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カーナビを超えたAIカーナビアプリ誕生

LINEのAIとトヨタのナビシステムが融合した「LINEカーナビ」

2019年09月06日 15時00分更新

文● 飯島範久 編集●アスキー編集部

提供: LINE

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 2017年にトヨタとの協業を発表したLINEは、すでに、出発前にLINEから目的地をカーナビにセットしたり、現地の天気などの情報を得たりできる「LINE マイカーアカウント」という連携サービスを行なっている。そして、クルマとLINE連携の本丸である「LINEカーナビ」がついに登場した。今回は、LINEカーナビの開発に携わる3人にお話を伺い、機能面の紹介はもちろん、開発の裏話から将来の目標まで伺った。

 中村浩樹氏
 AIカンパニー Search&Clovaセンター
 Clova企画室 ClovaAuto企画チーム
 ──LINEカーナビのプロダクト全体統括。

 金景範氏
 AIカンパニー Search&Clovaセンター
 Clova企画室 ClovaAuto企画チーム
 ──ナビの部分の責任者。

 遠藤功佑氏
 AIカンパニー Search&Clovaセンター
 Clova企画室 ClovaAuto企画チーム
 ──SDLの企画担当とスケジュール管理を担当。

トヨタとタッグを組んだ理由とは

――今回Clova の音声AI機能が組み込まれたLINEカーナビが登場したわけですが、Clovaが家庭内だけでなくクルマへと世界を広げていった理由はなんでしよう?

中村 2017年にトヨタとClova事業の協業を発表しましたが、実はそれ以前の初期段階から、Clovaは家庭内だけでなく、クルマを含め日常のあらゆるシーンで使えるようにしていきたいと考えていました。中でもクルマでの利用は、運転中は手が使えず、音声インターフェースのニーズも高く、走行中でもインターネットが使えることで、事業としてのポテンシャルがあると判断していました。

――そのなかでトヨタと手を組んだ経緯は?

中村 トヨタのほうから、クルマのなかでスマホのサービスを使いたい、日常的に使うサービスといったらLINEということで、なにか一緒にできないかというお話があったことがきっかけになりました。トヨタが、資産であるナビのエンジンとSDL規格を広げていきたいというタイミングと、LINEがClova事業を始める音声インターフェースを日常の中に浸透させていくなかで、クルマは常々重要だと思っていましたので、お互いの思いが合致したかたちでした。

LINEカーナビの画面。スマホ向けアプリで、誰でも無料で利用できる

――これまでもカーナビは音声認識によって操作はできました。最近はグーグルやアップルなども車内に進出しています。競合との差別化は?

中村 確かに、昔からクルマのなかで音声操作するというコンセプトはありました。ただ、それが普及しなかったのは精度の問題や使い勝手の面が原因だったと思います。今回、われわれもClovaシリーズでClova WAVE、Clova Friends、最近はClova Deskを発表して、ずっと音声認識の技術を鍛えてきています。音声認識の精度、音声合成のクォリティというコアな部分が、差別化ポイントになると考えています。

――最新技術によって、音声認識精度の問題が払拭できるようになったと。

中村 Clovaの利用シーンを、まず家の中から始めた理由の1つが、外に比べれば騒音環境としては始めやすかったからです。そこで培ってきた技術により、走行環境での騒音でもかなり音声認識を鍛えているので、ユーザーに自信を持って提供できるようになりました。

――家の中とクルマの中とでは、騒音環境は違いますよね。そのあたりは苦労したと。

中村 走行ノイズと言っても一般道と高速道、軽自動車、普通自動車、雨が降っている・いないといった、さまざまなシチュエーションがあり、一言で騒音と言ってもたくさんあります。

車載機に表示させるための工夫

――トヨタ車の車載機との接続は、オープンプラットフォームのSDLを利用するとのことですが、そのあたりで苦労したことはありますか?

遠藤 接続そのものというより、UIの調整でしょうか。LINEカーナビは、スマホで操作するためのUIになっており、そのUIをそのまま車載機へ持っていっても成り立ちません。そのためいかに車中操作にフィットし、なおかつ運転中でもユーザーが安全に操作できることを目指して落とし込んでいきました。基本的には声で操作でき、アイコンは大きく、画面を極力タップしなくてもいいようにすることですね。また、車載機はスマホに比べるとパフォーマンスが劣るので、本来ならピンチイン・アウトで拡大縮小したいのですが、それをやると結構動作しづらくて、事故につながる可能性があります。そのため画面上に拡大・縮小のボタンを入れることで、直感的に操作できるようにしています。UIの落とし込みは苦労した部分であり、こだわりでもあります。

SDLを利用してLINEカーナビを車載機に表示したときの画面。拡大縮小や移動などもボタン化されている

――カーナビやクルマの操作は、ボタン一発で操作できるようにすることが多いですよね。ただ最近は画面を見るとスマホ的な操作をしてしまいがちです。

遠藤 そうですね。車載機上でユーザーが一番使いやすいUIとして、重要なものは基本的にボタンで操作できるようにしています。ただ、スマホとつながるアプリですので、スマホの機能が全く使えなくなるのは、フラストレーションが溜まってしまいます。ボタンはありつつも、画面をドラッグして操作することも可能にしています。

――動作的には、スマホ上で動かしているのか車載機上で動かしているのか、どちらなんでしょう?

遠藤 スマホ側で画面を作って、USBとBluetoothで接続し、転送して表示しています。ちょっとした反応の遅延が、致命的に効いてくるので、そのあたりの最適化を図っています。

――ということは、ナビ機能もスマホで動作して、車載機はそれを表示しているだけと。

 そのとおりです。SDLのデバイスと接続したときは、SDLデバイスに合わせた描画を行なっています。もちろん単独でアプリを利用する場合も考慮して、しっかり利用できるように、一般的なナビ機能は使えるようになっています。

――LINEカーナビを作る上で、ユーザーへの調査はしたんですか?

中村 そうですね。カーナビをやるのか決めるときに、ユーザー調査をしています。クルマの中でどんなサービスを使いたいか聞くと、やはりカーナビいう解答が一番多かったですね。ただ、カーナビはすぐに開発できるものでも無いので、やるべきなのか社内でも議論しました。でもど真ん中のユースケースはやるべきだという結論に達し、始めた経緯もあるので、そこに至るまでにユーザー調査はかなり行なっています。

――ナビの使い方自体も人それぞれだと思います。そのあたりはどう配慮していますか?

中村 非常に悩ましい部分ではありますね。やはりシーンによって目的が全く違いますし。私の想像も含まれていますが、例えば始めていく道ならも目的地までのナビをしてもらうでしょう。でも近場でのナビは、道はわかっているので渋滞情報により別のルートのほうが早く到着するといった判断を、すべてナビに委ねるという使い方もあるのかなと思っています。

――カーナビとしては後発となりますが、従来の機能でも変えたいものとかありますか?

中村 1つ目は渋滞情報の精度、到着時間の精度というのは、どのナビもあまり正確ではなかったりします。でも目的地に何時に着くのかという情報は、正確性が重要だと感じていました。もう1つは、ナビを開始するまでの簡単さですね。これまでのカーナビはクルマに乗ってから、重い腰を上げてこのナビを使うんだと言い聞かせながら使わなければなりませんでした。それを音声でナビを開始できるようにすれば、もっと気軽で使う機会が増えるのではと思っています。最後はナビをしながら、いかに他のサービスを簡単に使えるかです。

――ナビの使い方として、たとえば渋滞していたときに、「ほかのルートないの?」と言うと、違う道を案内してくれたりしてくれるとありがたいですよね。

 おっしゃるような機能にはすでに取り組んでいて、対応していきたいと思っています。このプロジェクトに関わっているメンバーは日々考えています。一番重要なことは安全ですが、シーンによってどういった発話があり、それに対してどういうレスポンスが期待されているか、分析しています。そのためにトヨタのナビエンジンにある、さまざまな機能の中から、どう組み合わせるのが最適かを考えています。現状ではまだ難しいのですが、将来的には自然にしゃべって、自然にナビが答えて、「道が混んでるね」というだけでも、第2、第3のルートがありますと答えられるようにしたいですね。
 ただ、いろいろと課題はあります。音楽を聞きながらとか家族がワイワイとしゃべっているなかだと、誤認識したりします。それらを克服し発した言葉をしっかり拾って、AI分析した結果からユーザーが欲しがっている情報を表示することが目標です。

――そうなるとユーザーがどういうように話すかわからないので、さまざまな語彙を登録しないといけないですよね。

 いままでも音声認識できるカーナビはありましたが、基本的には「自宅」とかよくある単語をきちんと喋らないと認識できませんでした。Clovaの場合は、自然言語に対応できるよう、日々学習しているので、「自宅」だけでなく「家」など、いろんな言葉を登録することなく学習して認識できるようになっています。単なる音声認識カーナビではなく、音声AIカーナビとして広めていきたいですね。

これまでにないLINEカーナビのこだわりポイントとは

 LINEカーナビは、スマホアプリとしてトヨタ車や車載ナビがなくても単独で利用できる。ナビの画面は奇をてらったものではなく、ごく普通のナビ画面と同様だ。起動するとホーム画面が表示され、よく行く目的地ならワンタップでルート探索ができるようになっている。もちろん、音声での検索も可能だ。

LINEカーナビのホーム画面。自宅や職場などよく行く場所を登録しておけば、ワンタップで現在地からのルート探索してくれる

中村 「ねえClova、京都駅までナビして」

Clova 「京都駅まで検索しました。目的地に設定しますか?」

中村 「はい」、これだけでナビがスタートます。

音声で簡単に探索して結果を表示。推奨ルートで自動的にナビが始まる

候補地が複数ある場合は、番号を言って選択する

――ルート検索は車載カーナビより断然速いですね!

中村 ルート検索には、推奨ルート、時間優先、距離優先がありますが、ルート検索後数秒間待つと自動で推奨ルートでのルート案内を開始するようになっています。こだわったのが、操作の簡単さや速さです。いくらハンズフリーといえ、音声での入力が手で入力するより遅ければ、みんな手で入力してしまい、安全にも支障をきたします。いかに簡単にするのかこだわっています。
 もう1つこだわったのは、ガイドするときのClovaの声の聞き取りやすさです。例えば交差点名は7万件以上登録されていますが、それをすべて自然な発話になるように1つ1つ調整しています。

――うわぁ!7万件以上ですか。

 声で録音したものを再生するのであれば、常に自然なものになりますが、Clovaは音声合成で発音するので、微調整が必要になってくるんです。なのでナビ中に交差点名を聞いたとき違和感を与えないよう、かなり努力しています。もし発音が不自然だという指摘をしていただければ、修正するようにする予定です。

発話のイントネーションを調整している音声波形。左が調整前、右が調整後。つながりやタイミングも変化しているのがわかる

中村 現状のカーナビだと、画面を見ることなく、注意をそらさないための音声なのに、交差点名のイントネーションがおかしくてツッコミを入れたくなるなど、逆に気になってしまったりします。ドライバーが気にならない読み上げをどう実現するのかにこだわっています。

――けっこう大事ですよね。

中村 アプリの開発と同時に、音声認識、音声合成に関しては、初期の段階からずっとやっていますね。そこが、一番時間がかかっており、これからも継続して改善を続けていく部分です。

 ナビ自体の開発期間より音声認識率を上げることにかなりの時間を割いています。音声合成に関しても、Clovaの既存の技術をさらにブラッシュアップさせていくことに時間を割いています。

音声だからこそできたカーナビの新たな使い方

――最近はカーナビも機能が多すぎて、操作も複雑になり、使われない機能も多い気がします。

中村 車載カーナビの多くは、階層式インターフェースですよね。でも、実は音声インターフェースは階層的な操作が苦手なんです。タッチ操作だと、どんどん項目を絞っていくように進むのは得意なんですが、音声では苦手なんです。逆に音声が得意なのは、ほとんど階層がなく、広い項目のなかからピックアップすることなんです。それをタッチ操作で実現しようとすると、たくさんのメニュー項目を画面いっぱいに表示する必要があり、非常に使いにくくなります。メニューを煩雑にすることなく、項目を足していけるのが音声インターフェースの大きな特徴だと思います。

メニューから目的地を選択するのではなく、音声により広い選択肢のなかから目的の機能を呼び出すのが音声インターフェースのメリット

――確かに階層的だと、聞いてきて、答えて聞いてきて、答えての繰り返しで面倒くさいですよね。

中村 そうなんです。それをいかに回避していくか。結果として、スクリーンに出ている機能はシンプルにして、音声で使える機能は豊富にしています。例えば、到着時間でも、「ねぇClova。あと何分で着く?」

Clova 「あと、4時間48分です」

中村 このように、画面だとこの時間をどこに出すのか悩むところですが、音声ならいくらでも答える情報を増やせます。あと、子供が後ろからあと何分で着くか知りたいときでも、「あと何分で着く?」と言えば答えてくれます。
 あと機能として一番ニーズが高かったのが、“今ここにいる”という情報を送ることですね。「ねぇClova、現在地を送って」。

Clova 「現在地を送信しますか?」

中村 「はい」

Clova 「現在地を送信しました」

中村 これだけで、あらかじめ登録したグループへ現在地を瞬時に送信してくれます。リリース時は、家族とか友人たちのグループへの送信のみ対応です。

あらかじめ登録したグループへ現在地と住所などのメッセージが瞬時に送られる。

 お迎えとかで、急遽場所を変更したいとき、待っている人から運転者へ送ったりして、コミュニケーションしながら会えるようになることを目指しています。普通にLINEのやり取りはできますが、特定のユーザーへ送れるようにはしていきたいですね。

――現状、届いたLINEのメッセージを読み上げる機能はあるんですよね。

中村 はい、例えば「ねぇClova、LINEを読んで」

Clova 「はい、●●からのメッセージです。“何時に帰る”」

中村 こんな感じですね。もちろん、搭乗者側から音声でメッセージを送ることもできます。

車中から送られたメッセージ

――メッセージが届いたら自動的に読みあげるという機能はないんですか?

中村 それが非常に迷うところなんですよね。どのタイミングで読み上げるのか。例えば、交差点内でハンドルを切っているときに読み上げると、運転の邪魔になってしまう。もっと賢くなればいいなと思っています。来たらすぐ読み上げるのではなく、聞ける状態のとき、例えばずっと直進しているときや、信号で止まっているときなどで、自動的に読み上げるということは、今後やっていきたいなと思っています。

――「誰からのメッセージです」とか言ってくれて、聞くか聞かないか取捨選択できるといですね。

中村 個別のメッセージに対応するときは、そういった対応をしていきたいと思っています。あと、Clovaで家電の操作もできるんです。例えば家に近づいたら「リビングのエアコンつけて」とか。ナビをしながら家の家電操作もできるようになります。

――さまざまな機能と組み合わせることで、カーナビとしての新たな使いみちが生まれてきそうですね。

中村 まずはClovaが搭載された音声AIカーナビとしてリリースされますが、将来的にはドライビングパートナーというコンセプトで、Clovaからいろいろな提案をしてくれるような、世界を作っていきたいと思っています。例えば、LINEカンファレンスで、もう一度挑戦しようとサーチ事業を発表しましたが、それと連携して、過去に検索をしていた店舗の近くをたまたま通ったとき、「以前調べたお店が近くにあるので行ってみますか?」と言ったような提案をしたり。ドライブをしながら新しい発見をユーザーに提供していけるといいなと思っています。

――最後にLINEカーナビが将来目指しているところとは?

中村 キチンと使えるレベルのものとして、クルマと会話する世界を作っていきたいですね。今は、Clovaにお願いして、何かをしてくれるという世界ですが、今後はClovaから人がやってほしいこと、オススメしたいことを働きかける。インターネットの体験、人からコンピューターという体験をコンピューターから人、AIから人への方向を作っていきたい。LINEカーナビとしてはもちろん、Clova全体としてそういう体験を作ることで、スマホで築き上げてきた10年間の体験とは全く違ったものになるのではと思っています。

――クルマとの会話と言えば、おじさん世代だともっとも思いつくのが、米ドラマの「ナイトライダー」なんですよね。知性をもったクルマ「ナイト2000」に搭載されたK.I.T.T.が、やはり理想的な姿なんですよね。ぜひ、野島さんの声で実現してほしい。

 いろいろな人から10回以上聞かれています(笑)。私も見たことはありますし、結構目指している世界は近いと思っています。音声を変えるといったことは、今は考えてはいないのですが、そんなに難しいことではありません。ただ、まずはカーナビとしての本質をしっかりと開発し、そういった面白さは、その先に注力していきたいですね。まったくやらないというわけではありません(笑)。

中村 Clovaにはチャットの機能が搭載されているので、雑談みたいなことは今でもできるんですよね。クルマとしゃべるというのは理想ですね。

――アドオンとかで提供されたら、めちゃめちゃ課金されると思いますよ(笑)。

 実は、ナイトライダーについては、ジェネレーション・ギャップがあり、開発陣の中には知らない人もおり、あまり盛り上がれないのだとか。いやいや、クルマ好きなら必ず一度は通る道である「ナイトライダー」は、全話ブルーレイが発売されているのでぜひ見ていただきたい。LINEカーナビが目指そうとしている世界がそこにあるはずだ。

 ドライビングパートナーを目指しているLINEカーナビは、スマホアプリとして誰もが無料で利用できる。音声でのカーナビ操作がどれほどのものなのか、ぜひ自らの声で試してみてほしい。

(提供:LINE)

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