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94億光年彼方の矮小銀河、銀河団の重力レンズを利用して発見

2019年10月16日 07時41分更新

文● Neel V. Patel

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Courtesy the researchers / MIT

他の銀河団をX線の拡大鏡にすることで、94億光年離れた幼い矮小銀河を発見したという新たな論文が、ネイチャー・アストロノミー(Nature Astronomy)誌に掲載された。

この矮小銀河自体は天の川銀河の1万分の1の大きさしかないが、そこに満ちている活動量は膨大だ。現在、新たな星が激しく形成されている段階にあり、その影響で高エネルギーのX線が領域内をかけ巡っている。X線観測によってこのような銀河の形成段階が観測されたのは、今回が初めてである。

観測の仕組みはこうだ。銀河団は、周囲の物質やエネルギーに対し、重力効果を引き起こす。コップの水が光線を曲げ、拡大するのと似たような効果だ。この効果は重力レンズ効果と呼ばれ、科学者たちはこの現象を利用して、宇宙の他の場所からやってきたさまざまな電磁波信号の起源を調査し、特定できる。

重力レンズ効果がX線放射の調査に利用されたのは今回が初めてだが、重力レンズの原理は光に対する効果とちょうど同じように適用できる。研究チームは、米国航空宇宙局(NASA)のチャンドラ(Chandra)X線観測衛星を利用して、57億光年離れたフェニックス銀河団を調査した。同銀河団は太陽の1000兆倍の質量を持ち、X線放射が通過する際に、その放射を拡大するには申し分のない天然のレンズの役割を果たす。

研究チームがフェニックス銀河団自体から出るX線を差し引いたあと発見したのは、「レンズ効果で」60倍にも拡大されたX線放射だった。そのX線は、94億光年彼方の矮小銀河からやって来たもので、宇宙が現在の年齢の3分の1であったときに生まれたものだった。

宇宙が誕生して最初の50億年に、いったい何が起こったのかは依然としてほとんどわかっていない。今回の研究論文の著者らは、今回の新たな発見により、天然のX線拡大鏡を利用すれば、ビッグバン直後に誕生した物質を明らかにできる可能性があると述べている。今後、チャンドラX線観測衛星のような機器を利用することで、古代宇宙の別の側面を徹底的に調査し、宇宙論の問題をこれまで以上に詳細に解けるかもしれない。

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