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IQOSの世界販売の96%を日本が占めた理由

2019年09月11日 06時00分更新

文● 岡田光雄(ダイヤモンド・オンライン

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IQOS(アイコス)やglo(グロー)、Ploom TECH(プルーム・テック)などをはじめ、愛煙家たちに人気の「加熱式タバコ」。その中でも、国内シェア70%程度を占めるアイコスを見ると、一時期は世界シェアの96%も日本が占めていたという。お上の締め付けも厳しくなり、タバコメーカーがいうほど無害というわけでもなさそうなアイコスだが、なぜ日本だけで流行っているのか。(清談社 岡田光雄)

加熱式タバコの
健康リスクは?

アイコスの喫煙風景
アイコスが日本で大ヒットした理由は、法律やタバコ産業のあり方など、日本特有の事情があります Photo:PIXTA

 加熱式タバコのイメージというと、読者の中には「紙タバコほど体に害がない」「受動喫煙に配慮できる」などと思っている人もいるだろうが、厚労省は「受動喫煙の恐れがある」との見解を示し、2020年に施行される改正健康増進法では加熱式タバコも規制の対象になる。一定規模以上の飲食店や施設では、加熱式タバコも原則禁煙となり、最低でも専用の喫煙ルームを設けなければならなくなるのだ。

 加熱式タバコとは、紙タバコのように葉に直接火をつけるのではなく、葉を加熱してニコチンなどを含んだエアロゾル(蒸気)を発生させる方式のタバコのこと。加熱式タバコはしばしば電子タバコと混同されるが、前者はタバコの葉を使っているのに対し、後者は使っていない。

『新型タバコの本当のリスク』(内外出版社)の著者で、大阪国際がんセンターの田淵貴大医師は、前提として加熱式タバコは健康被害をもたらす、と断言する。

「加熱式タバコのエアロゾル(蒸気)からは、紙巻きタバコと同様にホルムアルデヒド、アセトアルデヒドやアクロレインなどの発がん性物質や有害物質が検出されています。加熱式タバコから出る有害物質の量は、紙巻きタバコと比べて、少ない物質とそうでもない物質があり、有害物質の種類は同様に多い可能性が高い。もちろん加熱式タバコでも、受動喫煙の害はあります」

 加熱式タバコの健康リスクを巡っては海外でも議論されており、アイコスを提供するフィリップモリス社の本拠地であるアメリカでも、長らく販売することができなかった経緯がある(2019年4月末にようやく認められた)。

アイコスが日本で
成功できた理由

 こうした状況があるにもかかわらず、2014年という早期の段階で、日本とイタリアでは一部都市限定で販売が開始され、2016年に日本は世界で初めて全国販売されている。健康被害の研究が不十分な中、アイコスが世界に先駆けて日本で発売された理由について、田淵医師は次のように語る。

「予防原則にのっとり『安全性が確認されるまでは販売を認めない』とするべきだと思いますが、『健康被害が確認されるまでは販売してよい』というスタンスをとっています。また、実は加熱式タバコのアコードという商品は、アイコスが登場するよりもずっと前から市場に投入されていましたが、ほとんど売れず、財務省は『今回もどうせ売れないだろう』という見立てから、アイコスの日本での販売を認可した、という事情もあったかもしれません」

 その結果、アイコスの世界中の販売高の96%(2016年時点)を日本が占めた。現在でも世界シェアの80%以上を日本が占めている。現在、国内加熱式たばこ市場で、アイコスは約70%のシェアを獲得している人気ぶりである。

 アイコスが日本でのビジネスを成功させた理由を知るためには、まずは日本の制度やタバコ産業の位置づけに注目する必要がある。

 日本でのタバコの販売などは、「たばこ事業法」という法律のもと財務省が管轄している。たばこ事業法とは、「たばこ産業の健全な発展を図り、財政収入の安定的確保を目的とする」法律。つまり、税収確保のための法律だ。

「財務省の見立てとは裏腹にアイコスが売れてしまったため、当初はタバコ税の計算方法などもうまくバランスが取れない状態になっていました。しかし、アイコスが売れるとわかるや財務省は税制を変更し、新たな税収源を手に入れたのです。また、財務省とタバコ業界の癒着の問題もあります。財務省はJTの株式の30%以上を保有しているため、長きにわたって天下り先となってきました。両者がこうした持ちつ持たれつの関係にあることも、日本がタバコに対して“寛大”とやゆされる原因の一つになっています」

政界やメディアにも
影響力を持つJT

 こうしたJTの影響力は、政治の世界にも及んでいるという。

「タバコを吸う議員が多く在籍する『自民党たばこ議員連盟』などにも、JTは献金を行っています。日本禁煙学会は、2014年2月時点で、JTが自民党たばこ議連の役員に対して過去6年間で少なくとも1757万円を献金していたと明らかにしました。こうしたタバコ業界の意向を反映する議員たちの存在が、タバコ問題をより難しくしています」

 自民党たばこ議連には、2018年時点で衆参両院合わせ、約260人の自民党議員が所属している。

 もちろん、メディアに対しても、ぬかりはない。

「JTは、TBS、テレビ朝日、テレビ東京、フジテレビ、日本テレビなどに対し、継続的に広告費を投入しています。このことも影響し、メディアでタバコの健康被害などネガティブな情報が放送される機会は極めて少ないのです」

 さらに、JTの2017年の有価証券報告書によれば、広告宣伝費は244億1300万円、販売促進費は1122億1200万円にものぼる。こうした日本独自の事情が、アイコスが日本市場に容易に参入できた下地となっているのだ。

アイコス流行のキッカケを
作ったテレビ番組

 日本でアイコスが流行したキッカケのひとつは、「アメトーーク!」(テレビ朝日系)で2016年4月に放送された「最新!芸人タバコ事情」という回だった。

「この放送回では、人気芸人たちがアイコスを使うようになった理由やエピソードなどを面白おかしく話しました。私が調査したところ、その日を境に、インターネットで『アイコス』の検索数が劇的に増え、番組を見た人は見ていない人と比べて3倍以上もアイコスを使うようになったんです。実はこの番組が放送される10日前に、アイコスは12都道府県限定発売から全国47都道府県での販売へと拡大されたばかりの絶好のタイミングでした」

 こうしたタイミングの良さもあり、田淵医師は番組に「タバコ会社(フィリップモリス社)から何らかの資金提供があったのか」と問い合わせたところ、「資金提供はない」という回答だったという。

 世界の多くの国ではタバコの宣伝・広告が禁止されているが、日本では法律で禁止されておらず、業界が自主規制している。しかし、タバコ会社は新型タバコのプロモーションを積極的に展開しているようだ。

「たとえばアイコスは、パンフレットに大きく“有害性成分の量が90%低減”などと書いています。しかし、その隅に“ただしこれは病気になるリスクが90%減るわけではありません(意訳)”と誰も読まないような小さい字で注意書きがされていますが、正直そんな文言はほとんどの人が読みません。他のタバコ会社も、同じ戦略で加熱式タバコのメリットを訴えており、これによって多くの人が、加熱式タバコは健康への害が少ない、と誤解して、人気が出たという側面もあると考えられます」

 また、田淵医師は、アイコスブームの背景には、日本人ならではの気質も関係しているという。

「アイコスが出たころは、ローマ字表記が『iQOS』と『i』が小文字になっており、『iPhone』をまねしたのかと話題になりました。日本人の多くは新しいガジェットに関心が高く、このこともアイコスがはやった理由の一つと考えられます。それと、事実とは異なるのですが、タバコ会社が加熱式タバコは受動喫煙のリスクがないと宣伝したため、他人への害に配慮しなければならない、という空気感(社会意識)が生まれていた日本で受け入れられやすかったのだと思います」

 日本人の「和を以て貴しとなす」、言いかえれば「空気を読む」という国民性も、アイコスブームの要因の一つになっているのかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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