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『ヒルナンデス!』が『笑っていいとも!』を終了させ昼の王者になれた理由

2019年10月02日 06時00分更新

文● 村上和彦(ダイヤモンド・オンライン

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ヒルナンデス!HP
「ヒルナンデス!」番組ホームページより

いまやお昼の定番番組となった『ヒルナンデス!』(日本テレビ)は、かつてモンスター級の人気を誇った『笑っていいとも!』(フジテレビ)をなぜ終了に追い込めたのか。その勝因は、9割は捨て、あるポイントを重点的に攻める「一点突破」の戦い方だった。そこで今回は、元日本テレビ敏腕プロデューサーで『ヒルナンデス!』を立ち上げた村上和彦氏の最新刊『勝つために9割捨てる仕事術』(青春出版社)から、仕事に“面白さ”を見出し、結果を出すための方法を紹介していく。

無敵を誇った『いいとも』の唯一の弱点とは

『いいとも』が昼番組の王者として君臨できた理由、それは「20~40代女性」に不動の人気を誇っていたことにある。この「20~40代女性」のことを、テレビ業界、広告業界では、F1・F2と呼ぶ。彼女たちは無駄遣いをしない高齢者とは違い、CMで紹介された新商品に興味を持ち、時には衝動買いもする。同時間帯のライバル番組たちの視聴者層は高齢者が多いため、CM市場では『いいとも』のひとり勝ちが続いていた。その状況を変えて、新番組はこのF1・F2の取り合いで『いいとも』と真っ向勝負をする。そして、CM売上で『いいとも』に勝利する。これが私の考える戦い方だった。

 まず、こういった「ライバルに勝つ」系のミッションの場合、相手を分析することは重要だ。なぜそんなに強いのか、その理由を探り出せばいいだけだ。その強い理由を排除してしまうことができれば勝てる。これが攻略の王道だ。『いいとも』攻略法は、F1・F2の奪取で一点突破を試みることだった。それを知った業界の人たちは、「またまた日テレさん、無謀な戦いを挑んで…」と思ったに違いない。『いいとも』の泣き所である高齢者層を取り込もうというのなら現実的だが、『いいとも』の独壇場であるF1・F2で真っ向勝負をしようというのだから。

 ただ、こちらにはこちらなりの勝算があった。別に『いいとも』はF1・F2を狙いにいって取っていたわけではない。誰もが知っている人気者たちを多数出演させ、あくまでも幅広い視聴者層を、できることなら根こそぎ持っていこうとした結果、F1・F2でも勝利しているのだ。それまで無敵だったF1・F2という戦場に切り込んでくることに、『いいとも』側がどれだけ警戒感を持っていたかはわからないが、自信を持っているところこそ守りが手薄になるというのはありがちなことである。

 そこへ『ヒルナンデス!』が他の層に目もくれず、F1・F2だけを狙った番組で殴り込みをかける。最初は大した成果も出なかったから、なお警戒しなかっただろう。しかし、ひとたびF1・F2に蟻の一穴が生じれば、状況はまったく変わる。CMの売上シェアに変動が出れば、その動きは激震へと変わる。

 人気者が多数出演しているという『いいとも』のストロングポイントが、CMの売上減少により、大物出演者のギャラが負担になるというウイークポイントになる可能性があるからだ。このように、『いいとも』の強みを徹底解剖することで、一点突破の戦略が生まれたのである。

自分たちの“弱み”を明確にする方法

 敵を知ったのであれば、次は己を知る番だ。敵と同じように自分もまた強みと弱みが同居している。自分については弱みを徹底的にピックアップして、その改善に努めるのがミッションクリアへの近道だ。

 自分の弱点をピックアップする作業には、「一点突破4ステップ」が役に立つ。

(1)「ミッション咀嚼」…使命をよく理解し、ブレない達成目標を作る
(2)「障壁をイメージする」…何が達成の妨げになるかを重ねて問いかける
(3)「視点を変える」…顧客やライバルなど違う立場から考えてみる
(4)「戦略を絞り込む」…一点に集中し、達成まで攻め続ける

 自分(あるいは自分たちのチーム)に失敗の原因があるというシミュレーションによって、先回りして自分のウイークポイントに対処する。リスクを見つけ出す作業でもある。このとき、自分のことだからと手ぬるい気持ちでかからず、視点を変えて、競争相手や、妨害者になったつもりで意地悪に徹するのが大事だ。

 また、期日までに作業を完了させるというミッションでも自己分析は必要だ。「作業分担上のボトルネックになる工程はどこか」、「上司のチェックや決裁で遅れが出ないか」、「うまくいかない場合のプランBが必要ではないか」などと問いかけ、スケジュール上の無理をとことんあぶり出し、ありとあらゆる「失敗する理由」を排除していく。

 このように、自己の内部にある失敗のリスクをあらかじめ検知することによって、そのリスクを低減できる可能性を高めるのである。

一点突破の“一点”をより尖らせるためには

 戦略の効果を高めるために、一点を正確に捉える「精度」にこだわること。それがミッション達成を確実にする。しかし、戦略を定めて一点突破を目指したはいいが、その一点が正しくミッションクリアに向かっていないと、結果的に遠回りになってしまう。そのためにも、実績データを常に監視して、戦略が効果をあげているかを確認し、必要であれば「一点」のポイントを修正する必要がある。

 この精度を高める取り組みは、多くの場合、トライ&エラーを繰り返す地道な作業だ。『ヒルナンデス!』の例で言えば、実際にF1・F2が反応をしているかどうか常に監視し、修正していく作業を行った。視聴習慣がない新番組がライバルから視聴率を奪うには、ザッピングの流れを止められるかどうかにかかっている。たとえ、他局の番組を見る習慣がある視聴者でも、CMの間や、何か見たくないと感じた瞬間があればザッピングをスタートさせることがある。チャンネルを順に替えていきながら、この番組はなんだろう、面白そうかつまらなそうかを瞬間的に判断するのだ。

 その判断基準で重要なのは、映っている映像(出演者、何をやっているか、場所、モノ、色あい、セットの雰囲気など)と、サイドスーパーだ。サイドスーパーとは、画面の中心以外に表示されたままになっている11~15文字ほどの文字情報のこと。今何をやっているところかを説明する、いわば「ザッピング用ガイド」だ。現在の情報番組やバラエティ番組、スポーツ中継などで欠かせないものとなった。この短文の書き方ひとつで、視聴率は大きく変わってくる。

 例えば、サッカー日本代表の試合で、「W杯アジア最終予選・初戦」と素直に書くよりも「日本代表、W杯出場へ決戦」としたほうが、ザッピングの手を止めてくれるだろう。『ヒルナンデス!』では、曜日チーフが書いたものを私が最終チェック、場合によっては修正を加えてオンエアした。

 また、ザッピングの流れをストップさせるテクニックとして、「ん? なんで?」、「あれ?なんか気になる」と思わせるというのがある。例えば、VTRでレポートしている出演者たちと、ワイプの中に映っているスタジオでそのVTRを見ている出演者がまったく同じ人たちだったら、「あれ?」と思うのではないか。通常の番組の作りは、ロケで取材してくる人たちと、スタジオでそれを見る人たちは別というのが多いはずだからだ。こんな風に、「なんで?」と思わせることができればしめたものなのだ。

 他にも、出演者によるトークの雰囲気、場面転換のテンポ、ロケ先の店舗セレクトなど、工夫できるポイント、試行錯誤できるポイントはいくらでもある。それらの組み合わせ方もさまざまだから数限りなくあると言っていい。週1放送のバラエティ番組などであれば複数回の分をまとめて収録するので、視聴率チェックをもとに修正しようとしても、それが放送されるのは1ヵ月以上後になってしまうこともあるが、『ヒルナンデス!』の場合であれば、幸いにも結果はオンエアの翌日に出る。わずかな動きでも思ったとおりの反応が得られれば取り入れ、思ったようにならなければそれ以降は取り入れない。その泥臭い繰り返しによって、一点突破の戦略精度を上げていく。

 こうして『ヒルナンデス!』は、F1・F2に最適化された番組パッケージとして完成度を上げていき、ガリバー番組『笑っていいとも』を追い詰めていく。最終的に、『ヒルナンデス!』がトップになるために私が繰り出した秘策は次回紹介しよう。

>>次回は10月9日(水)公開予定です。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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