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武田薬品が「居眠り病」新薬開発中、リストラ受けた研究所の汚名返上なるか

2019年10月16日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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武田薬品工業湘南ヘルスイノベーションパーク
Photo by Masataka Tsuchimoto

落下傘の外国人幹部から「生産性が低い」と罵られ、大リストラが断行された武田薬品工業の国内研究所。研究員は意気消沈中かと思いきや、“超久々”に自社創製で大型化するかもしれない新薬の芽が出てきて、密かに活気付いている。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

初期の臨床試験で良好なデータ

 製薬最大手、武田薬品工業の注目の新薬候補はナルコレプシー治療薬「TAK‐925」。ナルコレプシーは居眠り病とも言われ、日中に居眠りを繰り返したり、喜怒哀楽の感情が激しい時に顔や首、手足の力が急に抜けたりする慢性の神経疾患だ。病気を理解されず、退職や転職を余儀なくされる人も少なくない。患者は世界で約300万人と推計されている。

 医療用医薬品が市場に出てくるまでには3段階の臨床試験(臨床第1~3相試験)を経ることが必要だが、この薬は臨床第1相試験中。その有効性データが9月下旬にカナダ・バンクーバーであった世界睡眠学会で発表され、良好な数字が示されたのだ。

 具体的には、ナルコレプシー患者にTAK‐925またはプラセボ(偽薬)を投与し覚醒維持検査をしたところ、プラセボ投与の13人では平均2.9分で入眠したのに対し、TAK‐925投与の14人では投与分量によっては検査時間いっぱい(40分)まで起きていた。寝不足状態の健康な成人でも同様の覚醒効果が確認できた。

 既存の競合薬には効能効果に対する患者の不満があったり、依存症や奇異反応などの副作用があったりする。そのため、それらの弱点を補うTAK‐925が製品化されれば市場を席巻する可能性がある。

 さらに武田薬品は突発性過眠症への適応拡大や、閉塞性睡眠時無呼吸による日中の過度の眠気に対する治療薬となる可能性についても検討している。これらでも武田薬品が開発に乗り出せば、対象患者は大幅に広がり、製品化の際は当然売上高も増大を見込める。

久々のホームランなるか

 TAK‐925が業界で注目され始めているのは製品特性だけではなく、武田薬品の自社創薬として“超久々”に、ブロックバスター(年売上高1000億円以上)に製品群が育つかもしれないからだ。自社で一から創薬し大型化できれば新薬メーカーのプライドを満たすし、一般的に利幅も大きい。

 TAK‐925は武田薬品として初めて厚生労働省から先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、米国食品医薬品局(FDA)からブレークスルーセラピー並びにオーファン・ドラッグ指定も受けている。要するに、日米両国から画期的な新薬として期待されているのだ。

 振り返れば、王者・武田薬品の座を不動のものとしたのが、いずれも1990年代に上市した抗潰瘍薬「タケプロン」、高血圧薬「ブロプレス」、糖尿病薬「アクトス」、前立腺がん薬「リュープリン」。いずれも自社創薬でブロックバスターに育ち、俗に「タケダの4打席連続ホームラン」と称えられた。

 ブロックバスターがけん引し、2000年代の武田薬品は好業績が続いた。だが研究所のある幹部は冷静だった。「皆さんはタイタニック号でオーケストラを弾いている人たちと同じだ。今のタケダのパイプラインを見ると貧弱で、好業績を維持できる状況ではない」と、若手研究員に発破をかけていたという。

 幹部の予言は的中し、その後自社創薬でブロックバスターまで成長した製品はない。例えば世界で2692億円(19年3月期)売り上げ、現在武田薬品の稼ぎ頭である潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」は、元をたどれば08年に買収した米ミレニアムの開発品だ。

 ブロックバスターの特許が10年前後に相次いで切れ、武田薬品の業績は低迷した。15年3月期には遂に、アステラス製薬に純利益で業界1位の座を奪われた。

 立て直しを急いだ長谷川閑史社長(当時)は大型買収を進め、メガファーマ(巨大製薬会社)の一つ、英グラクソ・スミスクライン幹部だったクリストフ・ウェバー氏をトップに招く荒療治に出た。ウェバー氏は15年から社長兼CEO(最高経営責任者)を務め、今年1月にアイルランドのバイオ医薬大手シャイアーの巨額買収を完了し、日本勢で初めてメガファーマの仲間入りをしたのは記憶に新しい。

「リストラ研究所」のイメージも好転?

 ウェバー氏の就任と前後して国内唯一の研究機関だった湘南研究所(現湘南ヘルスイノベーションパーク)で2度のリストラがあり、研究員約400人が退職したことがダイヤモンド編集部の独自取材で判明している。

 2度目のリストラが労働組合と協議された15~16年にメガファーマの仏サノフィ出身、アンドリューS・プランプR&D(研究開発)ヘッドが危機感をあらわにした言葉が、研究員の語り草となっている。「わが社のR&Dの生産性は平均以下だ。競争激化の下、このままでは事業継続できない」。

 研究員のプライドをずたずたにしたリストラの混乱の中でも研究は進み、TAK‐925は生まれた。国内研究員の意地と言っていいだろう。

 武田薬品は9月、「早ければ23年」とTAK‐925の上市時期を初めて表明し、鼻息は荒い。仮にブロックバスターに育てば実に約20年ぶりの自社創薬での“ホームラン”となる。業界内での注目度はじわじわと上がっている。

 ただし機関投資家や業界アナリストは製品大型化に対し、半信半疑のようだ。クレディ・スイス証券の酒井文義アナリストは「適応症拡大でどれだけ市場が広がるか次第だが、中枢神経は開発が難しい領域。どこまで結果を出せるか」と注視している。

 ウェバー改革で武田薬品のメインの研究機関は米国に移り、「国内研究所は既に魂を抜かれている」との厳しい声が一部にある。期待の新薬が順調に育てば、そんな国内研究所の汚名返上となる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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