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「夏の甲子園」の猛暑対策がスゴイ!現地で見た高野連の情熱と執念

2019年08月27日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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甲子園のミスト噴霧器
甲子園球場に導入されたミスト噴霧機 Photo:JIJI

 猛暑の中で『夏の甲子園』全国高校野球選手権が開催された。今年も熱戦が展開され、多くのファンを集めた。

 気象庁が「災害的」と形容した昨年の猛暑をきっかけに、夏の甲子園を見直す議論が巻き起こった。長く高校野球の取材に関わってきたスポーツライターにとっては、こうした議論が起こること自体が画期的で、歓迎すべき潮流だと感じている。

 今年は本大会前から、とくに大船渡高・佐々木朗希投手が岩手県大会決勝戦に登板しなかったことから、「球数制限」や「日程の見直し」の議論が社会的な出来事になった。

 私は、危険な猛暑を避けて秋に開催時期を変えるべきではないか、といった提言もしてきた立場だが、議論が白熱すればするほど、「高校野球は真夏にやるから意味がある」「甲子園でなければ高校野球じゃない」といった意見が、一般の人々の間にも根強いことを痛感させられた。それは、日本高野連の方針というより、日本国民の願いにも似た感情なのだと感じた。

 そうした状況下、実際に夏の甲子園の暑さはどのようなものか、猛暑から選手や観客の身を守る方策がどのように採られているのか、現場を見に行った。

高野連が水を用意、送風機&ミストも
体調不良の選手は昨年の半分に

 出かけたのは準決勝の当日。前夜からの雨で試合開始が1時間延び、それまでの猛暑はやや収まったかに思える日だったが、天候が回復し、空に太陽が輝くとやはりタオルを頭から被らないとスタンドに座っていられない厳しい暑さに見舞われた。

 その甲子園で見たのは、想像を超える、日本高野連の取り組みと努力だった。

「今年は、昨年よりさらに暑さが厳しかった。けれど、不調を訴えた選手の数は昨年より半減しました」

 そう教えてくれたのは、日本高野連の田名部和裕理事。すでに一線を退き、運営の中心は後進に譲っておられるが、50年以上にわたって日本高野連事務局の中枢で活躍されてきた人物だ。

 体調不良が半減したのは偶然ではない。暑さ対策を徹底し、実効を上げたからだと分析している。例えば、

「試合中、水を飲むように助言し、足りなくなった場合のために、高野連がスポーツドリンクや水を用意して各チームに提供しています。けれど、試合に集中して、どうしても飲み忘れる選手がいるんですね。これを防ぐため、選手の数だけコップを用意し、コップに背番号を書き込んでベンチに提供するようにしました。守備から戻った選手は必ずこの水を飲む。番号が書いてありますから、飲んでいないと、誰かすぐわかる。こうして水分補給を徹底したことも、熱中症予防に役立ったと思います」(田名部理事)

 ベンチ裏にある“素振り部屋”には、大型の送風機が設置され、ミストを噴霧するスプレーも置かれていた。送風機の前にミストを撒くと、冷たい風が充満し、体が心地よく冷える。

 さらにその奥にはトレーナールームがあり、たくさんのペットボトルに水を入れ、氷で冷やす作業を理学療法士たちが行っていた。

「手のひらを冷やすと、体全体の熱が下がって、熱中症予防に効果があるとわかったので、これを選手たちに提供しているのです」

 見ると、ペットボトルはツルンとして表面に凹凸がない。

「ペットボトルを手のひらに当ててクルクルまわす。冷やしやすいように、表面が平らなペットボトルをわざわざ取り寄せたのです」(田名部理事)

 試合中、ベンチにいる選手たちは、この冷やしたペットボトルを手に当て、体温の上昇を防ぐ。これも効果を上げた一因だという。

観客の体調管理対策も充実
クーラーを増設、避暑室も完備

 甲子園球場は、今年28台のクーラーをスタンドの通路に増設し、観客の体調管理にも配慮した。プロ野球の阪神戦のときは喫煙室になるスペースも、高校野球で「避暑室」として確保し、開放されている。しっかりと冷房を施し、暑さで具合が悪くなりそうな観客にはここでゆっくり休んでもらう。

 さらに、応援団にもバケツ大の容器に水を入れたミスト噴霧器が提供されていた。応援を引率する各校の引率教員たちにこれを渡している。

「イニング間にできるだけ応援の生徒さんたちにかけてもらうようお願いしています」(田名部理事)

 試合前、通路下の控え室で本部役員と両チームの応援責任者が打ち合わせをする光景も目にした。それは、応援の生徒や家族、OBたちの体調を守るための入念な助言と役割分担の確認だった。

 攻守交替のタイミングで、ミスト噴霧器を持った教員がアルプススタンドの階段を昇降しながら応援団の頭上からミストを噴霧する。そのたび、涼しい歓声が沸きあがる。まさに「一服の清涼剤」ともいえるこのミストがイニングごとに降ってくるかどうかで、心理的にも大きな違いがあるだろう。

試合後の選手たちは
理学療法士の指導で入念にストレッチ

 暑さ対策だけでなく、選手の障害予防の取り組みも、想像以上だった。

 テレビ中継を見ていると普段、試合が終わるとまもなく、通路の一角に置かれたお立ち台で勝利監督や主将らのインタビューが行われる。報道陣が取り囲む光景はテレビでも見慣れているだろう。だが、この共同会見が終わった後、そこで何が始まるかまではテレビではほとんど報じられない。

 選手たちは全員、すぐ向かいの控え室に集まり、日本高野連が委嘱した理学療法士の指導で約20分間、ストレッチをして、戦い終わった体の手入れをするのだ。さらに、登板した投手たちはみな、野手とは別に、理学療法士から肩や肘のチェックと肩甲骨などのストレッチを受ける。

 日本高野連は、ここまで選手の体のケアに気を配り、自ら責任を持って取り組んでいる。各チームに任せているとばかり思い込んでいた領域まで責任を果たそうとする姿勢に、正直驚き、敬服した。

 選手たちがこうしたケアを終え、整列して球場を後にしたのは、次の試合が序盤戦を終えたころだった。

「暑い中でやるのが当然」と思わず
甲子園の取り組みを全国に伝えるべき

 こうした光景を目の当たりにして、「高校野球の全国大会を、夏に、甲子園で、やる!」、日本高野連の情熱と使命感、執念の凄みを感じた。伝統を受け継ぎ、守り抜くために、あらゆる努力を惜しまずにやっている。

 私は、昨年春まで少年野球、そして中学硬式野球の指導に約10年携わった経験から、猛暑の中で夏の甲子園が行われる影響は高校野球以外のところにも及んでいると実感している。高校野球の晴れ舞台が夏の甲子園だから、そこに憧れる少年野球や中学野球もまた、「暑い中でやるのが当然」と了解されている。この点は、協議と対応が必要だと思う。

 甲子園のように、万全な対策が行えるグラウンドばかりではない。小中学生の野球は、給水施設も万全ではない、日陰も十分にないグラウンドで行われる場合もある。

 そんな中でどう配慮し、どんな暑さ対策を採れば安全が確保できるか。甲子園の取り組みを、全国津々浦々の少年野球の指導者や父母にまで伝える努力も大切だろう。

 また、こうした対策が十分に取れない環境では、一定の暑さを超えたら野球を中止するなどの指針の徹底も必要ではないだろうか。

 その上で、夏に甲子園で野球をすることの意義を改めて共有する大切さを考えさせられた。

 見る側のセンチメンタルや感傷のためでなく、主役である高校生たちがそれを望み、高校球児にとって重要な意義があることを前提にしなければならない。その意味では、「伝統だから」「いまさらその意義を言葉にする必要はないだろう」という曖昧さでなく、時代とともに変わる暑さや環境の中で、「今年、夏、甲子園を目指す意味」をその都度、選手たちが自ら見出す姿勢も重要だ。

 やらされるのでなく、主体的に野球をやる、それが何より根底にあるのは重要な前提だろう。

(作家・スポーツライター 小林信也)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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