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日本MSからは金融機関向けのAzureリファレンスアーキテクチャ群を提供開始、内容を説明

第一生命、Azure PaaS活用のハイブリッドな新システム基盤を構築

2019年10月11日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 日本マイクロソフト(日本MS)は2019年10月10日、第一生命保険がMicrosoft Azureクラウドを活用して次世代システム基盤「ホームクラウド」を構築し、9月末から運用開始したことを発表した。同基盤を通じてAzure PaaSを活用することで、システム開発やメンテナンスにかかる工数を削減し、運用効率化とビジネス要件に対応する俊敏性向上を図っていく。

 同日、日本MSが開催した金融市場向けクラウドビジネス戦略記者説明会には第一生命もゲスト登壇し、同社のクラウド活用戦略や新しいシステム基盤(ハイブリッドクラウド基盤)構築の狙いを説明した。また日本MSからは、金融機関のクラウドシステム構築を支援するために今回提供を開始した3つのリファレンスアーキテクチャについて、それぞれの位置付けと内容が紹介された。

第一生命が9月に運用開始した「ホームクラウド」の概要(右端)と、これまでの社内システムの変遷

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 金融サービス営業統括本部 業務執行役員 統括本部長の綱田和功氏

ゲスト登壇した第一生命保険 ITビジネスプロセス企画部長の若山吉史氏

「適材適所のモダナイゼーションとバイモーダルITを実現していく」第一生命

 第一生命からは、ITビジネスプロセス企画部長の若山吉史氏がゲスト登壇し、同社が現在推進する“バイモーダルIT”の戦略や、その実現のために必要なシステム基盤のあり方、今回運用を開始したホームクラウドの狙いや今後のロードマップなどが紹介された。

 若山氏はまず、保険業界をめぐるビジネス環境の変化について説明した。かつての生命保険ビジネスは社会保障制度を補完する「プロテクション(保険)」の役割を担い、契約者が病気にかかったり死亡したりした際に保険金/給付金を迅速、確実に支払うことが主なサービス価値だった。しかし、社会的に健康寿命の延伸や医療費の抑制が強く求められている近年では、新たに「プリベンション(予防/早期発見)」という役割も期待されている。第一生命では、日常生活への介入で病気を予防し、契約者の健康維持/増進とQOL向上を支援することが、保険会社として提供できる新たな付加価値だと考えているという。

第一生命では、保険事業を通じて「プロテクション」だけでなく「プリベンション」の付加価値も提供しようと考えている

 こうした環境変化を受け、2017年から提供しているのが健康増進アプリの「健康第一」である。このアプリは、健康診断結果に基づく健康アドバイスや服薬記録(お薬手帳)から、生活リズム支援、歩数計、健康レシピ紹介や食事のカロリーチェックまで、社外パートナーとも連携して幅広い機能/コンテンツを提供している。こうしたオープンイノベーションを可能にし、なおかつユーザーの機微情報も堅牢に扱えるクラウド基盤として選んだのがAzureだった。

第一生命では先行するDXの取り組みとして、2017年からスマートフォンアプリ「健康第一」を展開している

 こうしたデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みをさらに強化するため、第一生命では中長期的な視点に立った「バイモーダルIT戦略」を進めている。

 生命保険業務の中核をなすのは、契約者情報を保持する契約管理システムである。ただし、生命保険という商品の特性上、このシステムは50年、60年という超長期にわたって契約者情報を確実に保持する必要がある。これはいわゆる「モード1(SoR:Systems of Record)」のシステムであり、ホスト(メインフレーム)により構成されている。だが、一方で保険商品やサービスは増え続けるため、システムはその都度“継ぎ足し”されてきた。そのため巨大で複雑なシステムにならざるを得ない宿命を抱えており、複雑化したシステムは新規サービス追加における障壁になっていたと、若山氏は振り返る。

 しかし、前述したようなビジネス環境の変化に伴って、近年では契約者との密接なエンゲージメントを図る「モード2(SoE:Systems of Engagement)」システムの重要度が高まっている。モード2システムのアジリティを高めていくためには、モード1も含めたシステム全体の最適化を図る必要がある。そこで第一生命では数年前から、ホストのスリム化とコンポーネント化(SOA化)、ESBの採用を通じた「適材適所のモダナイゼーション」を実施してきた。リノベーションされたシステムは、2018年3月から稼働している。

バイモーダルIT実現に向けて複雑化していたホストシステムを整理し、ESBを構築した。そしてこれから外部サービス活用を促進するために、今回のホームクラウドを構築した

 このバイモーダルIT環境をさらに進化させ、既存システム(モード1)の運用効率化と、外部クラウドサービスとの連携も含めた新規システム(モード2)のアジリティ向上を目標とするのが、9月に運用開始したホームクラウド基盤である。「クラウドを積極活用することでモード2の取り組みを加速させると同時に、それを支えるモード1部分にも変化を与え、相乗効果を生み出したい」と、若山氏はその狙いを説明する。

 ホームクラウドの構築によって、クラウド/オンプレミス/ホストのハイブリッド環境をシームレスな運用とセキュアなデータ連携を可能にする。またAPI連携を通じた社内/外部システムとのスムーズな連携、「Azure DevOps」連携による新たな開発手法の検討といった効果も狙っているという。加えて、Azureとの間にホームクラウドのレイヤーを挟むことで、Azure以外のクラウドサービスも組み合わせて活用できるマルチクラウド環境への備えも行っている。若山氏は、Azure以外のクラウドサービスも「適材適所で」活用していくことを前提とした基盤だと述べた。

ホームクラウド構築で解決を目指す課題と、構築プロジェクトの概要。情シス子会社の第一生命情報システム(DLS)主導で開発した

 ちなみに第一生命では、IaaSではなくAzure PaaSを活用していく方針をとっている。若山氏は、IaaSを使ったオンプレミスからの“リフト”事例でもやはり移行時には問題が発生しており、運用管理業務をなるべく省力化していくためにPaaSを選択したと語った。従来からWindows Serverなどマイクロソフトのテクノロジーをベースにプライベートクラウドを構築、運用してきており、移行コストやスキルの面では大きな問題にはならないという。

 9月末にはまず、第1号のアプリケーションをオンプレミスからホームクラウド上へと移行し、運用を開始している。今後、まずはこれまで外部クラウド環境で稼働してきた健康第一アプリなどのシステムをホームクラウドへと統合していく。

 続いて、第一生命のオンプレミスシステムを移行するのに、グループ会社(第一フロンティア生命保険、ネオファースト生命保険)のシステムも同基盤へと統合し、同時にAPI機能を通じてエンドユーザー(契約者)デバイスの対応幅も拡大していく。そして最終的には、Azureの東日本/西日本リージョンを活用したBCP対策も進めていきたいと述べた。

 「来年度から次の中期経営計画期間となるが、その3年間で相当の部分(システム)がホームクラウドで稼働している状態に持っていきたいと考えている」「たとえば現在、われわれもデータ分析を本格的にやろうと考えており、そうした(新たな)データ分析専用の基盤もここに載せて展開していきたい」(若山氏)

ホームクラウドへの移行、現状と今後の取り組み。自社内オープンシステムやグループ企業のシステムをこの基盤上に統合し、最終的にはBCPの取り組みも行うとした

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