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成田の機内食工場がスーパー銭湯に転身、台風被災者を受け入れ「嵐の船出」

2019年09月14日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,柳澤里佳(ダイヤモンド・オンライン

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成田のスーパー銭湯が開業、機内食工場の意外な転身
ホテル「ラディソン成田」敷地内にオープンした温浴施設「湯楽城」。浮世絵が何枚も飾られ、夜にはライトアップされた噴水ショーが楽しめる Photo by Rika Yanagisawa

米デルタ航空が成田国際空港から撤退し、発着枠が拡大する羽田空港に路線を集約する。同社が“成田離れ”する中、旧ノースウエスト航空時代から持っていた大型機内食工場が、訪日客をターゲットとしたスーパー銭湯に変貌を遂げていた。グランドオープン直後に台風15号による停電で営業を休止したものの、9月11日夕方から再開し、被災した地元客に無料開放して賑わっている。(ダイヤモンド編集部 柳澤里佳)

米デルタ“成田離れ”で工場閉鎖
跡地がスーパー銭湯&撮影スタジオに!

 「機内食工場をクローズした時から、こうなることは分かっていたけどね」

 米航空大手のデルタ航空が8月中旬、成田国際空港から撤退して東京国際空港(羽田空港)に首都圏発着路線を集約すると発表した。この発表を耳にした航空関係者たちは、こうなることは“既定路線”だったと受け止める。

 2020年春から羽田の国際線発着枠が拡大することに伴い、デルタは成田~シアトル、デトロイト、アトランタ、ポートランド、ホノルルの米国5路線を羽田へ移管。成田~シンガポール、マニラ線は廃止する。羽田集約後、米系キャリアでは羽田で最多便数を運航することになる。

 16年の日米航空交渉の結果、デルタは羽田~ロサンゼルス、ミネアポリス線を開設。その一方で成田~ニューヨーク線をはじめ就航実績の長い路線から撤退し、“成田離れ”を加速させていた。

成田のスーパー銭湯が開業、機内食工場の意外な転身
スーパー銭湯「湯楽城」の館内図 Photo by R.Y.

 デルタは前身の旧ノースウエスト航空時代から、成田空港に近い千葉県富里市にホテル「ラディソン成田」と、同敷地内に大型機内食工場とクルーの研修施設、保税倉庫などを保有していた。それが16年秋、所有権を他社に売却。ラディソン成田はそのまま営業を続けているが、機内食工場は閉鎖となり、長きに渡って1日1万食以上を作ってきた歴史に幕を下ろした。

 今、機内食工場跡地はどうなっているのか。現地を訪れると、驚きの変貌を遂げていた。

 ワンフロア3300坪の巨大建屋はそのままで、1階はスーパー銭湯、2階はドラマや映画に使われる撮影スタジオになっていたのだ。

 スーパー銭湯「湯楽城」は7月中旬に営業時間を限定してプレオープンした。温泉ではないが、複数の内湯と露天風呂、食事処や休憩スペースも充実している。

 新しくラディソン成田および周辺敷地のオーナーになったのは、ホテル事業を中心に、インバウンドビジネスを展開するシーエイチアイという企業だ。同社を率いるのは「在日華人一の富豪」の異名を持つ露崎強会長。30年前に来日した露崎氏は全国でホテルを買収し、現在は8つのホテルとゴルフ場、貸し切りバス会社、旅行会社を経営する。

館内は大江戸温泉に“ソックリ” Photo by R.Y.

 そんな露崎氏が目を付けたのが、スーパー銭湯だった。アジア人観光客の客層が変わり、団体客から圧倒的に個人旅行、そして若年層が増える中で、「2000~3000円程度で、風呂に入れて仮眠が取れる場所があれば、絶対ウケる」(露崎会長)と考えた。

 成田空港がLCC(ローコストキャリア、格安航空)ターミナルを拡張し利用者を倍増させる計画を進めていることから、空港や地元自治体、航空関係者にもプロジェクトを伝え、着工に踏み切った。

 手本はあった。東京・台場にある大江戸温泉物語だ。和の雰囲気が人気で、仮眠スペースもあり、大勢の外国人客で賑わっている。露崎氏は大江戸温泉物語の創業者と親しい間柄。羽田空港利用者が台場の大江戸温泉で休憩することにヒントを得て、成田エリアでも同様の事業が成功すると踏んだ。

 湯楽城の館内に入ると、台場の大江戸温泉に“ソックリ”である。利用者はまず浴衣に着替えると、食事処と休憩スペースがあるエリアに進む。全体的に和風の洒落た内装で、インスタ映えしそうな装飾が施されている。「築400年の古民家をそのまま移植した部分もある」(関係者)という。

成田のスーパー銭湯が開業、機内食工場の意外な転身
春雨のピリ辛スープ麺は、本場中国の有名チェーンならではの味がした Photo by R.Y.

 食事処は、和食と中華のフードコート、居酒屋、バー、甘味処と複数業態がある。イチオシは中国の有名中華料理チェーン「胡家小館 張亮麻辣湯」で、ビリリと舌がしびれる山椒のきいた本場の麻辣湯(春雨のスープ麺)、本格的な水餃子が富里市のスーパー銭湯で食べられる。

 館内は台場の大江戸温泉よりもはるかに広い。正面玄関から見た間口は170メートル、奥行きは60メートルもある。広すぎるあまり、「お客が数百人入っても、なお、がらんとした印象で、賑わう感じを生み出せない」と関係者は呟く。

 この建屋はもともと機内食工場と研修施設の用途だったため、湯楽城は「一般公衆浴場」の用途ではなく、「ホテルの付帯施設」になっている。それもあって幾つかの制約があり、例えばショーを行う立派なステージと照明を設置したが、「興行」は禁止されているという。

成田のスーパー銭湯が開業、機内食工場の意外な転身
視察に来たあるLCC首脳が「うちの飛行機の映像を流したい」と絶賛したという Photo by R.Y.

 もっとも、湯楽城を楽しむポイントは、ワールドワイドな“ごった煮”感かもしれない。至るところに露崎会長のアイデアが体現され、ロビーやトイレは香港の老舗高級ホテルのような重厚なデザインだったり、内湯に中国にあるような赤い門があったり、和風なメーンフロアの天井にはプロジェクションマッピングで世界各国の映像が流れたりしている。洗練された統一感は、見当たらない。

 会長自ら中国から建築材料を輸入するなど、こだわった結果、総投資額は約20億円。集客目標は1日1500人。成田空港が近くにあるとはいえ、商圏を考えると、そうとうチャレンジングな数字である。

開業直後に停電で営業停止
復旧後は被災者に無料開放

Photo by R.Y.被災者に無料開放した12日は1400人超が来場した 

 ラディソン成田については買収後、シーエイチアイが培ってきたインバウンド集客を駆使し、以前は6~7割ほどだった稼働率を9割に引き上げた。同ホテル(客室数490)はデルタクルー(乗務員)の常宿として最盛期は300室ほど使われていたが、16年以降は100室ほどに減っている。デルタの成田撤退はホテル経営にとって大打撃だが、すでに「豪州系など他の航空会社に営業をかけていて、収益を維持していく」(関係者)算段だ。

 湯楽城はこの9月8日にグランドオープンした。その矢先、台風15号が首都圏を襲い、停電により営業を休止した。電力が復旧した11日は午後4時から9時まで被災者に向けて無料解放し、800人超が来場した。12日、13日は午前11時から同様に無料開放し、12日は1400人超が来場した。「訪日客だけでなく、まずは地域の皆さんに知っていただき、台風で疲れた心身を癒して帰ってもらいたい」と関係者。まさに嵐の中のスタートとなった。

 同じ商機を睨んだライバルが現れてもいる。成田空港から車で5分ほどの距離に、「成田空港温泉 空の湯」が12月にオープンする予定だ。規模は湯楽城より小さいものの、地下1000mから掘った源泉かけ流し天然温泉がウリ。空港近くのスーパー銭湯バトルがアツくなりそうだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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