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大規模災害にテクノロジーで立ち向かう、防災に取り組むスタートアップたち

第33回NEDOピッチ「安全・防災・減災特集」レポート

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国土強靭化は日本の重大テーマに
防災、減災にテクノロジーで立ち向かう

 神奈川県川崎市のK-NICで「第33回NEDOピッチ」が実施された。同イベントは、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共催による、オープンイノベーションを創出することを目的としたピッチイベントだ。第33回のテーマは「安全・防災・減災特集」。

 はじめに、日本総合研究所のリサーチ・コンサルティング部門 プリンシパル/融合総合 戦略グループ長 兼 創発戦略センター Connected Lab.ラボ長の東 博暢氏がプレゼンテーションを披露。

 「近年、深刻な被害の災害が続いて起こったこともあり、国土強靭化のイノベーションが進んでいる。

 2019年は、あってはならい事故に対する対策を強化し、災害対策予算も増やして取り組むという状況を、国土交通省が作っている。これはビジネスになるかどうかと言うよりも『社会コストとしてどれくらいの費用を割くべきか』という考え方。官民連携によるスマートシティー推進においても、国土強靭化はさらに重要なテーマになる」と解説した。

 以下には、参加企業によるピッチの模様をレポートする。

内閣府採用のリアルタイム津波浸水・被害推定システム
株式会社RTi-cast

 株式会社RTi-castは、国際航業株式会社、株式会社エイツー、 日本電気株式会社、東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社の出資により設立。

 スーパーコンピューターを使って、地震の発生から10分以内に、6時間先の状況を予測するというリアルタイム津波浸水・被害推定システムを開発、運営している(2019年2月 第1回日本オープンイノベーション大賞 総務大臣賞)受賞。

 この日は最高技術責任者(CTO)の越村 俊一氏が登壇。「大津波は、内陸の深い場所まで到達する。水だけでなく、ガレキも含む。産学連携の成果であるこの技術を広く普及させ『災害から生き延びる』『素早く立ち直る』社会の実現を目指している」と話した。

 越村氏は現状の津波発生時の予測情報の位置づけについても触れ、「気象庁が津波の予報を発表するが、津波の高さに関する情報が主であり,内陸のどこまで浸水するかはわからない。どこまで津波が浸水して、どの程度の被害が発生するかを予測できるのが私たちの技術」と解説。

 スーパーコンピューターは、東北大学と大阪大学に設置した「SX-ACE」を使用している。災害時に確実にリアルタイムに分析できることが必要になるが、両大学のスーパーコンピューターには災害時モードの運用がされており(特許技術)、突発的な災害にもリアルタイム予測が可能となっている。

 同社のシステムは、すでに内閣府に採用されており、将来的に南海トラフ地震が起きた際には、30分以内に被害予測情報が政府に自動で配信されることになっている。なお、標高データ、土地利用、建物の情報は事前に自治体等から提供を受け、あらかじめ登録しており、いつでも最新の条件でシミュレーションができるようになっている。現在は、鹿児島県から茨城県までのデータが組み込まれているそうだ。

 将来的には、人流データなどと重ね合わせて、リアルタイムで「どの地域に何人の人がいて、何台の車があるか」を判別させて、状況に合わせた避難ナビゲーションができる仕組みを目指すとした。

コスト大幅安の蓄電デバイス
三谷電池技術研究所合同会社

 大阪市立大学発のベンチャーである三谷電池技術研究所合同会社のピッチ。塩水で動く蓄電デバイスの商品化を目指し、開発している企業。代表社員の三谷 諭氏は、「値段が安く、高サイクル、高出力特性がいいという特徴を持っている」と自社の製品を解説。

 「エネルギー密度は鉛蓄電池と同等だが、サイクル特性がよく、ランニングコストが安い。このデバイスのために、塩水にマッチした炭素材を開発した。水系の電池は通常、1.2Vの電圧が限界だが、私たちの技術では、2V級の電圧を実現できる。大阪市職員から防災用に開発できないかという要請があったことから、本格的な事業化に乗り出した」(三谷 諭氏)。

 主な用途として紹介されたのは、災害により大規模な停電が起こった際に、無線基地局や信号機、工場や病院といった、電気が途切れては困る施設のバックアップ電源だ。インフラを補填するほどの性能を持つバックアップ電源を用意するには、通常、数千万円程度のコストが必要になるが、同社の技術を利用した製品では、数百万円での導入が可能になるという。

 9月8日には東成区で実証実験もしている。コストを抑えつつ、重要なインフラを保守する同社の技術に注目が集まりそうだ。

塗るだけで耐震補強を実現
株式会社Aster

 株式会社Asterのピッチ。取締役COOのシャンタヌ メノン氏は「disaster(災害)の反対という意味で、Asterと名付けた」と社名の由来を語った。同社が開発しているのは、石やレンガを積み上げた組積造の建物の外壁にコーティングをすることで、耐震補強ができる塗料「POWER COATNING」だ。

 シャンタヌ メノン氏によれば、世界の6割くらいの人が組積造の建造物に居住しているという。組積造の建造物は、耐震補強をしないと地震に弱いという特性があるが、現状では、ネパールやフィリピンなど、地震が発生する可能性のある地域にも組積造の建造物が多く見られるという。

 また、1915年から2015年のあいだに地震で亡くなった人の割合を見ると、組積造の崩壊や劣化で亡くなった人も多く、大きな問題であると指摘した。

 POWER COATINGは、強化繊維樹脂を含んだ塗料だが、特別な技術や機材は必要なく、新築時でも、リフォーム時でも使えるという特性を持つ。また価格も、一般的な高強度樹脂の10分の1程度に抑えられるという。今後はネパール、フィリピンを中心に展開するほか、インド、南南米もそれに続くターゲットとして販売を広げていく狙い。

 またメインターゲットとしているのは組積造の建造物だが、木造やコンクリートの物件にも応用ができるとのこと。発展途上国では、先進国以上にコスト面が重要になってくるため、特殊な技術が要らず、コストも抑えられる建材は注目されるのではないだろうか。

株式会社メトロウェザー

 株式会社メトロウェザーは、京都大学生存圏研究所で開発された技術を元に「小型高性能ドップラー・ライダー」と呼ばれる機器を開発している。

 ドップラー・ライダーは赤外線レーザーを大気中に照射し、細かな塵の動きを捉えることで、遠く離れた場所の風の向きや風の速さを測定するというものだ。従来、風の情報は地表近辺のデータに限られていたが、ドップラー・ライダーを使うことで、上空、海の上の風といったデータも測定できるようになる。

 用途は防災、風力発電、航空、そしてドローン。ドップラーライダーを高層ビルの屋上に複数設置し、都市上空の詳細な風況をモニタリングすることで、積乱雲が発生するもととなる風の集まりや上昇気流の状況を把握し、ゲリラ豪雨の発生を予測したり、風況観測を従来技術に比べて高い精度で、低コストで実現できたりする点がメリット。

 また、「ドローンが飛行する地上付近の乱流や風況を、ドローンの操縦者や管制者に提供することも可能になり、今後の拡大が見込まれるドローンの市場にも大きく貢献できる」(代表取締役CEO 東 邦昭氏)とした。

 同社は2018年に大手銀行の主催するプログラムで最優秀賞を受賞したするなど、注目度の高い企業。ドローンの市場拡大が予想される中、今後もその存在感を増していきそうだ。

ドローンの管制システムを開発
株式会社トラジェクトリー

 株式会社トラジェクトリーもドローンに関連した企業。代表取締役の小関 賢次氏は、もともと航空機の管制システムを作っていたエンジニアだ。その経験を活かし、同社では2018年3月創業以来、ドローンの管制システムを作っている。

 小関 賢次氏は、「飛行機は乗ってから、離陸、着陸までをすべて自動でできるまで進歩しているが、安全のために、人が動かす決まりになっている。一方でドローンは、いまは人が飛ばしているが、もう限界まできている。システム化、自動化することで、より社会にドローンが定着するようにしたい」と話す。

 同社では開発にあたって、杉並区で実証実験をした実績も持つ。実証実験時は、3Dマップを事前に取り込むことで、建物に当たらないようにドローンを飛ばすことが可能だったとし、「災害時も大きくパフォーマンスを発揮できる」(小関 賢次氏)とした。

 同社の技術を利用すれば、ドローンの航路を自動生成し、リモートで誘導、監視することが可能になるが、特にメリットが大きいのは、都市部だという。都市部では、パイロットがすぐ建物の影に隠れてしまうため、常にドローンを監視することが難しい。このため「火事が発生した時はどの航路をどのように飛ばす」など3Dマップを元に設計できる管制技術が重要になるのだという。

 また小関 賢次氏は、「都市部では多くの許可が必要だから、簡単にはいかない。自治体と包括協定を結んで、自治体に高精度な3D地図を作ったり、航路を作ったりする必要があると思います」と、自治体の協力が不可欠である点を強調した。

 なお同社は現在、IBMと協業し、甲賀市で実証実験を重ねている。ここ1、2年で、ドローンのビジネスの活用は度々ニュースとして見かけるようになったが、防災や減災という観点でのドローン利用も今後増えていくだろう。興味を持った自治体の担当者は、ぜひ同社に問い合わせをしてほしい。

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