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電力1年分を売買する新市場の初取引が「低調」に終わった理由

2019年08月28日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,堀内 亮(ダイヤモンド・オンライン

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グラフ
Photo:Kanok Sulaiman/gettyimages

約定量は年間販売電力量の1.3%、「高い」と新電力は不満

 絶望的な未来を暗示しているのだろうか。

 大手電力会社の石炭火力など安定的な供給力を持つ「ベースロード電源」の電力を取引する「ベースロード市場」が創設早々、低調な取引となった。創設者である政府の目論みは大外れしたのである。

 ベースロード市場は、2016年4月に始まった電力小売り全面自由化を中心とする電力システム改革の一環で、この7月に創設された。

 電力小売り全面自由化で新規参入した「新電力」のほとんどは自前の発電施設を持っておらず、商品である電力をいかに安く仕入れるかが勝敗のカギとなる。既存の大手電力は石炭火力や原子力など、安価で安定的に発電できるベースロード電源を持っており、圧倒的に優位だ。

 ベースロード市場は、新電力が大手電力から石炭火力や原子力などベースロード電源の電力を仕入れるための仕組みで、公平な競争環境を整えることを狙ったもの。大手電力がベースロード市場に供出する電力量も定められている。

 新電力が電力を調達する主な手段としてはすでに、ベースロード市場を管轄する日本卸電力取引所(JEPX)の中にあるスポット市場があった。

 このスポット市場は価格の乱高下が激しい上、特に2018年度は猛暑や厳冬の影響で価格が高騰。スポット市場に依存する新電力は瀕死の状態に追い込まれていた。

 翌日の30分単位の電力を取引する従来のスポット市場とは違い、新設のベースロード市場は基本的に1年分の長期契約だ。価格が乱高下するスポット市場は不安定であるため、多くの新電力は固定した価格で電力を調達できるベースロード市場が一種のヘッジ機能になるとして期待が寄せていたはずだった。

 ところがスタートしてみると、売買は全く盛り上がりに欠けた。2020年度の受け渡し分を対象とした初取引の約定量は合計18万4300キロワットで、新電力の2018年度の販売電力量のわずか1.3%にとどまった。2020年度受け渡し分は、残りは9月と11月に入札が行われる。

 新電力はなぜベースロード市場で買いに走らなかったのか。

従来のスポット市場と比べて
大差なく期待外れ

 2018年度でスポット市場に依存し過ぎて経営を悪化させた新電力は、スポット市場の依存度を下げ、大手電力と直接、相対契約を結び始めていた。

 新電力がベースロード市場で買い付ける際、スポット市場の価格はもちろん、相対契約などの価格も判断材料になった。

 ベースロード市場の初取引での約定価格は1キロワット時あたり12円~8円台。スポット市場の年間平均とほぼ同等だった。大手新電力幹部は「相対契約だったら、(ベースロード市場の)この価格は絶対に納得しない」と憤る。一部の新電力からは「5円前後が妥当」としており、期待したレベルに遠く及ばなかったのである。

 確かに電源の固定費が含まれずに約定価格が決まるスポット市場と違い、固定費も含んだ上で売り入札価格が提示されるベースロード市場は、必ずしもスポット価格より安くなるわけではない。

 しかし別の新電力幹部は「今は電力需給が緩んでいて、電力が余っている状況。それでベースロード市場がスポット市場と同等レベルなのは解せない」と首をかしげる。

 では、なぜ相対契約と拮抗する価格にならなかったのか。石油トレーディングの経験を持つ総合商社関係者は「電力取引市場が機能するために必須の3要素、取引の透明性、多様性、流動性が欠けている」と指摘する。

 売り手は大手電力十数社に対し、買い手は新電力約150社。「売り主が大手電力のみで、一種のカルテルに近くなる」と電力業界関係者は言う。

 取引価格の妥当性などベースロード市場の取引を監視する電力・ガス取引監視等委員会がその役割を果たさなければ、ベースロード市場は機能しないということだ。

 電力小売り全面自由化の公平な競争環境が整うには、まだ時間がかかるだろう。それまで新電力は生き残っていられるだろうか。

(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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