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東大「異才発掘プロジェクト」、不登校の問題児を伸ばす教育とは?

2019年09月12日 06時00分更新

文● まつい きみこ(ダイヤモンド・オンライン

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東京大学と日本財団が2014年から共同で行っている「異才発掘プロジェクトROCKET」は自分の興味に貪欲過ぎて協調性がないなど、学校での集団学習に馴染めないが異才を持つ子どもたちに様々な学習の機会を提供する取り組みだ。始動から5年が経過し、プロジェクトを取り巻く環境も大きく変化する中で、東大が挑む新しい教育の様子を探ってみた。

特殊な能力を持つ子どもに
対応できない学校教育

東京財団の笹川陽平会長とROCKETスカラーたち
学校に馴染めず「不登校の問題児」とみなされてしまう子どもたちだが、その才能は将来、革新的な研究や商品につながる可能性を秘めている

 日本の学校教育の中では収まりきれない、天才とも呼ばれる能力を持つ異才児たちがいる。そんな子どもたちの多くは、その個性の強さから問題児扱いされて学校に居場所を失い、不登校になりがちだ。

「異才発掘プロジェクトROCKET」(以下「ROCKET」)は、画一的な学校教育では対応が難しい異才を放つ子どもたちに自由な発想と学びの場を提供することを目指し、2014年に東京大学先端科学技術研究センターと日本財団が共同でスタートさせたプロジェクトだ。

「ROCKET」は「Room Of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents」の頭文字で、「志ある特異な(ユニークな)才能を持つ子どもが集まる部屋」を意味している。自分の興味に貪欲過ぎて協調性のない子や、周りの空気が読めない子、そんな子どもたちにとことん「こだわり」を追求させる空間であり、またそんな彼らの「こだわり」を必要とする会社や社会との橋渡しもする。

「『ROCKET』は不登校児向けの新しい教育だといって、公教育を否定しているのではありません」と「ROCKET」のスタート時からプロジェクトリーダーとして携わる東京大学先端科学技術研究センター特任助教の福本理恵さんは、ともすれば誤解されがちなプロジェクトの趣旨について説明してくれた。

 東大が教育する「異才」というと、成績優秀な天才児が集められ高度な早期能力開発が行われているようなイメージを持ってしまうが、福本さんは「ROCKET」のいう「異才」とは「能力の高さ」ではなく、異なる行動や視点から既存の常識とはかけ離れた「新しい価値を生み出す素質」を指しており、アメリカで特別な才能を認められたギフテッドと呼ばれる子どもに行われる、優れた部分に特化する早修型の教育とは異なるという。

「子どもたちの『こだわり』の中には、将来何の役に立つの?と聞かれるものもありますが、その未知なる『こだわり』がアカデミックな世界の基礎研究や、革新的な商品につながる可能性があるのです。『こだわり』の価値を一番知っているのが子ども自身で、私たちは好きなことに没頭していく姿を見守るだけです」(福本さん)

 福本さんらは、独自目線で行動する子どもたちの可能性を刺激し、自主性をフォローするだけという。

「もみじ饅頭の解剖」!?
ユニークな学習プログラム

「ROCKET」の学習プログラムに参加するには、まず「スカラー候補生」に選ばれる必要がある。

東京大学先端科学技術研究センター特任助教の福本理恵さん
東京大学の進化心理学の研究で認知科学(モノの捉え方)の研究をしていた福本さん。自閉症の子どもたちと接する機会も多く、子どもたちが自分らしさを発揮して生きるためには理解者の存在が不可欠であることを痛感したという

「スカラー候補生」は「ROCKET」の学習プログラムに参加しながら、自分のやりたいことへのサポートを個別の申請制度で受けることができる。その後も持続的に「突き抜けて好きなことをとことん進めていく」と判断されると「スカラー」として正式に認定され、新たなステージでの支援を受けることができる。

「『ROCKET』で子どもに道が開けてきた」と話すのは、ユニークなロボットづくりが注目される2期生の鳥山樹(いつき)さん(18歳)の保護者の鳥山まゆみさん。現在「スカラー」として支援を受けている樹さんは、ロボットの研究開発に没頭したいと高校には進学せず、自宅でロボット制作の日々を送っているのだが、最近は企業からの技術提携や、特別な勤務形態での仕事の話などが入るようになったという。

 まずは「スカラー候補生」への応募から始まるのだが、2019年度からは、これまでの年に1度の選抜制ではなく、各地域で開催するプログラムごとの募集に変更されている。各地域での随時募集になったことで、今の学びに物足りなさを感じている日本中の子どもたちに、「ROCKET」の究極の学び体験と、将来の展望を広げるチャンスが増えたということだ。

2019年度の説明会や学習プログラムは、すでに全国で開催されている。情報は随時「ROCKET」専用のウェブサイトに掲載されるので、興味があればその中の「ROCKETパル」への登録をお勧めする

「スカラー候補生」の体験する学習プログラムは試行錯誤しながら、子どものたちの特徴に合わせた3つのスタイルが出来上がった。

 1つは「ロケット型」と呼ぶもので、多くの知識を吸収する子どもたちが今しかできない体験から知恵や生きる哲学を得るもの。2つ目が「サブマリン型」で、プログラミングやロボット、生物、歴史などニッチな専門分野を探求したもの。そして、リアリティある知識を体験から俯瞰してつなげ、経験から知識を生み出せることを学ぶのが「バルーン型」だ。

 その内容もユニークで、ロケット型ではいきなりインドに海外研修に出かけたり、バルーン型は広島県であれば「もみじ饅頭を解剖する」など、自治体の特色あるテーマを元にしたプログラムだったりする。

母子一体化はいったんリセット
仲間との切磋琢磨で成長

「スカラー候補生」には、メカが好きな理系だけでなく、芸術系や文系の子どももいる。また、学習プログラムでは、多様性を重視し様々な分野で活躍するトップランナーによる講習や、プロジェクトベースド・ラーニング(PBL)と呼ばれる、生活に通じた素材やテーマで実践的に行う学習など、学校とは違う学習機会を子どもたちに提供してきた。どの学習プログラムにも、自分たちで考えなければ達成できないミッションが盛り込まれているという。

「開始当時に比べ世の中はAIやIoTの普及など、大きな変化の波が押し寄せています。これで完成というものではなく、『ROCKET』も世の中の波を受けながら、子どもたちと進化し続けていくものなのだと思います」(福本さん)

 最後に「ROCKET」の「スカラー候補生」に応募するために一番必要なことについて、福本さんに伺ってみた。

「大事なのは子ども自身の参加したいという気持ちです。説明会などで、子どものことを一番理解しているのは保護者だと感じます。子どもの意志を尊重し、これまで守ってこられたわけですよね。これはとても素晴らしいことです。ただ、母子一体化している親子も多く見受けられます。その場合『ROCKET』では一旦関係をリセットしていただかなければなりません」

「学習プログラムでは、子どもの主体性を求めているからです。お母さんがこれまで担ってきた役割を『ROCKET』が引き継ぐということで、子どもたちが本当の意味で自分の道を歩み始めることを理解していただくことが重要なのです」。

 自分の「こだわり」に対するエネルギーを向ける仲間がいる環境で、主張し合い、時には対峙しつつ、子ども同士で人間関係を構築することを「ROCKET」は求めている。中には「ROCKET」を去る子どももいるというが、戻ることも可能で、子どもたちのゴールは決めていない。こうしなければならないという型はつくらないという方針なのだ。

 既存の学校教育では「不登校の問題児」と見なされてしまう子どもたちが、予測不可能な新しい時代の波を自由に乗りこなし、世の中に変化を起こす側に立つことが「ROCKET」の目標。「ROCKET」の存在が、日本の画一的な教育を変える原動力になることを願う。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾(R))


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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