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ASCII STARTUP イベントピックアップ第60回

「Microsoft Innovation Lab Award 2019」レポート

ICUの遠隔化で緊急医療体制を進化

2019年11月18日 06時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●ASCII STARTUP

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 8月30日、日本マイクロソフトはピッチコンテスト「Microsoft Innovation Lab Award 2019」を開催した。AIやIoT、ブロックチェーンなどの最新技術を使った革新的なプロダクトを開発しているスタートアップ5社が決勝ピッチを行なった。本イベントで最優秀賞を獲得すると、マイクロソフトが提供するスタートアッププログラム「Microsoft for Startups」の支援を受けられる。今回は、このピッチイベントの様子を紹介しよう。

ザ・プリンスパークタワー東京で、Microsoft Innovation Lab Award 2019が開催された

マイクロソフトとパートナー、スタートアップの3社がつながるためのピッチコンテスト

 「Microsoft Innovation Lab Award 2019」はテクノロジーを駆使して今後の世界を変えていく、設立後5年以内の非上場スタートアップ企業が登壇するピッチコンテストだ。今回登壇するのは、書類選考を経て選ばれた5社。プレゼンの持ち時間は6分ぴったりで、市場性、実現性、社会性、技術力、グローバルという5つの観点を元に審査し、最優秀賞と優秀賞をそれぞれ1社選び、表彰する。

 審査員は日本マイクロソフト株式会社 執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント株式会社 代表取締役 社長の榊原 彰氏、DNX Ventures マネージングディレクターの倉林 陽氏、グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 今野 穣氏、経済産業省 商務・サービスグループ キャッシュレス推進室長の津脇 慈子氏、フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長 CEOの志水 雄一郎氏の5名。

審査員は日本マイクロソフト社長をはじめ5名

 「スタートアップとはコミュニケーションを取っており、ピッチイベントは毎年開催していましたが、Innovation Labという名前になって初の試みです。以前のコンテストは、マイクロソフトとスタートアップがつながって何かを成し遂げましょうという趣旨でしたが、今回は、我々とスタートアップのみなさんだけでなく、我々のパートナーさんたちともつながってもらおうという趣旨になっています」(榊原氏)

Blockchain×オープンイノベーション
~新たなユースケース開発に向けたZEROBILLBANKの挑戦~/ZEROBILLBANK JAPAN株式会社

 最初に登壇したのは、ZEROBILLBANK JAPAN株式会社 代表取締役CEOの堀口純一氏。お題は「Blockchain×オープンイノベーション ~新たなユースケース開発に向けたZEROBILLBANKの挑戦~」。

 ZEROBILLBANKは2015年、イノベーション大国と言われるイスラエルで創業した。

 「現地に住んで、感じたことがあります。彼らは、0から1を生み出すことに長けています。それは、イノベーションの方程式が彼らの体の中に埋め込まれているということです。ヒト×モノ×カネ×情報という経営資源の組み合わせの妙を作って、誰も思いつかないものを作っていると感じました」(堀口氏)

ZEROBILLBANK JAPAN 代表取締役CEOの堀口純一氏

 「これらの経営資源はすべてインターネットにつながっていくので、これまでのビジネスモデルやバリューチェーンを生み出すものが通じなくなる世界がすぐそこに来ている」と堀口氏。従来は、増え続けるエンドポイントのデータを1社で独占する取り組みが多かったが、例えば自動運転では、トヨタやソフトバンクが大手のアセットを組み合わせて、新しいものを作っていくような動きがあるという。

 そこで、ZEROBILLBANKが手がけているミッションが、企業間におけるデータ流通を再定義をすること。複数の企業が新規事業を作るときに、そのビジネスプロセスをサポートしたり、データ流通の形やアクセス権を定義するほか、個人情報を適切にあつかう情報銀行基盤(PDS)もブロックチェーンと組み合わせた。そのデジタルアセットを管理する分散台帳をAPIで、ERPやリアル店舗、スマホ、IoTデバイスとつなげるプラットフォーム基盤を提供しているのだ。

ZEROBILLBANKが提供しているプラットフォーム基盤

 「今私自身が日本で一番興味がある領域は、「スーパーシティ構想」です。自分たちの個人情報をこれまでとは異なり、自分で管理するような情報銀行スキームです」(堀口氏)

 2つのインセンティブスキームを考えており、1つが家族で情報のアクセス権を持って、関連する人たちシェアする「健康ジョイント口座」という仕組み。もうひとつが、補助金や税金に依存しない健康型のストックオプション「健康トークンオプション」。健康ポイントを単純に個人に付与して消費させるのではなく、ストックオプションとして渡す仕組みだ。たとえば、おじいさんが散歩をしたら、孫の口座にお小遣いとして貯めるなど、第三者へのインセンティブといった新しい仕組みを提案している。

 「企業が保有する産業データを新しい形で組み替えて、その組み合わせの妙から新しい事業を作っていく」と堀口氏は締めた。

テクノロジーを通じて、医療を一歩前へ/株式会社Linc'well

 2番手は、株式会社Linc'well 共同創業者・取締役の山本遼佑氏が登壇した。同社は「テクノロジーを通じて、医療を一歩前へ」というミッションを掲げ、旧態依然とした医療を変えていこうとしている。

 「現在の医療現場は課題だらけです。予約が取れなかったり、待ち時間が長かったり、キャッシュでしか会計ができず、さらに薬局で待たされます。具合が悪いから行ったのに、もっと悪くなってしまうような体験をされていると思います」(山本氏)

株式会社Linc'well 共同創業者・取締役の山本遼佑氏

 日本の診療所の経営は、95%が個人経営だという。その開業医の8割は50歳以上で、主なユーザー層の75%も50歳以上。つまり、年齢層が比較的高い人が、同世代の人に向けてサービスをしており、この状況がIT化や効率化は進まない原因になっているという。

 とはいえ、もちろん若い人も病気になる。健康診断で血糖値が高かったけど病院に行く時間がないとか、試験前に風邪を引いたので早く治したいとか、仕事が忙しくて肌荒れがひどいので医者に行きたい、といったケースだ。そんな人のために、Linc'wellはIoTをフル活用したスマートクリニック「Clinic For Group」(クリニックフォアグループ)を立ち上げた。

 オンライン予約や事前問診、キャッシュレス会計などに対応し、オンラインとオフラインの両面から徹底的に患者の体験を向上させているのが特徴だ。今後は、24時間365日、医師に相談できるようにしたり、生活習慣の管理や電子カルテの共有などもやっていきたいという。

 「個々のサービスは今までも存在していましたが、医療従事者側のITリテラシー不足などが理由で、なかなか導入されませんでした。そこで、自分で作ってしまいました。1号店の『Clinic for TAMACHI』を2018年10月にオープンしました」(山本氏)

若い人向けにITを駆使したクリニックをオープンした

 オンライン予約や事前問診で待ち時間を減らし、キャッシュレス会計もできる。土日祝日を含め毎日診療し、平日は21時と遅くまで開いているのがありがたいところ。院内での薬剤処方も便利だ。これだけ便利なクリニックは当然患者に支持されることになる。

 「10ヵ月で延べ3.1万人以上が来院しました。8割以上の患者が、オンライン予約から来院しています。通常の診療所だと客層は、50歳以上が75%ですが、Clinic for TAMACHIでは、50歳未満の方が85%を締め、通常とは真逆の客層になっています」(山本氏)

 今後は、オフライン×オンラインの強みを活かした患者向けのアプリケーションを強化して行く予定だという。カルテ情報や検査結果・処方履歴といった医療データと、医師による判断=エンジン、そしてセルフメディケーションやAI健康管理などを組み合わせ、オンラインでのヘルスケア体験の提供に注力していくという。

「チームが見える」を当たり前にし、組織変革を自律化する/株式会社Laboratik

 3番目は、株式会社Laboratik CEOの三浦豊史氏が登壇。チャット解析に基づくエンゲージメント改善ツール「We.」を提供している。68%の人が働き方改革を実感しておらず、62%が自社の人事評価制度に不満を持っている、と三浦氏。

 同社は『「働く」を進化させる』というミッションを打ち出しており、「働く」にまつわる「負」を解決する方法はないか? と考えた時に、「ピープルアナリティクス」に目を付けた。「ピープルアナリティクス」とは、組織や人事のデータを分析し、職場のクリエイティビティや生産性の向上につなげるためのマネジメントのこと。

株式会社Laboratik CEOの三浦豊史氏

 自然言語処理を介して、チャットコミュニケーションのデータを解析し、組織の特性を可視化。コミュニケーションスコアという単一の数値に落とし込み、部署と部署や人と人、Slackのチャンネル同士をソシオグラムとして表している。関係性が変化したら、「注目の変化」として通知を出すことも可能。

 チームの状況をレポートで定点観測するという活用法もある。「月次レポート」を開けば、全社のコミュニケーションスコアをグラフ化し、推移を確認することができる。

組織内のコミュニケーションを分析してつながりを可視化してくれる

 同社の強みは、3000万件分のコミュニケーションデータが蓄積していることと、特許を取得している自然言語処理による発話・感情解析技術、そして早大や京大の研究グループとパートナーシップを組んでいることだという。

 現在、「We.」のビジネスモデルはサブスクリプションに加え、サポートオプション、さらに共同開発やライセンシングと3本柱になっている。今後は、Slackだけでなく、APIを連携させてMicrosoft Teamsやworkplace、LINE WORKSなどにも展開していきたいという。

沿革ICU→Cloud Hospital構想/株式会社T-ICU

 4番手は株式会社T-ICU CEOの中西智之氏。中西氏はICUや集中治療を専門とする医師で、遠隔集中治療支援システム「T-ICU」を手がけている。

 「専門医と専門医以外で、救命率に差があるのは論を待たないと思います。しかし、専門医が不足しているため、70%の確率で専門医の治療を受けられません。日本には、32万人の医師がいますが、集中治療の専門医はそのうちの0.5%にあたる1700人しかいないのです。さらにその専門医は偏在していて、東京には237人いますが、鳥取県には4人しかいません。日本には1000のICUがありますが、専門医がいるのはそのうちの3割、300病院だけです」(中西氏)

株式会社T-ICU CEOの中西智之氏

 「T-ICU」は、専門医を24時間体制でサポートセンターに待機させ、インターネットで多くの病院と結び、バイタルサインやCTの画像情報を共有したうえで、現場へアドバイスする仕組みを構築した。通常は、1人の医師は1つの病院しか見られないが、このシステムなら1人の専門医が30ほどの病院を見られるようになる。

 アメリカでは20年前から遠隔ICUが運用されており、20%のICUは遠隔で管理されているという。すでに20万人分のデータが蓄積され、導入後の死亡率は26%下がっているという。「T-ICU」もすでに京都大学や三重大学、関西医科大学など、国内で10の病院で契約し、運用中とのこと。

 「厚労省も遠隔ICUの需要を見据えて、今年度の予算で体制整備費用で5億円を獲得しています。遠隔ICU委員会ができ、そこのメンバーに私も入っています」(中西氏)

ネットを介して専門医のアドバイスが受けられる

 医師不足や医療格差という問題は、ICUだけでなく医療全体に共通した問題となっている。そこで、「T-ICU」は「DaaS(Doctor as a Service)」というプラットフォームを構築し、専門医を力を必要とするところに提供するという。さらに、ICU以外の麻酔や救急、無痛分娩、小児ICUといった領域、さらにはLCC(格安航空会社)の航空機内にも遠隔医療の導入を進めている。同時に、必要となる医師を確保するために、14万人の医師が登録する「CareNet」と業務提携している。

 「この遠隔医療プラットフォームは医療スタッフにとっては、病院勤務や開業とは異なる第三の働き方を提供できます。今後は、遠隔手術に対しては5G、電子カルテにはブロックチェーン、医師の診断を受けることに関してはAIといったテクノロジーを組み合わせて、新しい医療の形を提供していきます」(中西氏)

Scalar:The World's Reliable Database/株式会社Scalar

 最後は、株式会社Scalar CEO/COOの深津航氏のピッチ。Scalarでは、ブロックチェーン技術を使うことでデータに信頼を与えてデジタライゼーションを推進するというミッションを掲げ、信頼性にこだわったデータベースを作っている。

 従来のデータベースは、データを預けてしまうと、預かった会社のデータベースのシスアドがコントロールできてしまうといった課題がある。そこで、Scalarは、データの所有者自身がデータに対するコントロールを可能にしたり、トレーサビリティーを利用できるようにした。自分が記録した契約に対して信頼性を付けることによって、デジタライゼーションを推進できるという。

 そこで利用するのがブロックチェーン。1度記録してしまえば改ざんできなくなるが、スケーラビリティーという課題がある。Scalarは分散データベースも融合させ、データベースの上にブロックチェーンの技術を載せて、スループットとパフォーマンスを上げることを目指しているという。

株式会社Scalar CEO/COOの深津航氏

 「ほかのブロックチェーンと何が違うのかというと、我々は完全な分散ではなく、リレーショナルデータベースの集中管理とブロックチェーンの分散管理の真ん中を目指しています。基本的にはトランザクションを進める人とそれを検証する人を分離し、信頼性を担保しつつスループットを上げています」(深津氏)

Scalarは高い改ざん耐性とスケーラビリティを両立させている

 事例として、三井住友海上火災保険株式会社と勤怠管理サービスを提供している株式会社クロスキャットの3社で、新しい保険の開発を進めているケースが紹介された。副業やボランティアに関わる従業員が事故に遭ったり、怪我にあった場合、労災が下りないという問題がある。ここで、ブロックチェーンで副業の労働時間を管理していれば、そのエビデンスを提出することで保険の支払いを受けられるようになるという。

 データベースとブロックチェーンを別々のシステムにすると、たとえばデータベースを更新しても、ブロックチェーンの更新が失敗した時にリカバリーできなくなってしまう問題がある。そこで、データベースとブロックチェーンを一体化したトランザクションとして実行するようにした。もし、片方の更新が失敗したときには、ロールバックするようになる。この仕組みで、デジタルデータの信頼性を担保しているという。

優秀賞はScalar、最優秀賞はT-ICUが獲得した

 最後に、受賞式が行なわれた。スポンサー賞としては、電通の「SPORTS TECH TOKYO賞」はLaboratik、「富士通賞」はZEROBILLBANK JAPAN、「株式会社PR TIMES賞」と「株式会社パソナ・グループ賞」はT-ICUが獲得した。

 「優秀賞」はScalarが獲得した。「堅いビジネスモデルを取るのか、面白いテクノロジーを取るのか、審査員でディスカッションしまして、今回は面白いテクノロジーを作られているScalarさんに賭けましょう、となりました」と日本マイクロソフト 代表取締役社長 榊原氏。

「優秀賞」はScalarが獲得した。マイクロソフトからはSurface Laptop 2とSurfaceキーボードが贈呈された

 「最優秀賞」はT-ICUが獲得。「審査員一同、喫緊の社会課題にコミットしているということで、ぜひ応援しよう、となりました」と榊原氏。

「最優秀賞」はT-ICUが獲得した。マイクロソフトからはスタートアップ支援として現金100万円と、技術・マーケティング支援が贈られた
熱い5社のスタートアップが集り、中身の濃いピッチイベントとなった

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