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中国でも広まる「顔認証でキャッシュレス」は本当に便利で安全か?

2019年10月03日 06時00分更新

文● 沼澤典史(ダイヤモンド・オンライン

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ようやくQR決済の波が日本に到来しているが、キャッシュレス先進国の中国ではすでに顔認証決済が導入済みだ。スマホのバッテリー残量を気にしなくてよいなどのメリットも聞かれるが、心配なのはプライバシーの問題。最近も米国では顔認証技術の使用を禁止する条例ができたばかりだ。日本も各銀行や企業が顔認証決済システムを開発中だが、その課題や展望などを中央大学国際情報学部教授の石井夏生利氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)

キャッシュレス先進国・中国では
顔認証決済は当たり前

顔認証のイメージ
キャッシュレス化が進む中国では、顔認証決済も始まっている。しかし、日本では慎重論もある Photo:PIXTA

 現在、世界では現金を介しない、キャッシュレス化が進んでいる。日本でも昨年12月に行われた「PayPay」の「100億円あげちゃうキャンペーン」を皮切りに、QR決済戦国時代ともいうべきサービスの乱立が起きている。

 世界に目を向けると、キャッシュレス化の先頭をひた走っているのは中国だ。中国では「ALIPAY(アリペイ)」(アリババ)と「WeChat Pay」(テンセント)がキャッシュレス決済の二大プラットフォームとなっており、都市部ではほぼすべての店舗やレンタルサイクル、レンタル傘などまでQR決済で行われる。

 そんな中国で次世代決済として始まっているのが顔認証決済だ。顔認証技術は、監視カメラやATMなどで実用化はされていたが、決済での実用化は世界で初めて。2017年秋に中国杭州のケンタッキーフライドチキンで実用化されている。

「Smile to Pay」と称された、このサービスは「ALIPAY」のアリババグループが運営しているもの。事前にモバイル決済のできる「ALIPAY」アカウントに顔情報を登録すれば利用が可能になる。

 中国では「ALIPAY」「WeChat Pay」が競って中国全土に顔認証決済システムの売り込み攻勢をかけている。そのため、現地では自動販売機や食料雑貨店でも顔認証決済が行えるという。

 日本でもNECが顔認証決済の実証実験を行い、ファミリーマートとパナソニックが顔認証で入店、決済が可能な実験店舗を今年4月にオープンさせた。日本においても、顔認証決済の夜明けは近いといえよう。

プライバシー侵害の
リスクがある顔認証

 各社が実用化に躍起になっている顔認証決済だが、やはりリスクの問題は付きまとう。

「顔認証のプライバシーリスクは、撮影画像から抽出された特徴点をもとに追跡されることにあります。あとはセキュリティーの問題。顔が晒されているため、複製される可能性もゼロではなく、この点は決済システムで悪用されるかもしれません。その意味では、顔認証のリスクも顔認証決済のリスクも共通しています」

 顔認証によるプライバシーの侵害については、過去にも問題視されている。2014年、独立行政法人「情報通信研究機構」とJR西日本が、JR大阪駅の利用客を、カメラを使って追跡し動線を把握する実験を予定していたのだが、延期した。実験内容を発表した後に、「映りたくない」という声が寄せられたほか、市民団体が「憲法で保障されたプライバシーの権利への重大な侵害」と中止を要請したためだ。

「また、決済システムに応用された場合は、決済データの分析による趣味嗜好の把握などの問題が考えられます。ただし、これはQR決済やクレジットカード決済でもいえることなので、新しい論点というわけではありません」

 既存のキャッシュレス決済に対する問題と、顔認証に付随する問題が合わさる顔認証決済。しかし、石井氏は顔認証決済の同意書には、第三者への情報提供などが盛り込まれるケースも多いだろうと指摘する。

「日本で顔認証決済が実用化されると、利用者自身がサービスを理解した上で顔画像を事前に登録しますので、決済に使う範囲であればその利用は許容されます。データ転送の記述も説明書には書いてあるでしょう。最近はiPhoneXやAndroidでも顔認証が広まっていることなどから、自分の顔を登録することへの抵抗感は薄まっている印象です。ですから、ユーザーにとって、個人情報に対する問題への感度は下がっているかもしれません」

顔認証には突出した
利便性が特にない

 空港のゲートやイベント会場でも顔認証は行われているが、それを気にしている人は大多数ではないのかもしれない。では、顔認証決済は日本でも普及するのだろうか。

「個人的には普及するかは疑問です。日本はまだ現金の信頼性が高いですし、交通系ICカードも広く使われています。QR決済はキャッシュレスを推し進めるでしょうが、未対応店舗が多く、普及率も芳しくないようです。実際に不正利用事案も発生しています。加えて顔認証となると、さらにハードルが一段上がるのではないでしょうか。セキュリティー技術は上がっていますが、もし顔の特徴点などを複製されて悪用されれば、自分の顔を簡単には変えるわけにもいきません」

 もちろん顔認証決済にもメリットはある。パスワードの設定が不要なほか、スマホがなくても身一つで決済が行える利便性だ。

「すべてのものにリスクはありますが、便利であるならば普及します。しかし、顔認証決済が急速に普及するきっかけは見当たらないように思います。個人情報の観点からは、変更の利かない身体の情報を使って決済するのであれば、他の認証方法との組み合わせも考えるべきでしょう」

 現金主義が強いといわれる日本。顔認証決済はQR決済に続き、キャッシュレス化を推し進めるものとなるのか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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