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痴漢がひるむ「痴漢抑止バッジ」、身に着けるだけで効果がある理由

2019年09月12日 06時00分更新

文● 真島加代(ダイヤモンド・オンライン

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痴漢防止バッジをつける女子高生
デザインコンテストから採用された痴漢抑止バッジ。キャラクターやポップな色味で、女子高生が身に着けやすいのが特徴だ

日本は現在、世界屈指の“痴漢大国”と揶揄され、CHIKAN(痴漢)は、世界で通じる日本語のひとつになっている。そんななか、ある母娘が考案した「痴漢抑止バッジ」が注目を浴びている。痴漢を取り巻く日本の現状と、痴漢抑止バッジの効果に迫る。(清談社 真島加代)

「制服」が痴漢のターゲットに!
卑劣な加害者の心理とは

 満員電車のなかで起きる卑劣な犯罪行為の代表例といえば“痴漢”だろう。日本の電車内での痴漢発生率は世界一高い一方で、正確な数字を把握することができないという。

「被害者の多くは中高生の女子で声を上げることをためらうケースが多いため、被害者が泣き寝入りするケースがほとんどです。警察庁の統計では、実際に被害届を出しているのは、全体の1割ほどの被害者と見られています」

 そう話すのは、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で、大森榎本クリニックで精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)を務める斉藤章佳氏。榎本クリニックでは性犯罪加害者を対象にした更生プログラムを日本で先駆的に実施しており、斉藤氏も数多くの痴漢加害者や被害者に接しているひとりだ。

「痴漢加害者は、発覚リスクが低い相手をターゲットにする傾向があります。その際に指標になるのが女子中高生の“制服”なんです。彼らにとって制服は従順であることの象徴になっているので、『痴漢されても、大きな声を出したりできないだろう』と判断して痴漢を繰り返します。ある女性は、高校生の頃、毎日のように電車で痴漢に遭っていましたが、卒業後に私服で乗車したところ、痴漢に遭わなくなったそうです。同じ時間帯の同じ車両に乗っても、制服を着ていないだけで痴漢のリスクが下がるというエピソードです」

 そして、被害者側も「みんな被害には遭ってるし、わたしが我慢すればいいんだ」というあきらめや、「痴漢されていることがバレたら恥ずかしい」という羞恥心によって、声を上げられないケースがとても多いという。

「痴漢被害に遭っていたという理由で遅延証明書を発行してもらうことや、職場や学校に遅刻を申告することは、被害者にとって負担が大きいのです」

被害者がもっとも恐れる
「加害者からの報復」

 声を上げずとも、痴漢を撃退する方法があるのではと思う読者もいるかもしれない。たしかに、先日「痴漢の手に安全ピンを刺す」という撃退法がSNS上で話題になったが、斉藤氏は「安全ピンで刺すのは被害者にとってハードルが高い」と話す。

「被害者がもっとも恐れているのは、加害者からの報復です。被害者が女子高生の場合は制服を着ているので、学校を特定されるリスクを負っています。もしも、安全ピンを使用して相手を逆上させたら、家までつけられてストーカーに発展するのでは、と想像すると怖くて反撃ができないと話す被害者は多いです」

 実際に被害に遭ったあとも、恥ずかしさから親や教師など、身近な人への相談もためらう傾向がある。そもそも相談しようにも誰も「なぜ痴漢は痴漢をするのか」について明確な回答ができないため、被害者は自分で抱え込むしかない。さらに、電車内に多くの人が乗っていても、第三者が告発するのは至難の業だと斉藤氏は話す。

「私が耳を疑ったのは、痴漢が女性の性器に指を入れたまま電車を一緒に降りてきた、という事例です。それでも、第三者が気づくことはなかったそうです。周囲は見てみぬふりをしていたのかもしれません。ただ、加害者は、満員電車のなかで“いかにバレずに痴漢できるか”に注力しているので、被害者以外が犯行に気づくのも難しい状況なんです」

 狡猾な加害者と恐怖で声を上げられない被害者、そして犯罪に気づくことができない人々が同乗する“異常な匿名空間”が、満員電車なのだ。

痴漢に悩む母娘が考案した
「痴漢抑止カード」

 そんななか、注目を集めているのが、痴漢を未然に防ぐ「痴漢抑止バッジ」。痴漢抑止バッジを制作している痴漢抑止活動センター代表の松永弥生氏は、バッジ発案のきっかけをこう話す。

痴漢に悩む母娘が考案した「痴漢抑止カード」。バッジに比べて大きいのが特徴だ。

「私の友人の娘さんは高校に入学後、毎日のように痴漢被害に遭っていました。彼女は怖くて声も出ず、泣きながら登校したこともあったそうです。警察の指導にしたがって勇気を出して声をあげても周りの人は誰も助けてくれない…あらゆる対策を試した末に娘さんの発案で『痴漢抑止カード』を作ってバッグに装着。カードを身につけて以来、彼女は痴漢されなくなったのです」(痴漢抑止活動センター代表・松永弥生氏)

 手作りのカードは「痴漢は犯罪です 私は泣き寝入りしません!」という文字とイラストが描かれた簡略なもの。松永氏は「一枚のカードがもたらす効果に驚き、多くの人に知ってもらいたいと考えました」と、振り返る。

「同事に、カードのデザインが直接的だったので、多くの女子高生が持つにはハードルが高そう、という印象を受けました。そこで、考案者の友人に『カードを缶バッジにしたら、もっとつけやすくなる』という提案をし、試作品を作りました」

 実際に試作バッジを身に着けて通学をしてもらったところ、カードと同様の効果が得られたという。その後、松永氏は痴漢抑止バッジの普及を目的とした「痴漢抑止バッジプロジェクト」を発足した。

「2015年11 月にバッジのデザインコンテストを開催し、同時にクラウドファンディングでの資金調達も開始しました。結果、443作品のデザイン案が届き、クラウドファンディングの支援金も目標金額の200%を達成。女性や支援者からは『高校生の娘が心配なので、バッジをつけさせたい』など切実な意見が多く、励みになりましたね」(松永氏)

女子高生の9割以上が
「効果あり」と回答

全国のドラッグストアやファンシーショップで購入可能だ

 さらに、プロジェクトの一環としてJR埼京線を利用する女子校の生徒70人に9ヵ月使用してもらったところ、94.3%が「効果を感じた」と回答。「バッジをつけてから一度も痴漢に遭っていない」「痴漢抑止バッジをつけることによって意志が強くなり、痴漢に遭いにくくなったと思う」などの声が多く寄せられたという。

「驚いたのは、クラウドファンディングの4割が男性の支援者だったこと。プロジェクトに共感したある男性が『痴漢はしたことがないが、学校の勉強で疲れているときに満員電車に乗ると、女性の体を触りたくなる衝動が起きることがあり、自分を抑えるのが大変だった。でも、このバッジを見たら我に返ってもっとラクに自制できたと思う』とSNSに書き込みしているのも見ました」(同)

 バッジはまさに、痴漢犯罪の“抑止力”としての役割を果たしているのだ。松永氏は痴漢抑止バッジは「最初の一手を防ぐツール」だと説明する。

「そもそも被害者は、痴漢を捕まえたいわけではなく、痴漢に遭いたくないんです。にもかかわらず、これまでは“痴漢に遭ったらどう対応するか”という、犯罪が起きる前提で議論される傾向がありました。対処法も、被害者が声をあげたり、是非はともかく安全ピンで加害者を刺したりと、被害者が自ら行動を起こさなければならないものばかり。しかし、バッジによって事前に抑止できれば、被害者も加害者も生まれない。そして、多くの男性が不安を感じている痴漢冤罪も起きません」

 今後も、バッジの販売店を増やし、自治体や学校と連携して痴漢抑止バッジの普及に努めると話す松永氏。2019年も「痴漢抑止バッジ」のデザインコンテストを開催した。年々規模が拡大し、今回は阪急電鉄とOsakaMetro から協賛も得た。参加対象となるのは、デザイナー志望の10代、20代の学生だ。

「被害に遭ったことがない男子学生からの応募も多く、痴漢の実態について学んでデザインをしてくれているのがありがたいですね。コンテストの審査には、学校の協力を得て中高校生に参加してもらいます。最終審査は、商業施設のギャラリーとWEBで一般投票を実施。学生時代から社会問題をテーマにしてデザインをすることの難しさやジェンダー問題に注目することは、これからの世代に必要な要素だと感じています。一人でも多くの方に、痴漢問題に関心を持ってもらうのが、被害をゼロにするための重要なポイントです」(同)

痴漢問題解決のカギは
第三者にアリ

 前出の斉藤氏も、痴漢加害者心理の観点から、痴漢抑止バッジの効力に太鼓判を押す。

「痴漢加害者には『制服を着ているから大人に従順』『拒絶しないから相手は喜んでいる』など、痴漢独特の“認知の歪み”を持っています。これを私は『痴漢脳』と呼んでいます。この痴漢特有の認知体系は、生まれ持ったものではなく、痴漢を繰り返すことで強化される現実のねじれた捉え方です。このロジックで考えると、抑止バッジをつけた人からは『痴漢されたくないという主張』を読み取り、痴漢を未然に防ぐことができます」(前出・斉藤氏)

 また、斉藤氏は傍観者に働きかけるアイテムとして、痴漢抑止バッジは画期的なツールだと話す。車内にバッジをつけている人がいると、第三者の意識もバッジに向く傾向があるという。実際、利用者からは「抑止バッジをつけてから、近くに女性が立ってくれるようになった」という声も上がっている。

「被害者は声を上げることが難しい。痴漢抑止バッジのように第三者の意識を痴漢加害者に向けられれば、痴漢の抑止力につながります。これからの痴漢対策は未然に防ぐことや、傍観者を巻き込むことがポイントになっていくはずです。当事者と第三者に働きかける『痴漢抑止バッジ』は、ひとつの解決策を提示しているといえますね」(同)

 痴漢大国・日本の汚名を返上するカギは、電車に乗るすべての日本人を巻き込むことにありそうだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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