首都圏では13日に営業を再開するも棚が空っぽのケースが見られた。「ベンダー」と呼ばれる大手3社の製造委託先工場で目立った被害はなく、SEJの委託先2工場で一時的な停電が発生した程度。商品の供給が止まったのは、12~13日は交通機関の運休や道路の封鎖などで従業員が出勤できずに製造できなかったため。14日以降はこうした商品も店頭に並んだ。

 コンビニ大手は製造委託先企業に出資するなどして関与を強め、製造工程を機械化したり効率を高めたりしてはいるが、人力に頼らざるを得ない面も多い。それは物流面でも同じだ。

 東日本大震災で被災地に食品や生活用品を送り込んで被災者を支えてから8年、人手不足はさらに深刻化している。加盟店だけではなく、商品の製造から配送までマンパワーが持続する保証はない。

 各産業が平常営業に戻ってもなお、被災や復旧対応も絡んだモノ、物流、人の問題が顕在化し得るし、次なる災害がやって来るかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ