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荻窪圭の“這いつくばって猫に近づけ”第627回

写真で振り返る都市開発で消えた都会の猫スポット

2019年09月10日 10時00分更新

文● 荻窪圭/猫写真家

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港区虎ノ門五丁目……という住所とは思えない背景に猫が似合うのであった。わざとフェンスを前ボケとしていれて撮影。2014年4月 オリンパス OM-D E-M1

 赤坂とか六本木とか虎ノ門とか青山とか、まあそんなバリバリの都心部だけれども、1本2本裏の道路に入り込むと昔ながらの家が残ってたり小さな神社があったりして、それらは大通り沿いにびっしり並ぶビルが目隠しになってるせいでけっこう平穏だったりするのである。

 で、隠れた路地に猫はいる(こともある)のだ。2014年の4月、街歩き講座で10数人を引き連れて歩いたのち、おまけで飯倉から虎ノ門あたりを地形や歴史を楽しみながら歩き、せっかくだから愛宕神社を裏の参道から訪れようという話になり、国道一号線(桜田通り)から東へ一本はいった裏通りを抜けようとしたときのこと。

 住所は港区愛宕一丁目。バリバリの大都会であるが、大通りから1本奥にはいると古い昭和な住宅街で、そこに猫が2匹ちょこんと座ってたのである。

家を守るかのように2匹並んで座ってたキジトラと黒猫。奥のフェンスに「不法投棄禁止」とあるのがこのあたりの将来を暗示しているのだ。2014年4月 オリンパス OM-D E-M1

 そしてわたしときたら「みんなその辺でちょっと待ってて」といって、這いつくばって猫を撮り始めたのだから困ったものである。一緒に歩いてた街歩き仲間は笑いながら見てた。すぐ後ろにあるおうちの玄関の前に白い器が見える。きっとこの家の人が世話をしてるんだろう。

後ろにみえるおうちの玄関に白い器が。猫用の水飲み場になってたのだ。この2匹は飼い主が帰るのを待ってたのかも。2014年4月 オリンパス OM-D E-M1

 近づいても逃げようとしないのをいいことに、ぐぐっと近寄って撮らせてもらった。よいキジトラである。

カメラを向けたら興味深そうにぐぐっと身を乗り出してきたキジトラ。すごく人に慣れてた。もう一度会いたかったのだが半年後には後ろの家は布で覆われてたのである。2014年4月 オリンパス OM-D E-M1

 で、なぜこんなに出会った場所を詳しく書いたかというと、もうこの場所はないから。その半年後に訪れたときは、猫の姿は消え、猫の後ろにあった家にはカバーがかけられていた。その後この一角すべてが更地になり、高層ビルが建設され、たぶんまもなく完成する。実はこの辺、虎ノ門ヒルズを含む「都市再生特別地区」として大規模開発中なのだ。

 もうひとつ、地下鉄神谷町駅の近く、南に西久保八幡神社の高台、西に六本木一丁目の泉ガーデンスウェーデン大使館、東に愛宕山や東京タワーという台地に挟まれた谷地がある。「我然坊谷」という名で(ごく一部の地形好きに)有名な場所だ。

 ここ、高層ビルが建つ高台に囲まれた凹地で、古い家々がひしめきあっており、中にはいつ建てたのかわからないような木造アパートもまぎれていて、都心にこんな場所が残っていたとは! と誰しも目を見張るところだったのだ。西久保八幡神社の裏参道の急な階段を北に降りると、国道一号線から1本入っただけにもかかわらず、昼間でもうっそうとしてじめっとした古い空間が現れたのである。古い谷地ならではなのだが、周辺のビル街とのギャップが大きいのだ。

 その階段を降りてすぐの狭い路地に猫がいた。最初に出会ったのは2014年で、我々の姿を見つけるとささっとフェンスの奥に隠れてじっと見てたのが冒頭写真。2年後に訪れたときは猫が2匹いた。路地と一緒に撮るとこんな感じ。手前の緑の傘は猫の雨除け。ここに餌場があり、廃墟と覚しき木造アパートの玄関に「ここは住んでいた人の許可をもらって猫に餌をあげて世話してます」という内容の貼り紙がしてあった。

猫用の緑の傘がなんともいえない。このあたり、江戸時代には大きなお寺があった場所だ。2016年9月 オリンパス OM-D E-M1

 人があまり通らない場所なので、猫たちも気楽なのだ。わざわざ暗い裏参道の階段を使うなんて酔狂な人はそうはいない。もう周辺の廃墟化も進んでいたし。この2匹の後ろに見える暗いところに階段がある。それを上ると西久保八幡神社の境内に出るのだ。

人が減ってきたこの谷地。猫はまだ元気でいたが、どことなく寂しげな感じもする。2016年9月 オリンパス OM-D E-M1

 遠くからじっと見てたら仲良くじゃれあいはじめて微笑ましい。

フェンスの前でじゃれあう2匹。どっちも三毛で片方は色が薄いけど、たぶんどっかで血はつながってるんだろう。2016年9月 オリンパス OM-D E-M1

 やがて、1匹はフェンスの裏に隠れ、もう1匹は道路を塞ぐようにぺちゃっと座ってこっちを見つめてた。

フェンスの下から猫目線で狙ってみた。2年前と同じ猫、同じフェンスだ。2016年9月 オリンパス OM-D E-M1

 さてここの場所、さらに2年後くらいに訪れたら、猫の餌場所になっていたアパートはフェンスで囲われて閉鎖されており、2019年初頭には完全に更地に。そして6月にはこのあたり一体が封鎖されて立入禁止となったのである。猫がいなくなったどころか、路地自体が消えたのだ。

 あと何年かしたらここも「都市再生特別地区」として高層ビルが並ぶモダンな商業地区に生まれ変わるのだろう。 猫と出会った場所は具体的には書かないのがマナーだが、今回はその場所自体が失われてることもあり、もちろんすでに猫はおらず、以前この連載で掲載した写真とかぶってるカットもあるのだが、こういう場所があったんだよという記録を兼ねて詳細に書いてみた。

 変化し続けるのが東京の面白さでもあるのでそれをどうこう言うつもりはないが、ただここにいた猫たちもどこかで元気にしているといいなあとひそかに思っております。

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筆者紹介─荻窪圭


著者近影 荻窪圭

老舗のデジタル系ライターだが、最近はMacとデジカメがメイン。ウェブ媒体やカメラ雑誌などに連載を持ちつつ、毎月何かしらの新型デジカメをレビューをしている。趣味はネコと自転車と古道散歩。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジカメ撮影の知恵 (宝島社新書) (宝島社新書)』(宝島社新書)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『東京古道散歩』(中経文庫)、『古地図とめぐる東京歴史探訪』(ソフトバンク新書)、『古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド 』(玄光社MOOK)。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/


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