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謎多き「北朝鮮レストラン」とは?国連制裁で年内にも全滅か

2019年08月29日 06時00分更新

文● 筑前サンミゲル(ダイヤモンド・オンライン

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日本では見ないが、実はアジア各国には「北朝鮮レストラン(北レス)」が存在する。北朝鮮が外貨を稼ぐために営業しているといわれる店だ。国連制裁の影響で、年内にも全滅するといわれる北レス。一体、どんな店なのだろうか?

今年中に全滅か
謎多き「北レス」とは

バンコクの北朝鮮レストランの外観
バンコクの北レス旗艦店「ヘマジ館」。その経営実態は謎に包まれている Photo by San Miguel Chikuzen(以下同)

 近くて遠い国「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)」の報道を見ていると、北朝鮮は、閉鎖的で孤立した国のように感じる人も多いと思う。しかし、実際には北朝鮮は162ヵ国(2017年2月時点)と国交を持っている。韓国と北朝鮮の南北両方と国交を持つ国が世界では大半なのが現実だ。

 そんな北朝鮮をほんの少し垣間見ることができる場所が北朝鮮レストラン(通称、北レス)だ。中国を中心としたアジアの主要都市で最盛期には130店(中国に約100店)ほどが営業していたが、2018年1月、国連制裁の履行により半分ほどが閉店した。現在は、50~60店ほどの北レスが生き残っている。

 残る北レスも国連制裁(国際連合安全保障理事会決議第2397号)により2019年12月末、つまり今年の年末で全滅する可能性が高い。なぜなら、同2397号によれば、海外で就労するすべての北朝鮮労働者を年内に帰国させる必要があるからだ。

 そもそも北レスとはどんな店なのか。

 北レスは、表向きは、北朝鮮の食文化や芸能、音楽などを外国へ紹介することを目的に、北朝鮮の船舶や貿易会社、ホテルなどが現地企業と合弁で経営するレストランとされるが、実際は、各国にある北朝鮮大使館や領事館が運営に深く関与しており、外貨獲得の貴重な収入源となっている。

 現在は、国連制裁で合弁企業が禁止されているので、現地ローカル企業が単独で北朝鮮人スタッフを雇用して運営していることになっているが、経営実態には謎が多い。

AKB48や松田聖子を
楽しめるバンコクの北レス

 2018年、東南アジアでもっとも多い166万人の日本人が訪れたタイ。その首都バンコクは、在留邦人10万人を超える。世界屈指の日本人が生活する大都市だ。

 そのバンコクに北レスが2店。さらに、バンコクから車で3時間ほどのタイ最大の歓楽街パタヤにも1店あり、タイには計3店の北レスの営業が確認できる(7月末時点)。

 タイは北朝鮮と友好的な関係を持ち、同時に韓国とも友好的な関係を維持している。北朝鮮にとってタイは友好国なので北レスも安泰かと思いきや、国連制裁強化の影響とみられる変化がタイでも始まっている。

北朝鮮スタッフの帰国で中断している玉流レストランでのステージショー

 国連制裁強化前の2017年末には、4店あったタイの北レスは、2018年春に1店減らし、さらに今年春には、中心街の便利な場所にある「玉流レストラン」の北朝鮮人スタッフが帰国。現在は、韓国語を話すタイ人スタッフが接客や調理をしている。滞在ビザが更新されなかった可能性がある。

 バンコクにあるもう1店の北レスは、タイの旗艦店である「ヘマジ館」。同店は、BTS(都市高架鉄道)プロンポン駅から1.5キロくらいの場所にある。このエリアは、日本人が多く居住していることから、日本人客をターゲットにする世界で唯一の北レスだ。

 この店の北朝鮮人の女性スタッフは、常時4~5人いるが、半分以上が日本語を話せる。日本語を流暢に話せる北朝鮮人スタッフがいる店は、世界でもヘマジ館だけだろう。

 北レス最大の魅力は、定期開催されるステージショーだ。正直、ステージショーがなければ、北レスは、中級韓国料理店並みの価格なので、ただの高いレストランとなる。タイの北レスの予算は、1人500~600バーツ(約1700円~2040円)くらいからである。

ヘマジ館のステージショーではAKB48の楽曲を日本語で歌い上げる

 ヘマジ館のステージショーは、他の北レスではまず披露されることがないAKB48や中島美嘉、客層によっては松田聖子などの楽曲を見事な日本語で歌って踊りを披露したりする。AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」や「365日の紙飛行機」を北レスで歌うのは世界でもここだけだろう。

 同店のステージショーでは、日本語と朝鮮語の楽曲が半々くらいで上演されることが多く、他には伝統楽器演奏や寸劇を披露したり、お客と一緒にY.M.C.A.で踊ったりすることもある。

幻の北朝鮮ビールが
タイの北レスに登場!

 さて、年内消滅が懸念されるバンコクの北レスは、さらなる利益をあげるために、先月からあるものをタイに初登場させた。

北朝鮮本国版の大同江ビール。輸出版は500ml瓶でラベルには中国語が併記される

 それは北朝鮮が誇る大同江(テドンガン)ビールだ。大同江ビールは、2002年から生産を始めたビールだが、今や北朝鮮を代表するビールブランドとなっている。

 今年7月、日本で大同江ビールを中国から不正輸入して「ヤフオク」で転売したとして中国人の少年が書類送検され話題となったが、現時点で、同ビールは唯一、中国へのみ輸出されている。

 そのビールがヘマジ館に登場したのだ。しかし、中国以外への輸出は確認できず、ラベルを確認すると朝鮮語と中国語との併記が確認できるので、中国へ輸出されたものをハンドキャリー等でタイへ持ち込んでいると推測される。

 現在、中国では、同国最大のECサイト「淘宝網」などから1本18元(約270円)程度で購入することができる大同江ビールを、10ドル(約1060円)相当で販売しているので、利幅は大きい。

 ヘマジ館の3階にはカラオケが楽しめる個室があり、日本企業の接待などにも使われている。

「個室のチャージ料は1000バーツ(約3400円)なので、日本からの出張者の接待にたまに使っています。日本では経験できない空間なので、お客さんにも好評です。北朝鮮の女のコたちは、たまに一緒に歌ってくれたりもするけど、ずっと横にいるわけでもなく、ちょうどいい距離感なので使い勝手がいいんですよ」(日系メーカーの日本人男性)

大同江ビールが
飲める他の北レスは?

 タイに初登場した大同江ビールであるが、実は、周辺国の北レスではすでに提供されている。

 ベトナムのハノイ、ラオスのビエンチャン、カンボジアのプノンペンなど、いずれも1本10ドルほどとローカルビールの2、3倍の高額となっている。

 在庫は、数本レベルではなく、そこそこあるようなので、各国への持ち込みは、ハンドキャリーだけでなく、旅客機利用者が個人の私物として手続きする旅具通関などで大同江ビールを持ち込んで利益を稼いでいると見られる。

 北朝鮮にとって、北レスは重要な外貨収入源のため、全店閉鎖は避けたいはず。北レス存続のためにも、年内中の制裁緩和や解除を求める動きを加速させると推測される。6月30日、世界を驚かせた板門店での3回目の米朝会談に応じ、交渉継続を表明したのは、北朝鮮の体制や経済へ国連制裁が確実にダメージを与えていることからくる焦りともいえるのではないか。

(筑前サンミゲル/5時から作家塾®)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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